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smashing! あめのなかのこども

佐久間イヌネコ病院。今週はずっと雨が続いている。

雨の日は病院を訪れる患畜は少ない。その分晴れた日にはけっこう混んでしまうのだが、飼い主もペットも冷たい雨の中出掛けるより、こんな日はじっとしてたい気分なのかもしれない。

きっちり定時に上がれるので、家の中の片付けも捗る。後回しになりがちな倉庫や書庫、各の部屋など。入っちゃ駄目、とは全然言われてない。だけど勝手に入るわけにもいかない部屋。喜多村はそんな佐久間の部屋に堂々と入れて、ちょっとだけ浮ついていた。当たり前だけど、佐久間の匂いがする。置いてある物も彼らしく、小さなオブジェがひっそりと肩を寄せ合っている。ミニカー、埴輪、京都タワー……? カエル、赤べこ、瀬戸大橋……?所々に名所が挟まれている法則が読めない。

「名所の置物、鬼丸好きなんだ?」
「あ、いや…兄さんのお土産。前はもっと沢山あったんだけどね、欲しいって人いて」

鬼丸所蔵のお宝を奪った奴恨めしい前に出ろ、とも言えず今は黙って片付けに専念する。ふと見れば、本棚で主張している分厚い背表紙。アルバムの気配。これは見てもいいやつなんだろうか。アルバムを凝視して動かない喜多村に気付き、いいよどれ見ても。苦笑する佐久間。お許しが出た途端膝の上にアルバムを広げる喜多村。(手伝いは?)
予想はしていたが佐久間の幼少期からの成長記録だけあって、とんでもない破壊力。小さいの。中くらいの。大きいの…お宝画像ですよお宝。喜多村は震える指でページを捲っていく。ふと、その中の一枚が喜多村の目に留まった。
雨の中、傘を差した子供達が楽しそうに集っている。ぽつんとその輪から外れ、目線を遠くに向けて映っている小さな彼。その表情は自分がよく知る佐久間のものだった。まだお互いの全てを知らずに居た、あの頃と同じ。

こんな小さな頃、から。

ね鬼丸これ貰ってもいい?それ?どうせだったらこっちのアップのとかにしたら?佐久間は勧めてくれるけど、俺はこれがいいんだ。喜多村はその一枚を大事そうに手に取る。この顔は、俺だけが知っていればいいんだ。この先ずっと。その先もずっと。

佐久間に気付かれてしまわないよう、小さな彼の姿を、そっと指先で辿る。微かな雨音が、春雷と共に遠ざかっていく気がした。



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