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smashing! せんせいのごさん

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の二人が働いている、佐久間イヌネコ病院。水曜は朝診のみ。

二階住居。
この建物に転居してきて初めて、先日、住居部分の大がかりなリフォームを行った。元々佐久間の一人暮らし仕様になっていたのと、喜多村の永久就職もガン決まりな今、なにかと手狭になっていたからだ。

ここに来た当初から床を隙間無く覆っている数枚のペルシャ絨毯は、結城と懇意にしている金鳥不動産社長から貰ったもの。ちょっと型落ちだったんで差し上げます。そういってくれた社長は結局値段を教えてくれなかった。
キッチンは床の張り替え。バスルームは思い切ってこれもリフォーム。シャワーの水圧が強くなったので強シャワー好きな喜多村が大喜びしている。これであのへんにあてると気もち…の続きは佐久間の羽交い締めにより聞き取れず。
書庫というのは名ばかりの倉庫と、これまた倉庫と言うより…な部屋を一体化。けっこうな広さの主寝室にビフォーがアフター。それにより広いリビングをパーテーションで分け使っていた仮寝室は撤去。カッシーナのソファーを含む家具なんかは、同じく社長から譲ってもらえた。ちょっとバラつきはある、だけどかえって味があって雰囲気おサレな感じの雑貨屋風モダンテイストリビングが出来上がったのだった。なんか落ち着かない。

今回の目玉は、主寝室。

「…ベッドの存在感な。部屋半分占拠された」
「…業者さんの顔見れんかったがん。やらしいもんで(気恥ずかしいので)」
「大丈夫。俺が大柄だからだって言っといた」

佐久間の方言が出るのは楽しいときかリラックスしてる時。または激しいテンパリにより理性が崩壊した後。佐久間は黙ったままこっそりテンパり、そして頑張って自己修復を行っていたのだった。本人は気付いてないが、その間の百面相ときたらホントに面白い。喜多村はニヤつきながら佐久間を観察するのが大好きだ。

「さ、早速お試ししようか!」

ベッドに寝そべって手招きする喜多村。寝具売り場ちゃうねん。顔もスタイルも最上級なもんだからこういうのがシャレにならんのだよお前は。ほら、干すからどいて。佐久間はガン無視で掛け布団を引っ張るが喜多村はビクともしない。佐久間が一瞬たじろいだ。その隙を見て喜多村が佐久間の腕を引っ張り、懐に抱き込む。

「確保!」
「おま…せっかく新しいやつなのに…」
「すっげ寝心地いいよな。最高」
「マットレス拘ったもんな千弦」

佐久間に抱きついたまま喜ぶ喜多村。暫くして佐久間が気付く。喜多村が微かに寝息を立て始めたことに。新しい寝具というのは、即ラリホー掛かるように設計されている。体感。
寝入った喜多村の頬をそろりと撫でる。長い睫毛が影を落とす。ちょっと痩せたかもしれない。思ってたより疲れていたのかもしれない。じっくり顔見るなんてなかったからな。佐久間は喜多村を起こさないようそっと腕を解きベッドを後にする。

昼ご飯も過ぎてしまったから、喜多村が起きたら昼夜兼用でご飯食べないと。このまま暫く寝かせてやれば魔神も復活するだろう。
起きてきたら簡単に出来そうな…ネギチャーハンと簡単な卵スープ、決定。こんなとき献立考える時間は平均2秒。佐久間はキッチンに立ち、支度を始める。

一人用のセミダブルが倍近くに変貌を遂げることもある。数ヶ月前まで想像もしてなかった幸せな誤算が、佐久間の心の中で踊るように、ひらひらと姿を変えては煌めいているのだった。




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