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smashing! あじみともえのそのあいだ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
お彼岸の後半。来週の月曜日まではお休みとなります。

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「あ、そうやると早いんだ!」
「このね、サヤのとこをねこうよ、ついっといくんよ」

今週いっぱいは休日。佐久間と喜多村は思いついたことをしてゆっくり過ごそうと、まずは、忙しい時でも役に立ってくれそうな常備菜なんかを作り置くことにしたのだ。
ちょうど家にいた伊達と一緒に、佐久間は塩茹で&豆ご飯用エンドウ豆をサヤから外す。リビングのソファーに向かい合わせで座ってちまちまと、一心に。

「なんかさこれ修行みがある…」
「ん。あと賢者タイムぽいんよね」

伊達は今週、本来ならば雲母宅に滞在しているはずなのだが、急な実家の用事で設楽が、白河弁護士絡みで雲母がと、それぞれ不在に。なんか寂しいから泊まらせてえ。伊達は限定ビール6缶パックと設楽秘蔵の久礼を手に佐久間家にやってきたのだ。

佐久間はエンドウ豆でいっぱいになったボウルを手にキッチンへ。ありがとな、そこ置いといて。喜多村はちょうど生ハムをスライスしていた所。右手、長い指先が繰る包丁。その逆の手は佐久間のお気に入りの「ねこちゃんの手」。何気に声なんか掛けながら、喜多村に気付かれないようその手を存分に凝視した佐久間は、冷蔵庫から伊達の持ってきた缶ビールを2本手にして、満足げにリビングへ戻る。(かわゆ)

「おつかれ伊達さん、さっきのビールでよかったよね?」
「…ね佐久間、その顔はひょっとして…あれ見た?」
「?何のあれ?」
「あれよほら、千弦の」

包丁持つ逆の手が、ゲンコツなっちゃう癖。

佐久間は心底驚いていた。喜多村のあの「ねこちゃんの手」に伊達までが「萌え」ていようとは。そんな心の琴線に触れるような繊細な部分のまさかの一致。いや、伊達も相当なロマンチストで更にスパダリだから何があっても不思議ではないのだが。

「えっ…伊達さんいつから知って…」
「ああ、大学んとき千弦が飯作った時あったじゃん、学祭かなんかで」
「あ、俺ら一緒のグループになった時の」
「そうそう!あれ笑ったりしたらもうやってくんないと思って、ずっと黙ってたんよ俺」

これまで自分だけが知る秘密だとばかり思っていたことが、その秘密を当然のように理解し知る者がいる。意味合いが同じなら尚更、共有する楽しさも倍になる。佐久間は手にした缶ビールを伊達に手渡しながら、何とも照れくさいような擽ったいような感情が押し寄せていた。そんな佐久間の気持ちを知ってか、伊達が囁くように言う。

「俺、これまでの人生でフラれたん、千弦だけなんよね」

だから、佐久間は俺の中である意味最強なの。缶ビールのプルタブに指先を引っ掛け、伊達が笑う。
プシッ。すると軽い音とともに勢いよく吹き出す中身。ア”ア”ア”ア”…声にならない声が発せられ、ソファーや床には被害はなかったものの、向かいに座っていた佐久間の顔面にビールがモロに掛かった。

「アーーーごめえん佐久間!待ってちょっと拭くからっ」

伊達は慌てて佐久間の側まで行き、そのへんの台拭きで佐久間を拭く。ああよかったほぼ泡だったわ。あらビール臭いん。佐久間の丸出しになった額に唇で触れ軽く音を立てる。そのうち伊達の舌がゆるゆると顔の輪郭を辿り始めた。

「んん、佐久間とビールって合うねえ」
「…プッ…伊達さん何それ」

低く笑いながら近づく唇が合わさるまさにその瞬間。二人はあらぬ気配を感じ振り返った。そこにはどう見ても下半身は臨戦態勢、なのにフェイスは爽やかなままの「喜多村大魔神」が立っていた。

「ち、違うの。これは違うんよちぃたん」
「千弦俺ビール掛かっちゃったやつを拭いてもらっててそんで」
「…続けて♡」

喜多村の手には見覚えのあるビデオカメラ。見た目上半身下半身の意思の疎通が全くなってない喜多村が、静かに微笑みながら言った。

「雅宗先輩が遊びに来たら全部録画して欲しいって、俺頼まれたのよハルちゃんに♡」
「ヒィ♡」
「伊達さんなんかすごい…嬉しそう?」

俺って何があってもなくても、ほぼ毎日お仕置きされてるんよね…。諦めなのかはたまた恍惚の表情なのか、それでもちゃっかりと佐久間に抱きつきながら、伊達はやはり幸せそうに喜多村のビデオカメラに向かい、唇で啄むように軽く音を立てた。


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