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smashing! かれらのアスタリスク

佐久間イヌネコ病院。診療を終えた午後7時。

本日、佐久間は朝から遠方での急な往診に出掛けた。
それで朝イチでいつもの理学療法士・伊達雅宗にヘルプをお願いするも「流石に昼過ぎる。でも絶対行くからそれまでなんとか繋いどいて!」芸人か、なリアクション。運の良いことに午前中は薬と爪切りだけで済んだ。昼過ぎから伊達が無事到着し、喜多村は事なきを得たのだ。

診療後、佐久間から「ごめなんかすっげ持てなされてるご馳走されてる悪いから食べてくから遅くなるごめ」句読点なしのノンブレスメール。伊達と喜多村、久しぶりのふ・た・り・き・り。(スン…)

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「ピザ久しぶり〜!ピザうめ〜!」
「これチーズ重くて沈んで持てないっ」

伊達が持っていた「二枚買ったらもう一枚!的なお得クーポン!コーラと唐揚げ付き!」が役に立ち、二人は宅配ピザにがっついていた。佐久間が戻ったらチンしてやろう、そう思いながら佐久間の好きそうなものをそっと取り分けておく喜多村。伊達もこっそりと自分好みのピザ片(辛い)を皿に紛れ込ませる。

「ね、先輩さ今って…タチ?」
「ゴッッホッ……いきなりお前。そ。だってハルちゃんがあれだし」
「…しりってさどこらへんがいいんだろ」

伊達は口にしたコーラを吹いた。盛大に咽せる伊達の背中を摩りながら喜多村が続ける。

「俺、イイとこがはっきりと掴めないんですよ。時々大当たり出たら万事休す…じゃなかった万事オッケーなんだけどね?」
「え!なにそれ闇雲につつき回してたんか?佐久間の内臓を!?」
「俺のでっかいから満遍なく行き届いてんだけどなあ…」

誰だこのキョ根をテクなし増長させたんは。…あれ?俺か?抜き合い?飛ばし合いん時?したわうん。俺だわきっと佐久間ごめえん。伊達は暫く考え、手近にあったチラシの裏に持っていたペンでなにやら描き始める。

「先輩それなに?」
「ちぃたんにもわかりやすいように、断面図」
「あー…断面図ね断面図、ビーエルの(えまさか俺に必要になるとは)」
「なに?びーえる?」
「んなんでもないです。あと何やちぃたんて」

伊達は描いたヒト下半身の断面図の各所を指し、喜多村に説明を始めた。

「で、ここが、こう曲がってるのね、でふくらんでるとこを、こうしてやると…」
「…こんなの気付かなかった…何かふくらんでましたっけ?」
「うーん…ふくらんでるっていうか…」

こうなってる、上のコリッと、伊達は指先でイメージをなぞらえる。その仕草があまりにアレで、喜多村は流石にちょっと居たたまれなくなった。

「…OKわかった。先輩すいません説明…」
「俺の触らしてやれたら早いんだけどなあ…」
「えっ」
「えっ」

早くしないと佐久間帰ってきちゃう。まさか伊達のアレを触らせてもらわないとならない日が来るとは。そういえば昔酔った勢いとは言え告られたっけなネコ状態の伊達先輩に。伊達が付けろといって頑として譲らないので、喜多村は医療用手袋を付け伊達のアスタリスク(*)を探り始める。

「…その、上のとこ…」
「ここ?あ!これ!コリッてやつ!」
「そこを…あ!バカか今押したら!…だめだって!」

危ねえ…ひさびさに中でキメちゃうとこだったわ。荒い息で伊達がパンツを履く。俺両方なんだからさもっと敬って。よくわからない伊達の申し出に、ようやくその手で知ることが出来たビーエルスィートスポットの位置をおさらいする喜多村。

「先輩ありがと。これで大丈夫な気がする」
「うんよかったわほんと…久々で中ムズムズすっけど」

玄関から鍵を開ける音。佐久間が帰ってきた。

「ただいま!あ!伊達さん今日すいませんでした!お土産あるから呑みませんか?」
「えっと、あのね、俺ちょっと…ハルちゃんち寄って帰るん」
「…それがいいよ先輩」

頭の上がクェスチョンマークだらけの佐久間を宥め、喜多村は伊達を送ってくるからと、玄関から連れ出す。

「ごめん先輩。ハルちゃんにも謝っといて」
「や、いいよ。気持ち良かったよちぃたん」
「誰がちぃたんや」

雲母の家に向かう伊達の足が少し内股気味。いかんな呼び起こしちゃったなネコを。自分が伊達とつるんでいたときは彼がタチもイケるだなんて知らなかった。どうやってハルちゃんに鎮めてもらうのか、考えるの怖い。
家に入ると佐久間の手にはチラシ裏のイラスト。例の断面図。お前らコレ何だよビーエルのやつじゃん。笑い転げている佐久間。よかった。佐久間が心底鈍乙女でよかった。俺と伊達先輩の何かしらを勘ぐるだなんて、ホンットどうでもいいことまで心配させなくて済むんだから。

それよりも鬼丸さピザ食べなよ。そんでお風呂入ったあとちょっと協力してほしいの。俺の研究なの。そうやって泣き落としをかけると十中八九ひっかかる。あとで伊達先輩のアスタリスクを犠牲に手に入れたテクでもって鬼丸を陥落させるんだ。そう思っただけで喜多村の喜多村は想像しただけでもう抑えが効かなくなるのだった。


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