見出し画像

smashing! はじめてなきみとのデート

佐久間イヌネコ病院。週一でここに勤務している理学療法士・伊達雅宗は佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の先輩。この病院の税理士・雲母春己と付き合っている。

今週もなんやかんやで遅くなった。いつもなら佐久間達の家に前乗りするはずが、結局当日の朝ギリで到着したり。そんで今日は予防注射ラッシュ。佐久間と俺は注射マシーンと化した。でも今日一番大変だったのは千弦だったと思う。他の用事全部頑張ってくれたから。でもあいつずっとジュンレツ歌ってたから疲れてないかもしれんわ。

佐久間達の家を出てすぐハルちゃんとバッタリ。道の向こうからあの背の高いくっそキレイな奴が手振ってくるんだよ。俺の名前呼びながら。道行く者どもよ篤と見るがいい。彼の者こそこの雅宗の…ああそれより頬のニヤケが治まらない。

「ここで会うなんて。一週間ぶりですね伊達さん」
「びっくりした〜!」
「あ、これから何処かご飯食べにいきませんか?」
「いいね!あ、初めてじゃない?外でデート」
「…デート…♡」

ハルちゃんは皆のクールビューティ税理士。だからいつもキリッと凜々しい顔。悪く言えば仏頂面。でも付き合い始めてからは、微妙な表情の差も分かるようになってきた。本当は、笑ったりしょんぼりしたり忙しい子なんだなって思った。ああ見えてハルちゃんは表情豊か。最初にそんなこと言ってた佐久間ってすごいな。観察眼。

このハルちゃんは今までの中でMAX照れ顔。流石に外で手繋いだりはしないけど、俺はハルちゃんのジャケットの袖をそっとつまんで歩く。DKかよ。本当言うとくすぐったくてもどかしい。でもそんな距離感もたまらなく、いい。

「最近見つけたお肉の美味しいとこがあって」
「いいね!そういうとこにいきたかったの!」

ハルちゃんも嬉しそう。俺は基本、ハルちゃんのリードに任せる。あちこちで知ったとびきりの良いこと、共有したくてしかたない。そんな顔もっと見せて欲しいから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こう来たか!俺は大大大好き!」
「フフ…こないだ金鳥社長と卓くんにご馳走になって」

繁華街の外れ、辺りに店舗もない。着いたのはこぢんまりとした焼き肉屋。造りは古いが換気設備がきちんとしている。七輪の炭火で肉を焼くのだ。上背のあるハルちゃんでも無理なく座れる奥の席。タン、イチボ、ハラミ、ミスジ…定番を頼んだ後、ハルちゃんはさらに稀少部位を追加する。

「ここはシャトーブリアンも食べられるんです」
「え!焼き肉屋さんにあるんだ?すっげ!」

肉好きの千弦がいたら魔神化しそうだな。千弦くん呼びましょうか?携帯を探るハルちゃんの手をそっと制す。今日はデートしたいから。俺がハルちゃんと。そう言うとハルちゃんは耳まで赤くなった。

「すみません僕…デートなのにね。千弦くんたちは今度ご馳走しようかな」

…うん、ハルちゃんが俺の目を見てくれない。つられて俺もさっきから何やら照れくさくて困る。DKですか。そのうち運ばれてきたつやつやの肉。熟成の度合いまで完璧。無言でハルちゃんと七輪に肉を並べ始める。時折大きな炎が上がって、立ち上る煙に目をやられたりする。

「すごく、美味しい」
「…俺今まで食ってたの焼肉じゃない。たぶん、焼いた肉」

言い方。ハルちゃんは笑いの沸点が低くて、何の気なしに言ったことで笑いが止まらなくなったりする。今のもけっこう食らったみたいで、下向いて震えてる。こっちとしては全部拾ってくれる勢いなので嬉しい。
美味しいものはお酒も進む。俺はチューハイ、ハルちゃんはジョッキ入りの赤ワイン?特注。炭酸水と1対1で割ってレモン入ってるらしくて、ちょっと呑ませて貰ったらまあ、なにこれ爽やかフルーティ。また俺の好物増えちゃうじゃん。
けっこうな量の肉食べて、ハルちゃん笑かして。気付いたら閉店間際。長っ尻した時はこうして労うようにしてて。大入り袋をお店の人に渡してた。男前やん。

さ、ハルちゃん家に帰ろう。人気のなくなった商店街を二人で腕組んで歩く。身長差でどうしても俺が組む方になっちゃうけど、ハルちゃんは気にしてないみたい。曲がり角、ふとハルちゃんが立ち止まる。組んでた腕をするりと解いて、俺を抱き込むようにキス。不意打ちにびっくりする俺に、丁度いい高さ。そう言って笑う。
今度は俺が、ハルちゃんの首に腕回してお返し。軽く済むはずだったのに、ハルちゃんの唇が甘くて、さっきの赤ワイン割りのせいかな。味わってたらどんどん深く合わさってく。
漸く離れた唇を、ハルちゃんがぺろりと舐める。

「…伊達さんも、ワインの味する」

自販機の横でハルちゃんと抱き合って、いつものハルちゃんの良い匂いのスーツが焼肉臭。匂いついちゃったね。そう言うと、すぐ落ちるから大丈夫。耳元で低く囁いてくる。
ホント言うとこのままこの辺でああしてこうしたい。けど目と鼻の先にあるハルちゃん家でのほうがずっといいよね。今以上に人目を気にしなくて済みますから。そういってハルちゃんは笑う。
抱き合ってマンションのエントランス抜けて、ペントハウス直通エレベーターへ。ここからはもう誰も入ってこれない。俺たちはエレベーターの中、ぶつかり合うようにお互い貪って、そんで廊下でもつれ合ってハルちゃん家の前でカードキー同時に差し込もうとする。二枚一度には入りませんね。大笑いしながらそれでも、ハルちゃんは俺にお強請りをする。

「伊達さんが開けてください…」

無言で挿したカードキーが吸い込まれるのと、俺がドアの中へ連れ込まれるの。殆ど同時っていう、午前一時。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?