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smashing! てんかわけめのたたかいで・後

伊達雅宗軍 忍・設楽泰司 ×
喜多村千弦軍 小越優羽 ×


ーーー伊達雅宗軍陣地ーーー

「…設楽やられちゃったん。まあ、想定内か」
「双方1名づつ。どうする伊達さん?」
「リイコともう一人…ハルちゃんか…ちょっと手強いな」

雲母春己。あのハイテクビューティーは矛と盾で言うと完全に盾。攻撃力はほぼ皆無だが鉄壁の護りを誇る。あの愛用のジャンプ日傘は、彼の大好きなこの地元の店「いたどりショッピングモール」で最近入手したアイテム。晴雨兼用そしてUVカット率99.9%。この際UVはともかく、水風船ウォーズの天敵とも言える。

上が駄目なら「懐」に入り込めばいいんよ。伊達は自分の言った言葉に暫く「ウウン…ハルちゃのふところでチクビドリルぅ…♡」とかこっそり悦に入っていたが、急にキレた結城の金的蹴りにより強制的に正気に戻された。んなんでぇぇ…股間を押さえ蹲る伊達に、結城が提案する。

「優羽が沈んだんなら俺が行く。虫じゃなかったら怖くないし」
「…気を付けて、卓」
「そこの武将頼んだよ鬼丸!てかジャーキーの袋を離せ」

茂みや藪が駄目なら岩陰や木々の隙間ルートを。小回りの利く体格で良かった。結城は全身に大量の水風船をくっつけ、ファンシー&クレイジーな妖精さんみたいな格好で進んでいく。
雲母の落ち着いた様子、おそらくは手にしたあのタブレットには自分たちの位置を把握する何らかの仕掛けがある筈。正面からいっても勝ち目はない。ならば「懐」。
ハイテクにはアナログ。ハルちゃんには…これだ。


「…近づいてきてはいます。丁度、水風船投げても届かないくらいの距離。卓くんでしょうね」
「発信器いいなあ…鬼丸にも直につけたいな」
「千弦くん、直付けですと手間暇数百倍ですよ?」

そこへ、いきなり空を切って飛んできた水風船。
あと一歩届かず全ては地面へと落ちたが、気を取られた一瞬の隙に雲母の前には結城が立っていた。前もって分かっていたかのような雲母の笑み。そのジャンプ日傘が開かれると同時に、結城は片手に握った水風船を傘の下方から思い切り、投げずに「掴んだ」。

ビューーーー!!ビシャッ………

「水、鉄砲…」
「…これは…僕の負けですね…」

投げるモーションを結城が取らなかったことで、雲母は油断した。結城は風船を掴んだまま「水鉄砲」のように雲母に水を掛けたのだ。掛かったのはほんの少量。だが、負けは負け。そしてもう片方の手では、雲母の側に居たリイコにも。

「…やったリイコにも掛けてやった。あ、喜んでる喜んでるっ」

不敵に笑った結城の頭の上、後ろから近づいた喜多村は水風船をぽてっと置き、そのままゆっくりと割った。


伊達雅宗軍 結城卓 ×
喜多村千弦軍 雲母春己 忍・リイコ/犬 ×

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

残るは大将喜多村ただ一人。僅差だが、伊達雅宗軍が有利ではある。

「二対一。すぐるん、でかしたわ」
「どう出るかな、千弦」
「……アレ?ね佐久間、あいつ何か変じゃない?」
「は…ぇ…?」

敵陣の大将・喜多村が、いきなり脱ぎ始めたのだ。

負けて待機している面々がそれを見て大笑いしている。あっち側人口密度高っけえなおい。とうとう真っ裸になった喜多村は、水風船の入ったバケツを手にこちらに向かってくる。あいつやばいなんか怖い。確かに今この辺は俺らしかいないけど、あれ犯罪だよチンレツ罪だよ!ジャーキー食ってる場合か!

「うん…やっぱ千弦あれだな、でかいな」
「…伊達さん、そういうんでなくて」
「あ、そかごめん佐久間。それにしてもでか(略)」

そもそもなんで勃ってんの?思わず吹き出した伊達が壊れたように笑い始めた。緊張と驚きのあまり佐久間もついつられた。二人で悶絶しながらも身を守るために陣営の奥へと引っ込む。
ボッキーズ喜多村はもうすでに、キミの側まで来ているよ。
やばいってあの顔!佐久間○られるよお前!いやこの場合○られるんは大将のあんたやないんか!

伊達と佐久間は(笑いすぎで)震えながら抱き合っていた。まさに背水の陣、あ違った背岩の陣。喜多村はゆっくりと近づき、水風船の入ったバケツを二人の前でひっくり返した。散乱する水風船。ボッキーズ喜多村を前に固まる二人。

「弾はくれてやる。俺にぶつけてみろ。そんかわり…」

ぶつけた風船の数、お前らを○○○○すっから。

こんなとこで披露してはいけない顔。喜多村性欲大魔神ここに降臨。なんでこんなとこで!気付けや千弦っ片っぽ伊達さんやぞ!やってまったらあかんやろ!パニックで方言丸出し状態の佐久間の隣、覚悟を決めた伊達は厳かに立ち上がり、水風船を拾い上げる。そして徐に喜多村にぶつけるモーションを取り、そのまま逆に自分の体に叩きつけた。

「佐久間を裏切るんは、俺の御法度なんよ」
「……伊達さーん!」

潔く散ったモノノフ(仮)。伊達の言葉は、佐久間の心の奥に重く響いた。佐久間は項垂れ、自らも頭上で水風船を割り、この戦いに幕を下ろした。いつのまにか通常チソチソに戻っていた喜多村は、二人の前で何故か感極まった顔に。え誰も泣いてないよ?
喜多村陣営からわらわらと集まってきた敗者たちは、爆笑と大歓声とで彼らを讃えた。
各自、その手には残った水風船を携えて。


伊達雅宗軍 伊達雅宗 佐久間鬼丸 ×
喜多村千弦軍 喜多村千弦 ◎

☆☆☆ 喜多村千弦軍の勝利 ☆☆☆


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※落とし穴はちゃんと埋め、風船ゴミ類も全て回収致しました※

伊達家で一斉に風呂に入ってステテコや甚平で身繕い。洗われたリイコも座敷に上げてもらい、伊達が茹でたささみを嬉しそうに食べる。玄関先の蚊取り線香の煙に興味津津で、寄っていこうとするのを佐久間がやんわりと留めた。遅い昼食は伊達の奢りで、贔屓のお寿司屋さんの特上寿司が存分に振る舞われた。秘蔵のお酒は雲母セレクト。

「雅宗先輩…半分ウニで真っ黄黄なこの、偏ったオーダー…」
「俺、好きなもん食べたいんよね」

居間で佐久間に絡む結城。宥める小越。そこに雲母が合いの手のように声を掛ける。ハルちゃツッコミ上手くなったんよ。あの光景はあれだ、お花畑だな先輩。ほんとだ俺もそう思った。芥子の。
縁側へと移動した喜多村と伊達。側には設楽。雲母が取り分けて持ってきてくれた皿には、伊達の好物のウニ軍艦がてんこ盛り。愛されてるね伊達さん。設楽の酌を受けながら、伊達は目尻で笑った。


「今日は負けたけど次は俺勝つし。ちぃたんめ」
「いつでも受けて立つから、って誰がちぃたんだ」

チソチソによる圧政の勝利(?)…奥深い。今にもチューしそうな距離(アレ?してる?)でもってメンチ切り合う二人を尻目に、設楽は振る舞われた特上寿司を残す気ゼロでやっつけに掛かった。設楽の本気食いに気付いた佐久間が笑いながら酌をしにやってくる。

「たいちゃん、旨いか?これも呑むか?」

今日は落とし穴に落ちた分、かなりチョーツイてるのかもしれないありがとう神様。するとニヤケ顔の設楽を押しのけ、喜多村と伊達が同時に佐久間の膝に向かって突進。なぎ倒される佐久間。酒瓶はすんでの所で受けとめたが、助けられなかったごめんねだって怖いし。

ギャーギャー団子状態で絡み合う(これは揉めてるんだな)三人。すると佐久間が着てた甚平の合わせがパッカーン…グフッ…ありがとう神様。なんというラッキースケベ。そのうち伊達のステテコがパンツごとスポーンと飛んでいった。あ見慣れてますがラッキースケベってことで。ありがとう神様。


色とりどりに煌めく水風船の群れが見える。視覚の暴力やら黄泉竈食ひやら。ああ何という、贅。

俺はもうこの楽園からは出られないんだろうな。それでも設楽は心から楽しげに、旨い寿司と手酌の酒を思う存分堪能した。




前編コチラ↓
https://note.com/kikiru/n/n26dd99047945


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