見出し画像

旅と料理(オマーン旅行その1)

2年半ぶりに、旅に出た。行き先はオマーン、マスカット。この2年半の間には、戦争もあったし、疫病もあった。それでも、アゼルバイジャンの国内は、各地をずいぶんと巡った。車で田舎の村々を訪ねては、古い遺跡や城塞、モスクや教会跡などを探したり、冬には雪山、夏には海辺で過ごしたり。でもこの国に暮らすのも、そろそろ4年目。言葉もだいたい通じるし、文化や土地にも慣れ親しんできたから、旅としての新鮮みや苦労が薄れているのは否めない。それに1回の旅行にかける期間も短くて、長いときで2泊程度、自宅で留守番の猫がいるから。

そして今回。大きなスーツケースを抱えて、空港に向かうタクシーのドアをぱたんと締めた瞬間、ふと、私は。とても身軽になった気持ちがした。そうだ、私は(行こうと思えば)いつでもどこにでも行けるのだ。

1週間以上の、少し長い旅の時には、私は台所の使える宿が好き。今回は、アパートメントタイプのホテルレジデンスを予約した。写真を見ると、フルサイズのキッチンと、ダイニングテーブルが備わっていて、自室で食事をするのに快適そう。実際にチェックインしてみると、リビングもベッドルームも広々としていて、居心地がいい。アパートメントだけど、サービスはホテルなので、プールやジムやスパもあるし、レストランも選べる。ルームサービスも取れるし、もちろん部屋の清掃やベッドメイクは毎日ぱりっとしてくれるのが、休暇旅行には心地いい。それでいて、部屋の備品はアパートメント仕様で、オーブンや電子レンジ、食洗機や洗濯機もついている。

宿でキッチンが使えると、ほんのひとときでも、暮らす感覚で過ごせるのが楽しい。私は、旅先で料理をするのが、すこぶる好きだ。外国のスーパーマーケットや市場は(たぶんみんなも好きだと思うのだけれど)、キッチンがあれば、目新しい商品をただ眺めたりお土産を買うだけでなくて、そこで実際に食材を買って、土地のお酒や調味料を試したりできる。店主に魚の食べ方を聞いたり、トマトを一個おまけしてもらったり、スパイスの小袋をジャケ買いしたり、地酒のワインを瓶に詰めてもらったり…そんな過程の全てが、私なりの新しい土地のと知り合い方だから。

さて、マスカット。
なんともエキゾチックで、文化と歴史の香り高い街。スーク(市場)を抜けて、路地を歩くと、まるでアラビアンナイトの世界の中にいるみたい。私が今暮らしているアゼルバイジャンのバクーとは、気候や地理条件ががずいぶん違うので、食材もとても違っていてとても楽しい。海辺の街なので、新鮮な魚介類が豊富に手に入る。毎日、魚市場やスーパーマーケットに出かけては、今日のおすすめを聞いて買う。砂漠の国なので、野菜はやはり輸入が多いけれど、東アフリカ諸国や、インドやパキスタン、フィリピンなどからの移民の方々も多く、そのおかげでその顔ぶれはとても多様だ。オマーン産は青菜やハーブ、インドやアフリカの芋類、マンゴーやランブータンなどのトロピカルフルーツもたくさん輸入されているし、オランダ産のきれいなトマトも並んでいた。

昼食は、レストランで地元のオマーン料理を食べるので、土地の食材とその調理法をいろいろ知ることができる。そうか、市場で売られていたこの葉っぱは、サラダにしてこんな味がするのね、とか、魚料理にはこのスパイスを使うのね、という具合に心のメモにしっかり書き込む。それで、自分で作る夕食は、昼に食べた味をアレンジしてみたり、新しく知った食材を和風に料理してみたり。ほんのちょっとだけ、エキゾチックなひねりを加えて。

あなたがもし、この創作物に対して「なにか対価を支払うべき」価値を見つけてくださるなら、こんなにうれしいことはありません。