レゴ®︎シリアスプレイ®︎は省察的実践家への扉を開ける

　「専門」という言葉は人々を惹きつける。大学の学部教育でも、その中心的な柱となっているのは「専門」科目である。このときの「専門」には、学術的な研究活動に裏付けられたいわゆる正しい知識や技術が存在するという意味がついている。そしてそれを覚え、使えるようになるというのが「専門」科目が基本的に目指しているところである。

　専門的な知識をよく理解し、上手く使ったり、時に新たな知識を生み出す人は「専門家（プロフェッショナル）」と世間一般的に呼ばれている。以下に紹介するドナルド・ショーンによる研究によれば、実際のプロフェッショナルの世界では、専門的な知識や技術がそのまま簡単に問題解決に適用できる状況であることは稀であると指摘されている。それでは専門家はそのような状況に対してどう振舞っているのだろうか。

専門家の知恵―反省的実践家は行為しながら考える

　ショーンの研究によれば、そのような明確でない状況の中で専門家が問題に向かうとき、大きく２つの対応が現れる。一つには知識や技術が明らかに当てはまる範囲（問題）に自らの活動を限定して問題を避けるということである。それは活動の効率化という意味での恩恵を得られるが、その問題以外に対応する力は失われていく。また、問題は社会や時代とともに移り変わっていくので、その推移とともにそのタイプの専門家は価値を落としていくことになる。

　もう一つは、改めて問題そのものを見極めることからはじめ、常に最高のパフォーマンスを得ようとする努力をすることである。NHK番組の「プロフェッショナルの流儀」が映像を通じて捉えようとした専門家たちはまさに、このタイプであろう。あの番組で取り上げられる専門家は、常に状況や問題を単純に過去と同じものとしたり、パターンに当てはめて終わらない。
　複雑な症状を訴える患者への医者の診察や、機械の故障やトラブルに対応しようとするエンジニア、常に斬新な作品が期待される状況下での物作りなどは、共通して、過去の行為とは異なるものに挑もうとする。そうしたことに挑む専門家は結果として、高いパフォーマンスと創造性を発揮する。

　ショーンは前者の専門家を技術的熟達者（technical expert）、後者の専門家を省察的実践家（reflective practitioner）と呼んでいる。省察的実践家は「問題を探る」という一種の行為を通じて問題解決に向けて進んでいくが、そこにおいて省察的実践家はその名の通り自らの行為を省察（reflection）する。

　あるときは現場を離れて一人で現在の状況や自分の対応について振り返ったり（reflection on action）、もしくは進行中の状況の中で今何が起こっているのか（問題の本質の手がかりとなる反応）を振り返りながら（reflection in action）問題定義から解決に向けて進んでいくことである。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎への示唆

　レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップは、知識の当てはめでは解決できない現実の問題に向かい合おうとする点で、ショーンの研究する省察的実践家が向かい合う問題とほぼ共通している。

　むしろ、レゴ®︎シリアスプレイ®︎に限らず、あらゆるワークショップは、専門知が確立されていないテーマについて考え、何らかの答えやヒントを得るために行なっているといってよい。

　ファシリテーターから問いが示され、作品を作っているとき、そのとき意味は明確ではなくても（作品の説明を他者にするときに明確になるため）、提示された問いに関して「しっくりくる」感覚を目指してつくる。ここでは自らの経験を引っ張り出すという意味で、行為についての省察（reflection on action）を行なっている。

　またワークではしばしば、参加者の作品をテーブル上で動かしながら、作品相互の位置関係を探るワークが行われる。作品同士の距離や角度を探って、テーマに対する大きな答え（ストーリー）を作り出すのである。ここでは、まさに行為の中での省察（reflection in action）が展開されている。

　一刻を争う重体患者の診察や、抜き差しならぬ問題のトラブル対応に比べれば、深刻度において、レゴ®︎シリアスプレイ®︎は、やはり「プレイ」であることは間違いない。ただし、いきなり緊張度の高い現場だけが専門家を育てる機会ではないだろう。そうした事態を想定した訓練や、それに通底する経験の積み重ねが、より高いパフォーマンスを生み出す専門家を生むことにつながっていく第一歩という意味では、「プレイ」こそ意義のある場なのである。

　私も含め、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーターと参加者は、そのワークが参加者に省察的実践家への感覚を体験させている（その方向へと参加者を導いている）という視点を持つことで、ワークにより一層の豊かさをもたらすことができるだろう。