「思考する教室」を作るためにレゴ®︎シリアスプレイ®︎ができること

「学ぶ力」を高める教育を目指す

 学校教育のあり方については、コロナ禍以前から、根本から見直すべきとの声が絶えない。教える内容はもちろん、教員の働き方、部活の在り方、校則の在り方、保護者や地域との関わりまで、なぜそこまで問題を列挙できるのかと思うぐらい問題が指摘されている。

 私も教育に関わる身として、肩身は狭く、志は高く、現状の改善に取り組んでいるつもりであるが、私がまず目指しているのは、学生・生徒の「学ぶ力」を高めていくことだ。

 「学ぶ内容」ではなく「学ぶ力」にターゲットを置いている理由はシンプルで、「学ぶ内容」がどんどん変化しているからだ。新しいものを知り、咀嚼し、合わなくなった知識を上手く遠ざける。それが「学ぶ力」である。変わらないものとして”古典”を尊ぶ人もいるが、その”古典”の価値や解釈は、現代社会のあり方から生まれてくるので、”古典”を教えたり学ぶ方が私としては大変なことだと思う。

 その肝心の「学ぶ力」を高めるポイントについては、今でもいろいろな研究の成果を渡り歩いて考え続けているが、今のところ「学ぶ対象を自分ごとにする」「抽象化して理解する」の2つに注目している。

 自分ごと化は、学んだことを意識のすぐ側に置いておき想起させやすくするとともに、好奇心や使命感などの感覚を持って学ぶ行動を継続的に生み出す。

 抽象化はさまざまな知識をつなげる役割を果たし、知識を想起させやすくし、時に新しい発想さえ生み出すもとになる。

事実と概念の相乗作用と4つの思考

 私の2つの考えをすっぽりと包みつつ、さらに何倍にも押し広げ、かつ具体的な方法を提示しているのが下記の本である。

 この本では、知的能力の発達は事実レベルと概念レベルの知的な相乗作用をいかに起こさせるかということにかかっていると考える。ここでいう概念は、事実を解釈するための言葉のことで、「自由」「重力」「有意性」「改革」「資本主義」「難民」「ブラックホール」「パラドックス」「対立」「古典」「キュビズム」「ヘレニズム」などなど、すべて概念だ。全ての教科にわたって広く存在する。

 概念と事実を結びつけさせる授業、というコンセプトは非常にシンプルで強力だ。

 それを実現させるような授業の基本構成はいくつかのパターンがありそうだが、基本は以下のような感じ(聞間の独自まとめ色がつよいので実際には本を読んでみて欲しい)である。

(1)事実ともに、身につけさせたい概念を示す(テーマの提示)。
(2)生徒が事実と概念の関係を自ら考察し考える場を与える。
(3)目指すべき概念レベルは階層に分かれている。事実を解釈するための概念から、概念間の関係を述べる一般化、さらに関係が安定した原理、原理を展開し何らかの予測をもたらす理論などへと理解のレベルあげるように進行する。
(4)理解させた概念レベルを再び事実へと落とし込むことも促す。このとき、自分の身の回りの事実に目が向けば、自分ごとになりやすい。

 箇条書きでみると簡単そうに見えるが、いずれの段階でも生徒の好奇心をあおる導入や問いかけが必要で、そのための入念な準備と、授業の中で適切な舵取りをするファシリテーション研鑽が

 事実レベルと概念レベルを行き来する相乗作用においては、教える側は以下の4つの思考(知的性向)が生徒の中で展開されているかどうかが推奨される。

1.創造的思考:個人が意味を構築すること(自分で意味付けたり何かを提案する
  こと)。概念と事実の結びつきに柔軟性を持たせる。
2.批判的思考:その事実が正しいか、論理的な間違いや見落としがないか注意
  しながら考える。
3.内省的(メタ認知)思考:自分の学びや考え方に自覚的になる。概念と事実の
  結びつきの手順を洗練させる。
4.概念的思考:上記3つを含みつつ、事実を解釈するための概念を使って考え
  る。概念レベルをあげたり教科横断的な事実と概念のむすびつきをもたらす。

 概念を理解するということは、その言葉を知っていることではなく、上記の4つの思考を上手く組み合わせながら「概念と事実を自在に行き来する」ということなのである。それが、これから時代と共に現れてくるであろう新たな知を吸収するための基盤(の少なくとも一部)であることは間違いない。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに何ができるか

 ようやく本題だが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは「1.創造的思考」の発揮を助ける。ブロックをつかって、概念と概念、概念と事実がどう組み合わさるかの表現を探求できるからだ。

 例えば、少々乱暴だが「自由とは」という問いの下にモデルを作らせるなどはあるかもしれない。かならず何らかの事実か、それまで学んだ既知の概念がモデルに現れてくる。それを繋いで説明するストーリーこそが、概念と事実を行き来することになる。

 何か社会的資料(例えば明治時代のこと)を事前に読ませて「殖産興業政策と富国強兵政策の関係性」を作品に作らせてみるのはどうだろうか。生徒は概念レベルと事実を行き来してモデル表現をつくるだろう。レゴ®︎シリアスプレイ®︎で、作品をつくるということは、バラバラな情報を一つにまとめさせる過程を含む。その中で、自然と概念と事実を行き来させることになる。
 ※そのプロセスを強く認識させるために、この場合には例外的にモデルの部分に「概念」や「事実」を示す言葉のラベルを貼って進めるのもありかもしれない(通常は行わない)。

 さらに、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、「2.批判的思考」の発揮もある程度、助ける。思考の材料になっている事実の信憑性についてのチェックは難しいのだが、それ以外の部分では貢献できそうだ。例えば、お互いの作品を見ることで、異なる解釈が存在することを知る。他の人の話を聞く中で、自分の中での思考の見落としに暗黙のうちに気付ける可能性もある。

 さらに批判的思考をすすめるにあたって、自分の作品の中で自分が最も大切だと思う部分を抜き出した上で、グループで最も説得力のあると感じる統合モデルを作らせるワークも相乗作用の実現に効果を発揮しそうだ。それぞれの作品の関係性の並びを表現させるのも良い。その過程でお互いのモデルの重なりや関係性をさらに探求することになる。ここでは「1.創造的思考」と「2.批判的思考」が入り混じることになる。

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皆で作品間の関係性を考える

 「3.内省的思考」はレゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークの区切りにもともと組み込まれている。たとえば、ワークの終わりの部分での納得度を聞いてどうすればよかったかを各人に語ってもらってもいいし、他の人の作品で感心した部分などを、褒めあってもいい。私の経験上、そのような時間を取らなくても勝手に参加者が内省していることが多いと感じる。ワークを同じメンバーで繰り返し行なっていくと、他の人の良い表現を取り込んだ作品ができてくるからだ。

 もちろん、「思考する教室」は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎を使わなくても実現可能だし、この本でもレゴ®︎シリアスプレイ®︎は一言もでてこない。ブロックを準備をするのにお金と時間がかかる。実際に、トレーニングを受けたファシリテーターと一緒でないと、上記のことを読んだだけでは難しいだろう。

 だが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎には、それを補って余りあるメリットがある。それは新たな「概念型カリキュラム」の授業への切り替えの怖さを、楽しさで乗り切れることだ。ブロックで表現し対話することには不思議な楽しさと魅力がある。

 その最初の第一歩として、レゴ®︎シリアスプレイ®︎はうってつけのメソッドだと考えている。

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