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レゴ®︎シリアスプレイ®︎は、脳の新皮質との相性がいい?

 脳科学・神経科学の領域では、日々、多くの研究が積み上げられている。
 その中でも、特に「意識」や「思考」については、さまざまな説明のための仮説が立てられているとともに、研究者が一般向けにわかりやすく自説を主張する書籍も出されている(専門家だけに閉じずに解説していただけるのは本当にありがたい)。
 その中でも、人間が他の動物と差をつけた最大の要因とみられる大脳新皮質のメカニズムに特に焦点をあて、それを軸に「意識」や「思考」に対する大胆な説明を試みているのが以下の本である。著者はジェフ・ホーキンス氏で、神経科学者でありながら、スマートフォンの前身といえる、パームコンピュータを開発した起業家としての経歴も持つ。

 最終的にこの本で示されている考え方が最終解になるかどうかは分からないが、その説明は個人的に、かなりクリアーで十分な期待がもてるものと感じられた。

 本書における脳(新皮質)の仕組みの説明の主なポイントとしては、以下の通りである。

 ①脳(新皮質)では世界についての予測がモデルとしてつくられており、私たちはその予測モデルを見ている
 ②世界の予測モデルは、脳内で何千にも分散されており、場合に応じて数十〜数百ぐらいのモデルが同時に活性化され、その中でどれを採用するかについて投票が行われるとともに、常に修正されている(学習されている)
 ③脳内の全ての知識には座標系が与えられる
 ④「考える」ということは座標系の中の知識を活性化し、整理することである
 ⑤人間が自ら動くことでさまざまな感覚情報が入り、モデル構築が促進される。
 ⑥「視覚」も「触覚」も「言語」も「哲学」も座標系の中で位置付けられているという意味で基本的に同じである
 ⑦「意識」があるとの実感は直近の思考と経験についての記憶にもとづく

 本書での説明を特徴づけているのが「座標系」という考え方である。
 この「座標系に位置付ける」とは、新皮質の神経細胞のネットワークの説明も省略して、機能面のみにフォーカスしてざっくりいうと人間は脳内に知識の地図をつくっていて、あらゆる知識を文字通り相互に位置付けているということである。

 本書には書かれていないけれども、知識に「座標系」が付随され、それは常に更新されるものであるということから、複数の世界に関する知識の相互の位置付けが安定してくるとそれはピアジェのいう「スキーム」の形成になると解釈できるし、人間自身の運動によってモデル構築が促進されるという部分は、パパートのコンストラクショニズムにも通じるところがありそうだ。
 
 そして何より、この知識の相互関係を位置付けるということは、ちょうど、レゴ®︎シリアスプレイ®︎でモデルをつくって考え方を整理するときにしていることに重なる。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークでは、個々のブロックや部分的な表現に適宜、意味をつけながら知識を整理しつつ自分の考えを作品として作る。

作品の一例
一つ一つの部分表現にも意味が与えられているので
知識の相互関係の表現ともいえる
作品をさらに並べて位置付けた風景は、脳内の知識を映し出した地図とも解釈できる

 もちろん、知識を位置付けることは紙面でも可能だ。マインドマップや付箋を使ったKJ法も相互に知識を位置付ける技法である。有名なそれらの技法も本書で示された新皮質の情報処理の仕方に沿っているといえよう。

 ただ、脳の神経細胞が複雑にからみあって3次元的に配置されていることを考えると、3Dで知識の関係をモデルの中で表現する(それをまとめて話すとストーリーになる)、モデルを作った後も角度を変えて作品を見ることができる(前述の⑤人間が自ら動くことでさまざまな感覚情報が入り、モデル構築が促進される。)という点でレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに、より大きな可能性を感じる。

 また、本書の言説が正しいとするのであれば、知識の相互関係を整理しているという観点でワークショップでの参加者の言葉や動きを理解することによって、より効果的なファシリテーションへと結び付けられるだろう。

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