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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(33)決定的に重要な不確実性

 今回取り上げるのは「決定的に重要な不確実性(Critical Uncertainties)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 多様なグループが、現在の戦略の実行可能性を迅速に検証し、将来の課題に迅速に対応できる能力を構築できるよう支援することができます。このリベレーティング・ストラクチャーは、グループが戦略を立てるための準備をするものです。設計通りに実行される計画を作成するのではなく、レジリエンス、つまりシステムを積極的に形成し、不意打ちに対応する準備をする能力を構築するのです。つまり、さまざまな未来が展開されることを予見し、分散して行動する準備を整え、破壊を弾力的に吸収する準備を整えるということです。

”LS Menu 30. Critical Uncertainties”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 不確実性に基づく、いくつかのシナリオを簡単に考えて、それぞれの対応策を考えるというものである。

5つの構造要素

1.始め方
・グループ内で、事業環境や市場において最も重要で不確実な「現実」を特定し、探求するよう促す。
・そして、そのようなさまざまな状況下で成功するための戦略を策定してもらいます。

2.空間の作り方と必要な道具
・4組のテーブルと椅子。
・紙、ポストイット、フリップチャート、または壁かけができる用紙を各グループに配布する。

3.参加の仕方
・戦略の立案と実行に責任を持つすべての人が含まれる。
・誰もが平等に貢献できる機会を持つ。

4.グループ編成の方法
・4つのシナリオと関連する戦略を開発するために、4つの別々の小グループに分けられるほどの規模で多様なグループを用意すること。
・そうでない場合は、2つの小グループを作る。

5.ステップと時間配分
・ 一連の流れを説明する。2分
・参加者に、「あなたたち/私たちの事業環境において、予測や方向性のコントロールが不可能な要素は何ですか?」と問いかけ、直面する不確実性をリストアップするよう呼びかける。5分
・最も重要な要因に優先順位をつける。「どの要因が、あなたたち/私たちの事業運営を成功させる能力を脅かしますか?」と質問する。10分
・グループの歴史と経験に基づき、最も重要で最も不確実な2つ(XとY)を選択する。5分
・X軸とY軸の2つの軸で、各軸に表すべき要因を「より多く⇄より少なく」連続させたグリッドを作成する。例えば、X軸の場合、新製品の数が決定的に不確実な要素であれば、X軸の一端は新製品の数が多く、もう一端は新製品がないことを示す。Y因子と軸についても、これを繰り返す。例えば、特許保護が決定的な要因であれば、Y軸の一端は強い特許保護、もう一端は特許保護なしとする。4つの象限が作られる。下の例をご覧ください。5分
・4つのグループのそれぞれが、4つの象限のうちの1つの象限について、クリエイティブな名前を付け、シナリオの要約を書く。10分
・4つのグループは、それぞれのシナリオを簡単に共有する。各2分
・各グループが説明したシナリオの中で、グループをうまく運営するのに役立つ3つの戦略をブレインストーミングする。10分
・4つのグループがそれぞれの戦略を簡単に共有する。各2分
・グループ全体で結果を選別し、どの戦略が最もロバスト(複数の象限で成功できる戦略)であり、どの戦略がヘッジ(1つのシナリオでのみ成功できるが、もっともらしい災難から身を守る戦略)であるかを特定する。戦略のバランスをとることは、1つのシナリオでのみでしか成功しない。10分
・ それぞれの小グループは、「3つのW」で報告する。
・4つのグループで報告を共有し、グループ全体で「今からすること」について最初の一歩を踏み出す決断をする。10分

”LS Menu 30. Critical Uncertainties”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 内容的には、シナリオ・プランニングという手法を時間を短く、コンパクトに進めるものとなっている。シナリオ・プランニングは、長い取り組みだと数ヶ月〜1年ぐらいかけて行うが、上記の方法だと2時間ほどである。

 また、「5.ステップと時間配分」で紹介されている例の、シナリオの分類イメージとしては以下のような感じとなる。

シナリオのマトリックスの例
”LS Menu 30. Critical Uncertainties”にあった図をもとに筆者作成。

 なお、丸の中の言葉はシナリオの名称である。

また、最後のワークのまとめに使われる「3つのW」はリベレーティング・ストラクチャー(LS)のうちの一つである。詳しくは以下の記事を参考に書いてある。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・仮定と不確実性を明らかにすることで、現在の戦略の実行可能性をテストする。
・すべての人が迅速に適応し、破壊を弾力的に吸収する能力を高める。
・ロバスト戦略、ヘッジ戦略の観点から優先順位を差別化する。
・未知の未来を管理するための組織全体の自信を深める。
・戦略的選択肢の幅を広げる。

”LS Menu 30. Critical Uncertainties”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 改めて、変化を前提としてそれを乗り切る「戦略」の策定とメンバーへの浸透に重きを置いていることがよくわかる。

コツとワナ
・不確定要素をブレインストーミングする際、予想が外れたり、不意を突かれたりした出来事を思い出す。
・希望的観測に挑戦する。
・「1-2-4-All」を各ステップごとに非常に短いサイクルで使用する。
・それぞれの象限に名前をつけて楽しむ(歌や本のタイトルが効果的です)。
・未来の状況について新聞記事にするなど、シナリオを楽しく展開する。
・アイデアを組み合わせたり、組み替えたりするのに付箋が役立つ。
・役割に関係なく、ごく少数の人は天性の巧みさをもっており、それを称える。

”LS Menu 30. Critical Uncertainties”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 不確定要素について考えるのは、不安を掻き立てる。そこで心のバランスをとるために、楽しむ気持ちを保つというのは示唆に富む。

 また3項目目の「1-2-4-All」もLSの一つである。詳しくは以下の記事にまとめてある。

繰り返し方とバリエーション
・この短いセッションから、本格的なシナリオプランニングの取り組みに発展させることができます。
・各シナリオについて、小グループを募り、戦略を実現する未来の典型的な顧客とのやり取りや製品をドラマ仕立てで表現してもらう。
・「会話カフェ」、「目的から実践へ」、「私があなたに望むこと(WINFY)」、「オープンスペース・テクノロジー」、「意地悪な問いかけ」、「最小スペック」とひも付けます。

”LS Menu 30. Critical Uncertainties”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 LSのひとつである「会話カフェ」は傾聴の姿勢を強化して、全員で深く物事を考えるような場を作るために役に立つ。不確実性要素のリストアップなどに役に立ちそうだ。

 LSのひとつである「私があなたに望むこと(WINFY)」は、シナリオに対応する戦略の実現のために何ができるかを考え、お互いに困ったことを明確に伝えるための文化づくりに役立つ。

 LSのひとつである「オープンスペース・テクノロジー」は不確実性要素をピックアップするときや、解決策について考えるときに効果的だ。

 LSのひとつである「意地悪な問いかけ」は複数のシナリオを同時に乗り越えるための戦略コンセプトを探すために使うことができる。

 LSのひとつである「最小スペック」は戦略を確実に実行できるようにする方法を詰めるために役立つ。

 LSのひとつである「目的から実践へ」は、機会を改めて紹介したい。

事例
・これから発売される製品・サービスに搭載すべき機能の検討のため。
・国の政策・運営リーダーが、医療保険改革構想の次のステップを形成するために。
・1つの地域で複数の国にまたがる導入課題を準備しているITリーダーに向けて。
・経営者・事業責任者が10年戦略ビジョンを描くために。
・資金調達や社会的認識の予期せぬ変化に対応するNGOのエグゼクティブ・ディレクター向けに。
・学校を中退したり、路上生活を始めたりする可能性が高い、不安定な環境にいる若者の相談に乗るため。

”LS Menu 30. Critical Uncertainties”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 戦略を必要としているが、それを練り上げるだけの時間を用意できない、またはスタッフを抱えることができない組織やリーダーにとっては役に立つだろう。
 簡易版のシナリオ・プランニングともいえるので、シナリオ・プランニングを体験してみたいという人にも良さそうだ。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中には、「リアルタイム・ストラテジー」というコンセプトがある。今の状況においてさまざまな出来事を想起し、その出来事にどう対応するかについて、ブロックで組織と周囲の環境のモデルを作って、それを動かしながら対話するというものである。

 この「さまざまな出来事を想起する」というのが、その後の対話を面白くするためのポイントとなる。
 この「決定的に重要な不確実性」というリベレーティング・ストラクチャーと結果として生まれる基本シナリオは、リアルタイム・ストラテジーにおけるプレイを非常に面白くかつ有意義なものにするだろう。

 逆にこのリベレーティング・ストラクチャーの中でシナリオに対する戦略の妥当性を検討する際には、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップの一つのコンセプトである「リアルタイム・ストラテジー」が貢献できそうである。

「リアルタイム・ストラテジー」がどのようなワークショップになるかについて以下の記事を読むとイメージが掴めるかと思う。ここではチームを中心に置いているが、もう少し視点の大きい「企業」を中心に置いて検討することもできる。


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