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THE GAZETTEを読む(2) 2012年9月号 レゴブロックの心理学上の影響力

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンであるTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーター・トレーニング修了者向けとして書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

 アインシュタインはかつて、「遊びは最高の研究形態である」と言いました。このことは、レゴシリアスプレイのファシリテーターや愛好家の世界的なコミュニティが拡大する中で、何ら驚くことではありません。
 心理学者(研究者、教育者、学習理論家)はレゴをどのように使っているのでしょうか。英国心理学会の公式月刊誌であるThe Psychologistの編集長であるJon Sutton氏は、Twitterで質問を投げかけ、研究を行いました。その結果は、『The Psychologist』2012年8月号の特集記事「When psychologists become builders」にまとめられています。
 レゴは "心の自己啓発のための強力なツール "であると多くの人が考えています。人は、指示に従うことと、指示を破棄することの両方を学ぶことができる。進化神経生物学者のMark Changiziは、70年代や80年代に比べ、この20年間でレゴのピースの数や多様性は飛躍的に拡大し、環境の複雑化に対応できるようになったと述べています。より多くの表現要素が想像力の引き金となるため、この多様性は貴重な機能であると多くの人が考えています。

THE GAZETTE 2012年9月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 前号が社会神経科学からの知見だったのに対して、今回は心理学領域の知見とレゴ®︎シリアスプレイ®︎との関係を紹介している。Jon Sutton氏の論文「心理学者がレゴ・ビルダーになるとき」は、本記事の執筆時点で、以下から読むことができる。

https://thepsychologist.bps.org.uk/volume-25/edition-8/when-psychologists-become-builders

 この論文からは、2012年時点で、すでに多くの心理学者がレゴと心理学研究(臨床も含めて)との相性の良さに気づいており、試みが始まっていることが窺える。かなりのボリュームがあってさまざまな示唆に富む論文なので、機を改めて取り上げてみたい(この号でも、この論文の内容が取り扱われている)。

 もうひとり、Mark Changiziという研究者が紹介されている。日本語訳では、以下の本が出ている。視覚と言語、聴覚と言語などの関係を脳科学の知見を活用しながら解き明かそうとしている。彼の『ヒトの目、驚異の進化』では、人間が「もの」を積極的に見出し、それをシンボルとして扱う能力に秀でていることが指摘されている。そのため、文化圏や言語圏の異なる者同士では、音声よりも「もの」による表現の方が通じやすくなるのだという彼の指摘は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎が単なる会話よりもコミュニケーションの手段として優れているということを後押ししてくれている。
 そうなると、レゴのピースの数や多様性が高まることは、シンボルをより多く用いることができる環境がつくられることを意味することになり、結果として私たちの想像力も引き出されるということも、ワークショップの設計や実施の際に、ファシリテーターが意識しておくべき、非常に有益な指摘だといえる。

心理学研究とレゴ®︎シリアスプレイ®︎との交差点


 レゴ®︎シリアスプレイ®︎のメソッドは、その論文の中でこう紹介されている。「構築主義の力を借りて、ビジネスの世界の複雑さに適用する大胆な試みです。彼らはそれを操作し、遊び、あらゆる種類の「もしも」の質問をすることができるのです。」Robert Rasmussenは、Jean Piaget、Seymour Papert、Mihaly Csikszentmihalyiなどの考えに基づき、このメソッドの設計を行っています。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは、共同行動が心や脳に与える影響を調査する心理学研究にも利用されています。LEGO Learning Institute、MINDLab、オーフス大学によって行われた2011年の研究の仮説は、集団的な構築プロセスが参加者間の心拍同調を強くし、脳の社会領域の活動を大きくする、というものです。ウェストミンスター大学のDavid Gauntlett氏は、LEGO SERIOUS PLAYの手法を用いて、アイデンティティの探求を行っています。Gauntlett氏によると、"モノを作り、それについて振り返り、物語を語ることは、人々が何かについて自分の知識、考え、感情を組み立てるのに最適な方法です。"だそうです。

THE GAZETTE 2012年9月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 「集団的な構築プロセスが参加者間の心拍同調を強くし、脳の社会領域の活動を大きくする」はかなり大胆な仮説といえる。少し検索してみたが、十分に実証できなかったのか、この実験に関する論文は見つからなかった。
 この研究とならんで紹介されているのが、David Gauntlett氏のアイデンティティとの関連の研究である。ここでは、「モノを作って物語を語る=知識と感情の構築」という側面のみのコメントに留まっているが、彼の書いた別の論文ではもう少しその論を、アイデンティティと文化との関係、そしてそこにおいてレゴ®︎ブロックが果たす役割まで、広げている。
 この論文についても、ボリュームがあるので、機を改めて紹介したい。

 また、この文章の横に「見えないものを見る」というタイトルのもとで以下の写真とコメントが載っている。

チームへの「信頼」をテーマにしたストーリー。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは、ブロックを表象的なものとして用いて、チームの思考力、コミュニケーション力、問題解決力を最高に引き出すものです。

「信頼」は見えないが、チームやマネジメントにとって、とても重要な概念だけに、チーム・ビルディングのワークにおいては、ぜひ導入を検討したい問いの一つといえる。

今後の展開

 Sutton氏によると、「LEGOは1940年代から存在していますが、LEGOと心理学の関係についてはまだ比較的初期段階にあると言えます。私が接触した人々は、心理学におけるレゴの大きな可能性についてよく話してくれました。David Whitebreadは「彼ら(レゴグループ)は、遊びと学習に関するハイレベルな研究を支援することに純粋に興味を持っており、彼らが自ら運営するか、財政的に支援する非常に印象的なプロジェクトの数々を通じて、研究への資金を提供しています。」と付け加えています。

THE GAZETTE 2012年9月号をDeepLで翻訳・筆者が修正。

 ここで名前が出てくるDavid Whitebread氏は2021年に逝去された。LEGO社との関わりも深く、教育における子どもたちの遊びと発達との研究に尽力されたという。晩年は、子どもたちが自分達の学び方をどう学んで成長につなげるかを問う、自己調整学習(self-regulated learning)の分野で研究を重ねている。この自己調整学習は学習論の中でも注目が集まっている分野である。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎のサイエンスとの関係性についても、今後、考察していきたい。

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