短編小説 Life with cat 2
「・・・ですから月単位ではなく年単位での戦略が必要でして・・・」
入社当初と比べ少しずつ難しい業務を任されるようになり、会議や打ち合わせの必要性も増えてきている。今日は販売戦略会議に参加し、敏腕コンサルタントと紹介があった方の講義を聴講している。
これがまたキツイ。
自主的に参加をしているが襲い掛かる睡魔に何度も負けそうになる。
学生時代は授業中寝てしまうことなんてなかったが、加齢によるものなのか考えるだけで嫌気がする。
まだ24歳であるのに、、、
講義は睡魔との戦いに勝利し残りの仕事へ取り掛かる。今日は業務内容も単調で、量も少なかったため少しの残業だけで仕事を終えることができ、笑みがこぼれる。
「よし今日は早く終わったから一平、少し飲みに行くか。」
「すみませんいつもごちそうになります。」
「だれが奢りといったんだ、小遣いも減らされたんだ、、、少しは気を使えよな」
僕はとっさに悲しい目をして見つめる。
「・・・わかったよ。加減して飲んでくれよ、、、」
武智さんはこうした小細工に弱い。一年間通じて学んだ経験則によるスキルだ。
「さすが武智さん!一生ついていきます!」
「こういうときだけはかわいい後輩なんだよな、、」
会社を出てすぐそばに飲食街がある。安いチェーン店から高級料理店まで選択肢は多い。
僕たちはよく利用している安いチェーン店に入り、ビールを注文する。適当に料理を頼み揃ったところでグラスを交わす。
「・・・最近少し疲れているのか。仕事中も身が入ってないように感じるぞ。朝も言ったけど悩みとかないか。」
「この頃仕事についていけずに、自分の不甲斐無さに嫌気がしています。このまま同じように行動していてやっていけるのか不安なんです。」
「・・・俺も若い時は一平よりももっとひどかったぞ。要するにあれだ、慣れが出てきたら仕事も次第にできるようになるぞ。今は我慢して一つずつ紳士に取り組んでいくんだ。」
「それが一番難しいですよね、、、」
「難しいけど大切なんだよ。ところで一平は休みの日はどう過ごしているだ。」
「大体寝ていることが多いですね。昼まで寝てゴロゴロしながらYoutubeを漁ってますかね。」
「・・・それで充実しているのか?俺なら耐えられないけどな。彼女はどうなんだ。」
「大学以来いないですよ。1人でいることが好きなので作るつもりもないですね。」
「それじゃダメなんだよ、俺が若い頃は手当たり次第に・・・」「・・・結婚するまではたくさん遊んだほうがいいぞ。」「・・・それからとりあえず癒しを作るんだな。なんでもいいから・・・」
その後もダメ出しは続くが、お互いに酒が進み、アルコールにより思考は止まる。あまり記憶はないが武智さんの”癒しを作る”という言葉だけは妙に印象に残っている。
「・・・俺はまだ言い足りないぞ、2件目行くぞ!!」「武智さん明日仕事ですよ、また行きましょう。」
相変わらずに酔い癖が悪いみたいだ。そういうところが人間味があり好感が持てる。そのまま武智さんをタクシーへ押入れ手を振りながら見送る。自分は反対方向の自宅に向け、クロスバイクを押す。
少し歩いたところでポツポツと雨が降ってきたため、歩く速度を上げる。
「天気予報では降らないって言っていたのにな、、、」
次第に周囲が見えなくなるほど勢いを増してきたが、雨に打たれることをとても気持ちよく感じ歩く速度を落とす。
ゆっくりと周囲を観察しながら歩いていると自宅のマンションに着く直前で一つの塊に目が留まる。
「なんだあれは猫?雨が降っているのにかわいそうに、、、」
道の脇で横になっている猫を見つけ、とっさに自宅へ運び入れタオルで猫の体をふきストーブの側で一緒に暖をとり、そのまま眠りについてしまった。
これが僕とチャロとの出会いであった。
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