自分の強みは他人に訊く
自分の強みって何なんだっけ。
34にして大学三年生のようなエモい悩みを抱えている。
双極性障害の治療を始めて半年以上。
嘘のように症状は収まり、ワニダさんのように暴れて(『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』の大好きな名物キャラ)は落ち込んでいた日々は遥か彼方。
あれは本当に私だったのか。
でも私だったのだ。
薬ってすごい。人格が変わってしまった。
今は凪のような感情。
病気も良くなってきたしいい加減働きたい。さあ働くぞ、と思い立つと別人格だった時間が長過ぎて立ち止まってしまう。
おや、私何が得意で何ができて何がやりたいんだっけ……。
思えばこの歳まで何も考えないで生きてきた。
四月生まれで周りより少し成長が早いというカードを頂き、小中高大と勉強で苦労したことがなかった。
卒業してからも運良くお声を掛けていただくことが多くて、あまり深く考えずに人生のコマを進めてきた。
やりたいことはいつも目の前にあって少し走れば手が届いた。
するとまた新しいやりたいことが出てきてまた走っては掴んで走っては掴んで。
言ってしまうと「やりたいこと」の規模が小さかったのである。
いくつもいくつも小さな夢は叶えてきた。
大きな野望を持ったことがなかったから。
そうやって少しずつ進んできた気でいたけど、今回の長い長い療養期間で「やりたいこと」からものすご〜〜く遠ざかってもう見えなくなってしまった。
細かい経験値稼ぎが得意で、歩幅が狭く跳躍力の無い私には次の飛び石は遥かに遠く感じる。
それでここ数年、ずっと自分の強みについて悩み続けている。
しかしずっと一人で悩んでいても良いことにはならない。
他人に指摘された方が自分のことが良くわかるに違いないと最近思い直した。
それで恥ずかしげもなく人目に晒されるこんな場所に、充血して悶々とした青年のような悩みを書いている。
他人の目に晒そう。さすれば前に進まん(かもしれん)。
教えてもらった方が早いし的確だからという打算も含め。
道に迷った時に思い出す高校の同級生、Kという奴がいる。
彼はどこからどう見ても誰もが認めるオタクだった。
制服のシャツは必ずズボンにぴったりとイン。
ズボンはハイウエストというか胸部まで、上げられるところまで上げるスタイルのため裾が足りず、学校指定の靴下の踝がいつも少し覗いている。
ナナフシのような長い手足はどうやってそこまで日向を避けて生きてこられたのか謎めくほどに青白い。
アニメ、ゲーム、声優はもちろん、昭和のエンタメにも精通しており、カラオケに行くとゴリゴリのアニソンを歌うのかと思いきや異常に演歌が上手い。
好きな番組は『水曜どうでしょう』だった。(アニメじゃないのかよ、という自分ツッコミ込み)
オタクだけど暗くなくて独特のユーモアセンスがあり人気者だった(はず)。
しかし何の気なしに彼に「本当にオタクだねー」と言うと、
「いやいや、ワシなんかまだまだオタクと呼んでいただくには恐れ多いでござ候……」
とネイティヴオタの文法で謙遜するのである。
その時から私は心の中で彼を師匠と仰ぐことにした。
あんなに! どう見ても学年一、いや学校一、いや学校の歴史上最オタと誰もが認めているのに!!
彼にとってはまだまだ他人にはわからない高みがあるようなのだった。
そして「オタク」は褒め言葉なのだった。
私はそんな高みを一度も見たことがない。
アートも音楽も小説も映画もお笑いもアニメもなんでも好きだけど、どれも上澄みだけ食べて生きてきた。俄かだけで生きているある意味燃費の良い生き物です。
何事も極めないと他人に誇ってはいけないのだ、とKから教わったのが幸か不幸か胸を張って誇れるものがない。
その代わり「謙遜するこころ」という大事な大事なスキルを得た。
今こそ師匠に先行き不透明な我が人生を問いたいけれど、高校の時の友人とは今ではほとんど付き合いがなく、私が勝手に崇拝していただけでさほど仲が良かったわけでもないので師匠はいずこ。今でもオタク街道を北総の大地から秋葉原の雑踏の中へと自転車で突き進むが如くまっしぐらだろうか。
そんな中、実家から卒業式の時にKに描いてもらった絵が出てきた。
というかずっと飾ってあったことに気付いた。
そこには島本和彦『燃えよペン』のキャラクター(何でこのキャラだったのか未だにわかりません師匠……)の横に実に味のある書体で力強くありがたいお言葉が添えてあった。
「損なほうを選べ!!」
ぐわあ、この歳で茨の道の選択を示唆されるのはキツイ!
というかこれがずっと私の潜在意識の中にあったのでは……
これからも蛇行人生ということですね師匠……
でも多分師匠もあまり器用な生き方はしていないだろうな、と心の弟子は勝手に安心して今日もうだうだ悩み続けるのであった。
今後お会いする機会がある方にはエモい質問をぶつけてしまうかもしれません。生温い目で見守ってください。
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