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小さな物語。

明日納品の報告書。こういう視点を入れると面白いかもと、せっせせっせと作っていたら2cmくらいの厚さになった。製本して納品しないといけないのだけど、そんな厚さをとめられるホッチキスがない。しかたがないのでビジネスコンビニに走った。

お店に入ると店員さんが何人もカウンターにいた。互いに譲り合うような目配せをして一人の女性が明るく私の前に来た。持ってきた原稿を出し「製本をお願いします」と言うと、「では、お預かりすることになります」と原稿を受け取ろうとする店員さん。なんとなく要領を得ていないような雰囲気を感じとったわたしは思わず「えっ?預かる?」と反応してしまった。怪訝そうな表情をしていたのかもしれない。彼女とわたしの間の空気が一瞬固まった。次の瞬間、すかさず登場した見たことある顔の別の店員さん。「お伺いします」と女性の店員さんと交代してくれた。

たまにしか利用しないビジネスコンビニだけど、なんども使ったことがあり、ポイントカードも持っている。「お伺いします」と登場してくれた店員さんは、そのなんども使っている中で、なんども見たことがある顔だった。
「お伺いします」のあとに出た言葉は「製本ということですが、どのような製本の仕方が良いでしょうか」だった。なんだか安心した。いきなり「お預かりすることになります」と言われるより、まずはどういうことを望んでいるのかを聞いてくれる。たわいもないことだけど、そのひとこと、その対応が、お店への信頼を育むような気がした。(ちょっとオーバーかもだけど)

じつはお店に向かう前、そのお店の場合、製本にどれくらい時間がかかるのかをインターネットで調べていた。「1時間〜即日。翌日受け取り可」と書いていたので、状況によっては1時間でできるのだろうと、1時間待つ覚悟で出向いていった。それをこちらの要望や、それ以前にどのように製本したいのかさえ聞かずに、「お預かりする」と言われたものだから、不信感と言えばオーバーだけど、それにも似た感情を最初の店員さんに抱いてしまったのだ。でも、冷静に考えれば、すぐに製本できる状況ではなく、まず「預かる」ことを先に提示することがお店側としての優しさだったのかもしれないのだが、今日のわたしにとっては不親切に思えてしまった。顔を見たことのある店員さんは、わたしの要望を聞き、「では、そちらでお待ちください」と椅子に座って待つようにうながしてくれた。「あぁ、待ってていいのね。すぐに作業してくれるのね!」 わたしの感情はみょうに高ぶった。「お預かりすることになります」と、一度突き離されたあとだったから、待っていれば製本したものを持って帰られることが、とてもありがたく、うれしかった。

「さて、本でも読んで待とうかな」1時間を待つためにわたしは本を持参していた。「でもその前にメールチェックと返信だ!」 と、その場にいて対処できることを行って1時間待とうと思った。が、しかし、ああだこうだと思う間もなく「お待たせしました」と例の定員さんから声をかけられた。「え?もう終わったの?」 待っていた時間は15分くらいだったのだろうか、とても早く感じてびっくりした。そんなびっくりしたわたしに例の店員さんはおだやかに言った「通常は、機械があたたまるまで30分はかかりますが、今日は、すでにあたたまっていたので早くできました」 そうかそうか、たまたまこんなに早くできたけど、普通はもっと待たないといけないのか。そうよねググった結果も1時間〜と書いてあった。たまたま来店したタイミングがよかったのね。あぁよかった。これで納品に間に合う。あなたがいてくれて本当によかった〜♪ 

「ありがとうございます!とっても助かりました!」 そうお礼を行ってお店を出た。 なんだか良いことがあったようなるんるんした気持ちで歩いている途中で、ふと頭をよぎった。あの最初の「お預かりすることになります」は、なんだったのだろうか。もし私が「え?」と怪訝そうな反応をしなかったら原稿は「お預かり」されて、こうして製本したものを即日持ち帰ることはできなかったのだろうか。なんだろうこの対応の差は。お店側の視点ありきの対応と、お客様側の視点ありきの対応の違いなのだろうか。仮にお預かりすることになったとしても、いきなり「お預かりすることになる」と言われるのではなく、こちらの要望を聞いてくれたうえで、預からなければできない状況を教えてくれたのなら、仕方ないけど納得しただろうと思う。こちらの要望も聞かないまま、頭から「預かる」と決めてかかったような対応にわたしは「え?」となったのだろうと思う。きっと最初の店員さんからしたら、良かれと思ってした対応が裏目に出たんだろう。そしてその店員さんからみたら、わたしはめんどくさい客だったのかもしれない。

きれいに製本された報告書。たった一冊しかない報告書ではあるが、綴じられたその裏には、たわいもないけれど、二人の店員さんとわたしとの小さな物語がある。こんなふうに、いろいろなものやことの裏側には、人知れず、さまざまな小さな物語があるのだろう。想像するとなんだか楽しい。そんなことに気づかせてくれた店員さん。とくに最初の店員さんには怪訝な顔をして申し訳なかった。せめて心でありがとう!とつぶやいてから寝ようと思う。

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