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No.10|資本主義という願望機の欠陥 - 後編

前編で紹介した通り、資本主義は人の願望を原動力に発展してきた。その中で、普遍的かつ強力なものとして、お金を増やしたいというありふれた欲望がある。

大抵が一度は願ったことがあるのではないだろうか。利子だけで生活できたらどれだけ幸せだろうかと。大金持ちになれば退屈な労働から解放されて、自由に生きることができるのだ。「お金がたくさん欲しいならば、まずはお金を貯めて投資に回しなさい」、と親切な経済学者は助言してくれるに違いない。

後編では、この投資が引き起こす資産格差拡大の問題を紹介していきたい。

分かりやすさ重視で単純化してしまうが、資本家と労働者の二種類のプレイヤーがいる社会を考えてみよう。プレイヤー間でモノの売買を通じ、お金が循環することで経済が成り立っている。

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「資本が持つ利回りがプラスである」ということは、「資本に対して、利用者が支払いをしている」ことを意味するその中には土地や建物、あるいは株式会社が生む利益なども含まれる。もし"発行されたお金の量が一定"であれば、資本家の富の蓄積と伴に、労働者間を流通する紙幣量は減少していく。(なお、富が均一に分配されていればその限りではないが、実際として富は偏在している。)

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労働者からすると、「流通するお金が減ったから翌年から給料を下げます」と言われたら、たまったものではない。そこで、政府は借金をして、発行したお金を市場に供給することを考える。これによって紙幣不足を補い、労働者に払う給料を減らさずに済むからだ。けれども労働者の給料が一定で、資本家の富だけが増加するのであれば、労働者と資産家の資産格差は拡大していくことになる。

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資産格差の拡大を食い止めるためには、資本家から余計に税金を徴収し、再分配し直さなければならない(下図)。資本家が集めたお金と同額を再分配することができれば.格差は広がらない

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これに対して、完全に格差の拡大は是正せず、部分的に再分配のとどめた形態が今の資本主義社会である。(以降修正資本主義と呼ぶこととする。)幾分か平等な社会になったものの、再分配が完全ではないために、資産格差は拡大を続けることとなる

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こうして考えてみると、完全に再分配してしまえば格差が広がらず、一見合理的に見えるかもしれない。しかしながらあらゆる収益が平等に分配されてしまうことになり、労働意欲を根こそぎ奪ってしまう。頑張っても給料は変わらず、努力が全く報われない。誰も真面目に働かなくなり、社会全体が衰退してしまう。

一方の修正資本主義は、労働者の不満をある程度抑え、短期的にはうまく機能する。しかしながら時間とともに資産格差が拡大し続けるという問題は解消されていない。いまや世界における上位26人が下位38億人分の富を保有するに至るほど資産が偏在してしまっている。個人の資産が国家の予算を超えるまでに成長し、社会は一個人の気まぐれに左右されるほど不安定なものに変化している。

少しでも資産格差の拡大を抑制するためには、資本家からの再分配の比率を上げなければならないけれども、これは容易なことではない。資本家への引き締め―—即ち増税を行うと、資本家の反発を買ってよそに逃げてしまうからだ。

グローバル化が進んだ現在、モノ・ヒト・カネが自由自在に移ることができるようになった。税が高い国から低い国へ比較的簡単に移転できるようになり、一国内の安易な増税は国内産業の空洞化を招いてしまう。それぞれの国家は、グローバル企業を誘致しようと法人税を引き下げ合い、結果的に国家全体の徴税力を弱める結果となった。

歴史を振り返ってみると、長期・積立・分散こそが投資の定石であった。例外的な時期はあるものの、株価は決まって右肩上がりであり、それがずっと続くものと期待されてきた(次図参照)。しかしながら株価上昇の歴史は、そのまま資産格差拡大が黙認されてきた歴史であり、前章で触れた通り、人類の絶え間ない欲望の拡大が許容された歴史でもある。長期・積立・分散で確実に儲かるようにルールを作ってきた結果、格差は拡大し、資源の浪費を招き、環境を破壊してきた、という資本主義の負の面は、通常教わることはない。

長期投資

長期投資による主な試算の価額推移(引用元

積み上げられてきた借金によって、生まれた瞬間に親世代から信じられないほどの多額の借金を押し付けられるという異常事態が発生している。持てる者と持たざる者の経済的な格差はいっそう覆しがたく変化している。個々人がそれを望んでいようとなかろうと、社会システムがそうなるように設計されており、ゲームから抜け出ることを誰も許されていないのだ。

『だって おかしいでしょう。どれだけの才能を浪費していることか。
(中略)
Facebookで働く数学の天才が何年か前に嘆いていましたね。「私の世代最高の頭脳が考えることが、よりにもよって ウェブ広告のクリックをどうやって増やすかだなんて」。』(引用元

投資で儲けようとするのが悪いわけではない。儲けたいということが原動力となって人は動き、新しい技術に資本が投入され、社会の新陳代謝が促進されているのも事実だからだ。資本家の努力に報酬として報いつつも、その利益を公平に徴収・分配して資産格差を広げない、新しいシステムを私たちは提案しなければならないのだ。でなければ、あまりにこのマネーゲームは過酷過ぎる。


▼マガジン(全12話)

twitter:kiki@kiki_project
note:kiki(持続不可能な社会への警鐘者)

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