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No.6|気候変動は何を招くのか?

今や将来の地球環境を正しく知っておくことは,リスク管理の上でとても重要なことだ.何が起こるのかを理解していなければ、何をすべきなのかも分からない。

まず、世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書(2020年版)から,世界のリーダーが考えている将来リスクを示そう。

グローバルリスクの展望

この結果によると、"気候変動"や"生物多様性の喪失"などが上位に上がっており世界のリーダー達が強い危機意識を持っていることが読み取れる。

以下は報告書からの抜粋である。

憂慮すべきなのは、世界の気温は21世紀末までには最低3℃上昇すると言われていることである。これは気象専門家が予想しているより2倍増の数値であり、経済、社会そして環境に最悪の影響をもたらすかどうかの限界点であると警告している。きわめて近い将来の気候変動による影響は地球存続の危機に近づいており、それはすなわち生命の喪失、社会および地政学的な緊張の高まり、そして経済の低落を招くことになる。
現在の絶滅率は過去1,000万年の平均よりも数10倍から数100倍高く、さらに加速している。世界の76億人の人類はあらゆる生物のわずか0.01%にすぎず、人類はすでにあらゆる野生哺乳動物の83%と植物の50%を喪失させている。失われた生物の総数が低く見積もって約200万種とすれば、200種から2,000種が毎年絶滅している計算だ。最も高い試算では、1万種から10万種が毎年絶滅している。

このように、かなり厳しい言葉で警告が出されている。現在は地球史上「第6の絶滅期」と呼ばれるほど,生物の大量絶滅が進んでいる。一度絶滅してしまった種は、二度と取り戻すことはできない。地球は存続さえ疑われる危機にある。

ここからは,気候変動の状況についてより詳細に紹介していこう.

①気温はどう変わるのか?

気候変動に関する政府間パネルの第 5 次評価報告書によると,1880年~2012年の間に0.85℃上昇していると報告されている.特に直近30年における温度の上昇速度は特に大きい。

観測された世界平均地上気温

そして,将来の気温は次のように予想されている。

RCPシナリオ

温室効果ガスの削減に成功できれば、青い線(RCP2.6シナリオ)に沿って気温の上昇は抑えられる。一方で削減に失敗したならば、赤い線(RCP8.5シナリオ)に沿って気温の上昇は続くとされている。

現在より2℃の温度上昇を許容したRCP2.6のシナリオの達成でさえ、実は相当難しい。達成のためには『温暖化ガスの排出量を2020年から30年の間に前年比で年7.6%減らす必要がある』と国連環境計画(UNEP)から報告されている。これは化石燃料に依存してきたライフスタイルを根本から変えないと達成が不可能だ。

なお、これらのグラフはあくまで世界の"平均"地上気温を示している。注意しないといけないのは、気温上昇は一律ではなく、地域によって気温の上昇幅は相当なバラツキがあることだ。

次の図は二つの削減シナリオ(RCP2.6とRCP8.5)における21世紀末の温度変化の分布を示している。RCP8.5では、平均では4度前後の上昇であるが、緯度が高い地域は12度近く上昇することが予想されている。この著しい変化は、生態系・農業・インフラに相当な影響を与えてしまう。

世界地図_100年後の平均気温

日本も相当暑くなる。環境省が予測する未来の天気図を紹介しよう。(RCP8.5に基づく。)ここまで高温になると、全国どこでも外に出るだけで命が脅かされることになる。

2100_tenki_未達

②では、気温が上がるとどうなるのか?

気温が上がる損害は、相当多岐にわたることが予想されている。

・熱中症患者の増加
・食料の減産
・大雨や干ばつの増加
・生態系への影響

夏の気温が上昇することで、熱中症患者が増加したり、日中に働く・出歩くことが困難になる。またこの猛暑によって、屋外で飼育・栽培している家畜や農作物に少なくない影響が出るだろう。さらに気温の上昇によって雨雲が発達したり、近海の温度が上がることで台風が発達し、激しい大雨や猛烈な台風による大規模な被害が予想される。気圧配置の変化は、季節を無視した極端な気温の変化につながる。

特に昨年の2019年度は、日本は異常気象だらけの年であった。まず、10月の台風19号は関東を中心に多くの地点で観測史上1位の降水量を記録し、大規模な河川氾濫を招くこととなった。下図にある、針のように立っている部分は観測史上1位を更新した地点を示し、まるで剣山のようになっている!例えば箱根では年間雨量の半分がわずか24時間で降る結果となった!

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また2020年の冬は、統計開始以降最も気温の高い気候となった。次のグラフは地域平均気温平年差をプロットしたものであるが、平年気温と比べて平均で2度近く上回っている。

2020年日本暖冬

この数度の変化によって、今まで起こり得なかった災害が起こり始めている。次の図は過去と現在における、災害規模とその発生確率分布を模式的に示したものだ。気温の上昇によって、確率分布が右へと遷移してしまった結果、台風19号のような大災害がより高い確率で起こり得ることを示している。つまり、"100年に一度"の災害が例えば"10年に一度"起こるように変わり、異常気象が日常化し始めている兆しと捉えられるのだ。

災害の発生確率分布の変化

2019年度に発生したオーストラリアの森林火災はその実例である。一連の森林火災で10万平方キロメートル以上の森林が消失した。これは日本の面積の1/3近い数値である。記事によると、『昨年、オーストラリアは観測史上最も暑く、最も乾燥した1年』であり、英気象庁ハドレー気候予測研究センターのリチャード・ベッツ教授はこう述べている。

オーストラリアでの(2019年)12月の気温は、今は異常に思えるが、平均気温が3度上昇した世界では、普通になるだろう。つまり我々は、将来、平均気温が摂氏3度高くなった時に(地球上の)普通の状態がどういうものになるのかを目の当たりにしている

生態系への影響も待ったなしである。数度の気温上昇はサンゴ礁に致命的なダメージを与えてしまう。サンゴは高温に弱く、1,5度の上昇で70~90%が減少、2度の上昇で99%以上が消失するとされている。サンゴ礁はキーストーン種と呼ばれ、その喪失による生態系へ影響は極めて大きい。

地球温暖化による海水面の上昇も深刻な問題だ。これは陸上の氷が溶けて海に流れ出すことと、海水の体積が温度上昇で膨張するために発生する。21世紀末では、RCP8.5シナリオの場合、45~82 cm上がることが想定されている。

海面上昇の推移

世界平均海面水位の上昇予測(引用元

海面が高くなることで沈む国も現れ始める.日本でも標高の低下によって海抜ゼロメートル地帯が拡大し、高潮の被害が深刻化し始める.

たかが数度でも侮ってはいけないのだ。それは未曾有の災害の始まりかもしれない。一度進んでしまったら最後、もう元には戻せない。


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note:kiki(持続不可能な社会への警鐘者)


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