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ひとでなしと二人の少女 【清世さんの#絵から小説 参加作品】

私は初めから人間ではなかった。姉は私をいじめてくるし、何のために居るのか解らなかったし、両親も解らないようだった。

とりあえずは小中高と監視下に置かれて、人間になりきれないまま日々をやり過ごしていた。

人間でない私と、真剣にやり取りをする者はほぼ皆無であったものの、2人友人になろうとしてくれた少女がいた。

1人は小学校の時によく遊んでくれた、優秀な成績をおさめている、字の綺麗な少女だった。

その少女の家は洒落た1階建ての洋館で、辺り一帯を同じ苗字の農家や建設業が支配しているような土地の一番の低地にあり、豪雨や台風の時には頻繁に浸水の憂き目にあっていた。
長男はその地域ではただ一人、中学からはどこか遠くの私立に通っており、当の少女も小学校を卒業したらもう会えなくなるのかと思っていたので、まだ同じ学校に通えるのだと知った時にはほっとした。
しかしどうも頭の良い家系なのに、なぜこんな土地を掴まされているんだろうと不思議に思っていた。
父親も兄も厳しい目つきでこちらを見た。
その少女は性格が優しかったので、家の中で大変ではないかと心配したりもした。
家に遊びに行くと見慣れない物が沢山あった。
毛足の長い真っ白な絨毯、金の猫足を持つ小ぶりな大理石のテーブル、つやつやのグランドピアノ。
母親はかかとの高い華奢なスリッパで、少女の部屋に盆を携えてやって来る。
お紅茶お持ちしましたよ。
と言って、紅茶とオレンジジュース2組づつとケーキを持って来てくれるのだ。
私は紅茶におを付ける、初めて聴く響きに驚いて、上手くお礼が言えなかったのを覚えている。

東京で1人で暮らしていた半地下の穴蔵から、そう遠くないところに彼女も住んでいると少ない年賀状で判明した。
お互いに驚いて喜び合った。
一度だけ会い、二人でお酒を飲んだ。
その時に、あの土地から引越しをしたと聞いてほっとした。
しかし後に、引越し先が大規模自然災害があった土地で、またしても貧乏くじを引かされてはいやしないかと心配している。

もう1人は、高校からの帰宅時にバス停で、向こうから話しかけてくれた少女だ。
そんなことをされるのは、時間を聞かれるとかバスをどのくらい待ってるのか、そんなことだろうと思っていたら、そうではないので面食らった。

その少女の好きな音楽は、田舎では聴いてる人間があまりいないような洋楽か、日本のものはインディーズバンドのものばかりで、一緒に聴いて楽しむような同志を求めているようだった。
人と違うものを提供してくれるその少女を受け入れて、私の気に入りはCUREとYBO2だった。
異端を恐れぬ音楽家たちは、私の精神の支えに大いに役に立った。
その少女は高校を卒業した後に東京の服飾専門学校へと入学した。

法的に、外で一人で暮らしても大丈夫な頃合に、両親がいつの間にか檻の扉を開けたまま放置していた。
私は迷いなく外に出て、何ものにも引かれずに前に進む。
ようやく自身の自由に気がついて、初めてのびのびとできたのはこの頃だ。
しかし、人間でないということは隠すべきだという本能に従って、調子に乗った行動もたかが知れている範囲で、大人しく地味に暮らしていた。

高校のその彼女とは、私も卒業後は東京へ行っていたのだが、会えない距離でもなかったものの、会うでもなく疎遠になっていた。

とある日、新宿駅の広大な改札口エリアで、肩をたたかれて振り向くと彼女がいた。
私はその頃、初めての自由にうつつを抜かし、誰も必要としていないような心持ちだったので、学校の廊下で居合わせたみたいな感覚だったが、向こうはかなり興奮して驚いていた。
私があまり驚かないのを見てさらに興奮していた。
今だったら一緒に驚いて肩を叩き合うのにと思う。
その後学校を中退し田舎に戻っていると聞いて、電話を掛けてみたことがある。
ままならぬ人生のうちの、窪みの一つにはまりこんだかのような声をしていた。
彼女を勇気づけられたならどんなに良かったことだろう。
会って美味しいものでも食べて、昔話に花を咲かせられていたら、彼女の気も少しは晴れたかもしれない。
未熟な私は、彼女の暗闇をまともに受けて染み入らせてしまった。
そうしてしっぽを巻いてしまってその後を知らない。

私は既に人間にはなれない事を知っている。
しかし私はどんな生き物なのだろう。
泰然とした大きな生き物だったら良かったのに。
狂気を孕んだ獰猛なものでもいい。
起こって欲しいことを思い浮かべても、そのまま起こった経験はない。
ならば悪いことも考えておこうかと、原始のスープのプランクトン、灰色っぽい蛇、死んだカマキリから出てきたニョロニョロした奴、ムカデ、G、働きアリ。
家猫だったらいいなと思い飼い猫を思い浮かべる。
猫だったらもっと人間にはモテているはずなどと考えながら、コンビニでおやつカリカリを買い家路に着いた。


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清世さんのこちらの企画に参加させていただきます。

素敵な絵ですね✨


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