邪念を捨てたブロッカリフラワー 〜 Horace Silverインタビュー(2003)
Horace Silverとは当時の若手ジャズミュージシャンの登竜門となっていたJazz MessegersをArt Brakeyと共に立ち上げたジャズピアニストです。
さらにジャズの名門レーベル「Blue Note」に何十年も籍を置き続けた人物でもあります。まさしくミスターBlue Noteです。
それではいきましょう。
翻訳元の記事 https://www.allaboutjazz.com/my-conversation-with-horace-silver-horace-silver-by-aaj-staff.php?width=412
イ: 音楽を始めたころの話から始めようか
H: 小さい頃から音楽が好きで、78回転のビッグバンドジャズのレコードをよく買ってたよ。
Tommy Dorsey、Jimmy Dorsey、Glenn Miller、Count Basie、Duke Ellingtonとか全部だよ。
そしてすぐにピアノをプレイしたいという衝動に引き寄せられていったのさ。
少しだけテナーサックスもやってたけど、今じゃピアノがメインだね。
イ: なぜ両方やらなかったの?
H: (両方やっていた期間は)ちゃんと咀嚼せずにガッツいてたんだと思うよ。テナーもやりたい、ピアノもやりたい、作編曲もやりたいって具合にね。そうなってくるとやることが多すぎたんだ。
中途半端になってしまう。
だから最終的にピアノと作編曲に集中する決断をしたんだ。
Horaceがサックスもやっていた時期、彼は高校生だったそうです。
イ: あなたの音楽に影響を与えたのは何?
H: ブルースだったり、ゴスペルだったり、スウィング、ビバップ、ブロードウェイショーの音楽、クラシックとかね。基本的にアメリカ音楽だよ。
イ:沢山の音楽から影響を受けたことがあなたの音楽に一役買っているってこと?
H: 間違いないね。これはシチュー作りみたいなものなのさ。いろんな材料を入れてから味付けする。アレコレ入れて、混ぜ合わせるんだ。
イ: あなたはBlue Noteでリーダー作を40枚以上作ってますよね。
H: マジかよ!って出来事がずっと起こるんだ。朝起きたら頭の中に音楽があるんだ。毎朝とまでは言わないけどね。
起きて8小節が頭に浮かんだときは、すぐにピアノに向かうんだ。最終的には曲のブリッジとか書き上がるんだよ。まるで指令をこなしているみたいなんだ。
そしたらそれをテープレーコーダーに録音して、さらに発展させるんだ。
イ: ある期間、あなたはArt Brakeyととても親しい関係だったよね。
H: Artはすごい男だったよ。沢山の事を学んだ。音楽をやるときは自分自身を音楽に差し出すこととか
ステージに立ったならば邪念を捨て去って150%の力を出すことを学んだね。
よく思い出すことがある。Café BohemiaでArtは俺たちに指導してたんだ。Artはバンドがやってることに満足してなかったんだと思う。
彼は言った。「おれはおまえたちが彼女や奥さんと喧嘩してようが構わない。
でもこのクラブに来るときは、諸事情は外に置いてこい。ビジネスを気に掛けろ。」彼はこうやって俺たちを焚きつけてたんだ。
アルバム「Horace Silver and the Jazz Messengers」は1956年にリリースされ、売り上げも良かったそうです。
アルバムに収録されている「The Preacher」に対してBlue Noteの設立者であり、このアルバムのプロデューサーだったAlfred Lionは難色を示していたそうです。理由は"古臭いから"だったそうです。
イ: Miles Davisとのエピソードはある?
H: Milesは天才。彼は時々変なことしてたけどね。彼はきっと双子だよ。二重人格って呼ばれてたね。
笑っていたとしても1分後にはめちゃめちゃ不機嫌になってる。彼が怒ってるとき、おれはその場を離れる。
彼が陽気なときは一緒にいると楽しいんだよ。
俺たちはいつも音楽の話をする。素晴らしいミュージシャンが集まったときは音楽の話をするんだ。
すると子どものようになって、バカなことで目眩がするまで笑うんだ。
イ: ジャーナリストはあなたを「ハードバップのパイオニアの1人」と評するけど、ハードバップってなんだと思う?
H: その単語についてだけど、批評家がこの音楽をそう呼んだってだけ。
まぁバップが少しエネルギーを帯びたものがハードバップって言えるかもしれないね。
きっちりしたバップがあって、次にハードバップがあった。
きっちりしたバップはもっと洗練されていって、ハードバップはデカい音でバンバン鳴ってるみたいな音楽だよ。
イ: Verveからでるニューアルバム「Jazz Has a Sense of Humor」の話をしようか。
ジャズは本当にユーモアな感覚を持ってると思う?
H: 間違いなく持ってるよ。全ての音楽はある程度ユーモアであるべきだと思う。音楽のすべてが可笑しくなければいけないというわけではないよ。
おれはコメディーを愛している。10代の頃、ノーウォークの小さなクラブで週末に演奏してたんだ。
そこではコメディアン、ストリッパー、そしておれたちミュージシャンがショーをやるんだ。
俺は彼らのジョークをよく聞いてた。ほとんどダーティーなやつだったけどね。
それをクラスの奴らに話すと、手を叩いて笑い転げるんだ。
おれはRichard PryorやJack Benny、すべてのコメディアンを愛してる。
コメディーはこの世に音楽があることぐらい重要なんだ。
気分を上げてくれるコメディーは必要とされている。
アルバム「Jazz Has a Sense of Humor」は1999年にリリースされ、Horaceの最後のスタジオアルバムでもあります。
Horaceが亡くなったのは2014年なので最後のアルバムになったのは別の理由からでしょうが、ネット上の情報を見つけられませんでした。
イ: 今のあなたにとって、ピアニストとしての自分と作曲家としての自分、どっちが重要?
H: どっちもだよ。でももし誰かがおれの頭に銃を突きつけて「ピアノか作曲どっちか選べ」って言われたら、作曲って言わなくちゃいけないかもね。
なぜなら底知れない喜びがあるから。
作曲にはスリルがあるんだよ。まるで帽子の中からウサギが出てくるみたいにね。突然なのさ。
アイデアの小さな宝石を手に入れたら、それに努め続けるんだ。するとそのアイデアの宝石は美しいメロディやハーモニー、リズムになる。
スリルだぜ。
イ: ジャズの未来についてあなたはどう思う?
H: 全ての要素は演奏されるためにあるんだ。未来の人が過去の音楽を聴くとき、異なる要素が一緒になるんだ。
例えばブロッコカリフラワーってのがあるとする。それはブロッコリーとカリフラワーのハイブリッドなんだ。ブロッコリーみたいな緑とカリフラワーみたいな形をしてる。
これは音楽にも言えることだと思う。
異なる要素同士が互いに混ざり合って、ハイブリッドになるんだ。
以上です。
翻訳元のサイトではこの記事は2003年にポストされていますが、インタビュー内では「Jazz Has a Sense of Humor」をニューアルバムとしていたので、インタビュー自体は1999年のものかもしれません。
インタビューの最後には新作を作っているという発言をしていたので、もしかしたら世に出ていないアルバムがまだまだあるのかも知れませんね。
Horaceはジャズの未来を「ブロッカリフラワーのようなハイブリッド」と言っていますが、2020年現在ジャズのメインストリームはその通りになっていると思います。
ゴスペルやブルースといったジャンルだけではなく、ヒップホップなどの後発の音楽をも貪欲に取り込み続けるジャズはまさにブロッカリフラワーですね。なんてしたたかな音楽なんでしょうか。
Art Brakeyの「邪念を捨てて150%を出す」という教えとブロッカリフラワーという感覚は音楽のみならず、全てに通じるような気がします。
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