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【実話】夢の中で見た不思議な話

これは私が実際に夢で見た不思議な話です。

──元哉(もとや)──
好きな人がいた。その人に一緒に帰ろうと言ったが無理だと言われた。
しかし、学校がおわり、門のところを出ると彼女は声をかけてきた。「一緒に帰ろう。」
「無理だ」と断られたのに。なぜ今更?
奇妙なものでその時他の生徒は彼女が4方向に分身していったところを見たという。

──時が経ち、元哉はその彼女と結婚した。いわゆる順風満帆な結婚生活を送っていた。時が経ち、お互いに歳を取った。皺が増えて足も覚束ず、外に出るのが辛くなってきた頃、彼女と散歩に出た。杖を付けばなんとか歩ける。懐かしい母校の門の前を通ろうとした時、元哉は不思議な物を見た。大きな泡の様なものが現れた。ドーム状のような形をして触れたら消えてしまいそうだった。どこか懐かしい色褪せた黄緑や水色が混ざった様な色だった。そこには車があった。ドームの中にあった。なんとも不思議な光景だった。車から誰か出てきた。途端、元哉は目を疑った。若い頃の自分だ。まだ20代の頃の。彼は彼女と2人でドライブに来ていたところだった。その時、若い頃の元哉とバッチリ繋がった。FPSゲームで一人称視点の自分が他の人の視点に変わるように、元哉の視界が完全に泡の中にいる元哉に移った。自分だけが運転席から降りて車から出ていて、彼女は助手席に座っているままだ。
驚いたことに、自分の周りにはいくつかの泡が浮いていた。
「1、2、3、、、。」
彼女の方を見ると、頭から真っ二つに裂かれようとしていた。
まるでチャックのファスナーをゆっくりゆっくり引くようにじわりじわりと裂かれていった。彼女は一言も発せずなんの表情の変化も無く、鉄のような顔で裂かれていった。とてもこの世のものとは思えない。裂かれたところがぺろんと外側に垂れていく。
遠くから視線を感じる。
「1/5、2/5、3/5、、、、」
いつの間にか、そう呟いていた。何故かは分からない。
「あの、何言ってるんですか…?」
通りすがりの人は怪訝そうな目でこちらを警戒していた。
言われてはっと気付いた。そこには何も無く、ただ年老いた自分だけが立っていた。
私ももう、長くは無いんだろうとそこで分かった。
途端、元哉は静かにそこで倒れた。学校の門の前だった。


追記:これはとある語り手の話だった。自分はそれを正座で座って聞いている状態だった。
泡が3つ、というのは当初彼女が4方向に別れて、彼女とその分身の3つがそこに現れていた、ということらしい。
「1/5、2/5、3/5…」というのはこの世の者では無い物を数えていた。泡の中には元哉と泡になった彼女の分身3つと裂かれた彼女で5人。だから元哉は自分の死を悟ったのだ。
最後、元哉が倒れた場所である学校の門の前とは彼女が4方向に別れた場所と同じところだった。
果たして元哉が結婚して一緒に暮らしていた愛しい彼女は本当の彼女だったのだろうか。それとも分身した姿の彼女だったのだろうか。

それと、散歩中にすれ違い様にとある老婆が少し立ち止まり、そっとこんな言葉を言って去って行った。
「人は1人の時しか頑張れないのよ。人が人である時しか。」
意味ありげな少し俯いた表情で言った老婆は果たして何を伝えたかったのか。
これは果たしてどういった意味だったのだろう。

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