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投書の話

 以前Twitterで投書についてつぶやいた。

年末なのでそろそろテレビ局や新聞社のインターン採用も本格化する季節。記者志望の学生にオススメしたいのは「投書を月に1回は掲載させる」こと。新聞の投書は作文練習にもなるし自分の意見をまとめる力を養える。加えて原則署名付き。ESの話題にも使えるので、早速今日からチャレンジしてみては。

これについてもう少し詳しく書きたい。

〈見知らぬ故人の投書に心揺さぶられ〉

 投書を始めるきっかけは「自分が生きた証を残したい」という気持ちだった。仰々しい表現かもしれない。

 私が通う大学図書館には朝日、毎日、読売、産経、日経の膨大な縮刷版が開架図書にあった。空きコマの暇な時間を見つけては適当な縮刷版を開き、古い新聞記事を読みあさっていた。
 
 中でも読者投稿欄はある意味新聞記事以上に世相を映す鏡だと感じた。その時代を生きていた人が何を思い、どのように生きていたのか。新聞は数十年、百年経ってもそれらを記録している。
 
 阪神淡路大震災が起きたとき、ある新聞には「72年前の関東大震災を思い出した」と記された投書が載っていた。今では当時を語れる体験者はほぼいないだろう。恐らく、この投書を書いた方も既に亡くなっている。

 それでもなお、現代に生きる私が見知らぬ故人の残した文章を読み、感慨を覚えている。普段何気なく「声欄」や「みんなの広場」を読んでいたが、改めて投書が持つ可能性に心が揺さぶられた。
 
 考えてみれば投書は記者にならずとも自分の署名を残せる紙面である。「もし記者になれなくとも、投書が載れば夢は半分叶えられるのでは」。当時はとにかく自分の名前を残す「自己顕示欲」ばかりが先行していた。とりあえず書いてみようと各社の投書の応募要項を検索した。

〈応募要項は各社に個性あり〉

 当時、神奈川県内に住んでいたため、私が購読できる新聞は朝日、毎日、読売、産経、東京、神奈川の6紙だった。順に各社が定めた投書の字数を改めて確かめたい(各社要項をクリックをするとさらに詳しい内容が書かれた各社のページに飛びます)
 
【朝日=声欄】
 500字程度。郵送かメール

【毎日=みんなの広場】
 400字程度。投稿フォームか郵送(投稿フォームでは420字以上になると送られない)

【読売=気流】
 東京本社は330字程度。大阪、西部本社は400字程度。郵送かメール

【産経=談話室】
 400字。郵送かメール

【東京=発言】
 360~400字程度。ミラー(囲みで大きく扱う投書)は620字程度。投稿フォームか郵送

【神奈川=自由の声】
 500字程度。投稿フォームか郵送。ワイド投稿「意見異見」は900字程度。150字程度の短文も歓迎
 
 こうして見ると「大同小異」と言うにはもったいないほど各社の応募要項には違いがある。

〈最低でも月に1度は〉

 私はもっぱら電車移動中にスマホで投書を作文した。手書きの方が筆跡に味があっていいかもしれないが、貧乏学生にとってはがき代と切手代はばかにならない。幸い、大学から都内のバイト先までは片道1時間強あった。ネタはいくらでも思い浮かんだ。大学での出来事、紙面を読んで感じた思い、街を歩いていて遭遇した怒りや疑問…。
 
 「最低でも月に1度は投書を載せよう」と目標を立てた。ふたを開けると私は大学時代に50弱の文章が複数紙に掲載された。旅行先で地方紙にも投稿したので、全国紙だけでなく東北から沖縄にかけてさまざまな新聞に名前が載った。
 
 掲載される「打率」は7割ほど。きっと、若い世代の投書が少ない分、ヒットしやすかったのだろう。ちなみに朝日新聞の声欄には年間7万通近い投書が寄せられるらしい。となると日本で最大部数を誇る読売新聞の気流欄は恐らくもっと倍率が高いのだろう。全国紙に投書が載ったときは、嫌がられない程度に自慢してみてもいいかもしれない。

〈就活生こそ投書を〉

 朝刊を開くと、自分の名前とともに自分が考え生み出した文章が印刷されている。なんだか不思議な気持ちになる。それと同時に「新聞が載せるに足りうる意見だと認められたのだ」と喜びが湧いてくる。
 
 「お前の自己満足だろ」と思われるかもしれない。おっしゃるとおり。でも、投書が掲載された者にしか味わえないうれしさや喜びは確かにある。

 Twitterでもつぶやいたことだが、特に就活生はぜひ投書を。マスコミを目指していなくてもいい。自分の投書のスクラップを選考に持っていけば、それだけでもアピールになるはず。
 
 それに、投書を書き続ければ短文で自分の考えを伝えるトレーニングになる。すなわち、エントリーシートやレポートを書く際に役立つスキルである。

〈謝礼以上にうれしかった「一言」〉

 投書の「原稿料」は図書カードか商品券で返ってくる。朝日新聞や読売新聞は3000円、地方紙であれば500円~1000円が相場だ
 
 レアケースとしては、海外から投書を送って掲載された時に物品が送られてくる場合がある。私は学生時代のある時期、海外に居住していた。その時は投書を載せてくれた新聞社から今治タオルが送られてきた。金券を海外に送ることはできないのだろう。
 
 原稿料以外にもうれしいものはある。それは投書欄担当の記者からメッセージが寄せられることだ。神奈川新聞の場合は謝礼の手紙とともに手書きで一言、投書の感想が返ってきた。とても温かい気持ちになったのを覚えている。
 
 また、掲載が決まると内容の確認のため投書欄担当の記者から電話が掛かってくる。その際交わされる何気ない雑談が楽しかった。「いつもありがとうございます」「無事に卒業されるのですね」。顔の見えない相手でも、投書でつながっていると思うと、自然と明るい気持ちになった。

〈掲載は「1紙に月1」ルール〉

 一つの新聞社に投書が載るのは月に1回が限度のようだ。ただし1カ月以上間を空ける必要ななく、月をまたげば再び掲載のチャンスが与えられるシステムになっているらしい。

 例えば読売新聞に投書が掲載されたなら、同月内に再び読売新聞に投書が載ることはない。「もう一度読売に載せたい」と考えるならば、翌月以降に再び気流欄に送ろう。
 
 言うまでもなく、二重投稿は厳禁。恐ろしいことに同じ投稿が朝日、読売、毎日、産経全てに載ることは理論上あり得る(そんなことが起きればよほどの名文だろう…それに他紙の投稿も担当者はチェックしているはず…)。たくさんの文章を生み出し、各紙に1つずつ送るのがベターだと言える。
 
 まもなく2022年が始まる。新年に新たな挑戦をしようと考えている方は、投書を書いてみるのはいかがだろうか。

 ちなみに私が謝礼の図書カードで購入したのは共同通信社の「記者ハンドブック」。今も会社の机にある。

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