見出し画像

僕と息子と帽子の関係。

小学生の僕のあだ名は、「赤い帽子の男」だった。

小学4年生ころからだろうか、あだ名そのまま、僕は毎日真っ赤な帽子をかぶって登下校をしていた。母が買ってきてくれた真っ赤な帽子が格好良くって、僕は大変気に入っていたのだけれど、その真っ赤さが目を引いたのだろう。年下の少年たちから、「赤い帽子の男」というあだ名をつけられ、卒業するまでずっと呼び続けられていた。正直、最初は呼ばれて気持ちいい感じはしなかったけれど、帽子が僕の頭に馴染むのと同じように、そのあだ名も気にならなくなった。そのころには、命名した少年たちとも、追いかけっこをしながら一緒に帰るくらい、まぁまぁ仲良くなっていた。

***

中学生になった僕は、「赤い帽子の男」ではなくなった。なぜなら、中学生になって制服の学ランを着るようになったから。学ランな真っ赤な帽子は、あまりにもチグハグすぎる。それでも、校外学習なんかで、帽子がいるときはあの真っ赤な帽子を被っていた。当時の写真を見ると、すぐ自分を見つけることができる。真っ赤な帽子の少年を探せばいいのだ。

高校生になっても、日常的に帽子を被ることはなかった。髪型が気になるお年頃だったからである。せっかくセットした髪も、帽子をかぶったら最後、ぺしゃんこになってしまう。もう被られなくなった真っ赤な帽子は、どこかへ仕舞われてしまった。

***

大学生になって、おしゃれに目覚めたころ、僕は帽子が苦手になっていた。というのも、自分に似合う帽子がないのだ。キャップもだめ、ニット帽もだめ。ベレー帽やキャスケットなんかもしっくりこなかった。唯一似合ったのは、実家にあった母の麦わら帽子くらい。理由は、どうやらぼくの頭の形にあった。後頭部が丸く張っていて、全体的にサイズが大きかったのだ。「坊主頭がよく似合いそうですよ」と美容師さんに褒められたけれども、坊主にするより帽子が被りたかった僕は、懲りずに何度も帽子を試着をしてみた。けれど、やっぱりしっくりこない。いつしか、「帽子、頭が大きくて似合わないんだよね」が口癖になっていた。

***

そんな僕が、ついにこの夏帽子を買った。NineTailor / ナインテーラーのキャップである。子どもと公園に遊びに行くようになって、日差し対策が切実になった。顔や体は日焼け止めを塗るとして、頭にジリジリ照りつける太陽はどうにもならない。日傘を刺して公園で遊ぶわけにもいかないし、やっぱりここは帽子の出番か、と思った矢先、北欧、暮らしの道具店でキャップの取り扱いが始まった。ちょうど他のものを買おうとしていたタイミングだったので、ちょっぴり逡巡したけれども、えいやっとキャップをカートに入れた。

サイズ調整が革ベルトでできる、とか、裏地がなくて夏場にもぴったりという売り文句に魅力を感じつつ、最終的にはスタッフの方の着用レビューが決め手となった。頭の大きさまで明記して、帽子の調整具合を書いてくれていて、頭の大きな僕にもなんだかしっくりきそうな予感がしたのだ。

***

到着した帽子を被ってみると、帽子が似合わないはずの僕の頭をすっぽりと包んでくれた。革のベルトもまだまだ余裕をたっぷり残していて、頭が大きいことを気にしていた僕をほっとさせた。被った感じも、なかなか悪くない。日差し対策で買ったはずの帽子だけれど、なんだかおしゃれな人になれた気がして、たくさんこの帽子を被りたいなと思うようになった。

もう一つ、思わぬ収穫だったのが、長男が帽子を被ってくれるようになったことだ。こだわりの強い彼は、帽子を被るのをとても嫌がっていて、公園で遊ぶ時も熱中症になってしまわないかとヒヤヒヤしていたのだけれど、僕が帽子を被るのをみて「いっしょ!いっしょ!」と、進んで帽子を被ってくれるようになったのだ。気がつけば、一石三鳥くらいのいい買い物になっていた。

***

今日もまた、息子と一緒に外へ出かけよう。手を繋いでお揃いで帽子を被って。公園に行こうか、電車に乗ろうか。

帽子が似合わないという思い込みから、一歩踏み出してみると、僕の世界はちょっと広くなったようだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?