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燃ゆる君、廻る僕─星と命に就いての夢現─

星とバンドは似ている。

と、過去に思ったことがある。


夜空に輝く星のほとんどは「恒星」であると聞く。
恒星とは、簡単に言ってしまえば太陽と同じ仕組みの星だ。
星の内部で核融合反応という現象が起き、それが星の表面を覆うガスまで伝わって、キラキラと輝くのだ。

そして内部の燃料が尽きた時。
それが星の死である。
バンドの解散と似ているな、と思った。


しかし、最近ぼくは店から家までの帰路の中で、ふと思ったのだ。

いや、人はみな星に似ている、と。


ぼくが目を向けていないだけで、世の中にはいくらでも輝きを纏う人々がいることを、ぼくは長い社会不適合者生活の中でどうも忘れていたらしい。

お店の子達も、それを推すお客様も、みんな輝いている。
夢がある。愛がある。輝きたい、あるいはそれが欲しいと手を伸ばす「欲」がある。
野望と言っても差し支えないだろう。

素晴らしいことである。
ぼくが好んで興味を持ったバブル期の世界のように、夜の人々は生き生きとしている。

アルコールと愛の熱量で心臓を燃やし、その熱で沸騰した血液を身体中に巡らせて眩く発光する人々。

彼女ら、彼らは紛れもなく恒星である、と思ったのだ。


さて、それに引き替えぼくはといえば、だ。
ほんっとーーーーーに、まーーったく、何もないのだ。


巫山戯てわざと軽薄そうな書き方をしたけれど、もう本当になんにもないのだ。

生来、主に趣味嗜好の影響で若さなどない。
整形すれど、別にそれほど可愛くもない。
長年の服薬の悪影響か、知力は衰えるばかり。
そのくせ、薬がないと生きていけないレベルなので健康ですらない。
異性と交際した経験がない。
そもそも仕事を除く人間との関わりがほぼない。
アルコールへの免疫がない。
センスがない。
なりたいものなど、特にない。
上昇を志したことがない。
体力が衰えたためか、10代の頃のような挑戦の意欲がない。

あるものと言えば、
整形のローン、多少の動画編集の知識、引きこもって逞しくなった現実味のない想像力と身の程に合わない過剰な自意識くらいのものである。

あ、あとは言葉があったか。

本当にこれだけなのだ。

だからぼくは、自分のことを恒星だとは到底思えないのだ。

星には恒星以外にも、惑星や衛星といった種類のものがある。
それらは、地球や月といったように、自ら光を放つものでは無い。
恒星でもなく、恒星の光に照らされることもできない星は、僕達は視認できない。


それ故に、ぼくも、世界に、ひとりぼっちだ。



でも、ぼくが少しだけ、自分を好きだと思える時がある。


ライヴに行って、ステージで光を放つ人々を客席から見つめる時。

ああ、ぼくってばいい趣味してんな、と思う。
歌や言葉って素敵だな、と思う。

人を好きになるって楽しいな、と思う。

胸の内側でナニかがハジけて、パチパチと音を立てる心臓から、沸騰した血液が全身に送られ、頭蓋諸共吹き飛ばす快楽物質の分泌を促す。
そんな心地がするのだ。

しかし、ぼくはその時の自分が発光しているかを確認する術がないのだ。
なぜなら、その時の僕はステージ上の眩い光にあてられているから。

自らが輝く「恒星」なのか。
それとも、輝く星に照らされ惑う「惑星」なのか。
わけもわからぬまま、2時間ちょっとの夢が終わるのだ。

僕にとってあの2時間は人生の真夜中。
…と言えば聞こえが悪いのかもしれないが、夜は太陽が沈むから星が視認できるわけで。
人の輝きは一層増し、僕もほのかに照らされるのだ。


やがてまた辛い人生の「朝」がやってくる。


澄んだ空気、空の頭蓋に響く蝉時雨。
夢から醒めなければならない喪失感。
子供の頃から蓄積された心の古傷がシクシクと痛み出す。
灼け付くような太陽に責められ、骨まで蒸発しそうな気持ちになる。
すれ違う人々の残像によって、嫌でも痛感させられる孤独。


たまに、いっそ二度とライブに行かなければいいのではないか、と思うことがある。
夜があるから、朝が来るのだ。

強い太陽光が、僕に暗い影を落とす。

寂しい。苦しい。空っぽだ。

誰かに甘えたい気持ちでいっぱいになるが、甘えるどころか滅多なことで人に心を開かないので、もうどうしようもない。
というか、心の開き方がもうずっと前からわからない。
痛くてつめたくて、叫び出したい衝動に駆られる。
でも、どこが痛いのか、なんで痛いのか、わからない。

自分はこんなに弱い人間だったのかと痛感させられる。


家に着いて、アイマスクで視界を真っ暗闇にした所で、また思考に囚われる。

無理をしている自覚はある。
元から、周りを見て「いないキャラ」を演じるくせがあった。
天真爛漫で、少し馬鹿な道化師になるしかなかった。
いつだってそうだった。

僕には僕しかいなかった。
誰かを、自ら信じることができなかった。
自らを狭い脳内へやに閉じ込めて、小説と音楽と映像作品だけを食わせて生きてきた。
あれ以上傷つきたくなかったから、心に鍵をかけて、有刺鉄線を張り巡らせた。

その結果がこれだよ。
鍵は錆び付いて、誰も辿り着けない。
ぼくですら、開けることができない。
本当は素直に、伝えたいことが沢山あるのに。

僕は────。
私は────────。


昼が来れば夜がくる。

待ちに待った、暗い、暗い、晴れ渡った夜だ。
温い初夏の風が、自生する背の高い夏草を揺らす。

私は、君が用意したミステリーサークルに足を踏み入れ、寝転ぶ。


しばらく夜空を眺めていると、いつか見たような、懐かしい姿をした残像ゴウストが隣にいることに気づいた。
残像ゴウストは、何をするでもなく、踏み倒された草の中で突っ立ったまま、夜空を見つめていた。

君はきっと、このミステリーサークルを目印に降りてくるだろう。

ふと残像ゴウストの方に目をやると、少しの間目が合って、お互いの顔に張り付いた微笑みを見せてまた視線を夜空に戻した。

ふと、頭をよぎったこと。
恒星って、燃え尽きたらどうなるんだろうか。
何事もなかったかのように、元々最初からなかったかのように、消えてしまうのだろうか?
それを死と呼ぶとして、星にも冥府はあるのだろうか?

夜空の星がひとつ、丘の近くに落ちてきた。
そうか、流星というものもあったんだっけ。

「行かなきゃ」

残像ゴウストは、流星の堕ちた方へ向かった。
しばらくついて歩くと、残像ゴウストそっくりのボディーが転がっていた。
まわりに散らばった金平糖が、宇宙から堕ちてきたことを証明している。

金平糖の発光は強くなり──────。


また、夜が来た。
最近、病気のせいか夢と現の境がぼやけ始めている。
そろそろ、ちゃんと精密検査を受けるべきか…。


しかし、あの日から、僕はたまに思うのだ。

人間は、死んだ恒星の生まれ変わりではないか、と。


恒星は弱った時、「人間の心」という強い引力によって地球に引き寄せられる。
もちろん、どこかで燃え尽きたように、視覚的には捉えられるのだ。
そして、人間に生まれ変わるべく、誰かのお腹の中に潜り込む。
そこで、身体の核となる感情のエネルギーを一生分蓄えて、世界へ飛び出すのだ、と。


だとすると、君も、僕も、私も、
遠い宇宙のどこかで、いつか輝いていた星なのだ。
そして、君はきっと、私と同じ銀河で、下手したら隣同士で並んでいた星なのだと、心臓が理解している。

僕も、もし、恒星なのであれば。
まだ、エネルギーが残っているのか。
いつか、輝く日が来るのか。

そしていつ、燃え尽きる日が来るのか。
君が燃え尽きる日は、私も共に燃え尽きよう。

君はどこに堕ちたい?
鍵締めをするのは、私でありたいと思うのだ。



なんて、心から信用してないと言えないのだ。
そもそも最初から、面と向かっておしゃべり出来るような状態じゃないのにね。
どこまでも身の程知らずな人間だと、自嘲気味に笑うしかできないぼくだ。

本当に、身の程知らずだね。



ひとつだけ、夢ができた。

誰か一人に愛されたい。
しかし、誰でもいいわけじゃない。

煩悩の数を源氏名にした、欲深いぼくだ。
でも、実際のところ、1番欲しいものは、手の届かないもので。
それさえ手に入るのならば、すべてを投げ打っても構わない、とさえ思っている。

ぼくはぼくの鏡を探している。
それは、きっと、君だと思う。

君はどこに堕ちたい?
ぼくは君と堕ちるなら、どこまででも堕ちていきたい。
燃え尽きて灰になるまで。


少しだけ、手を伸ばしたいものがでてきた。
欲望、野望、いろんな名前があるけれど。

ぼくはこの胸の中て爆ぜるものを、エゴイスティックな愛と呼ぶことにした。

手を伸ばし続ければ、そのうち身体の内側から光が漏れだして、見つけてもらえるのだろうか。



きっと君がみつけてくれるならば、素直に、私が言いたいことを伝えられると思うから。


しかし、ぼくにはまだ社会の闇は暗すぎる。
永遠にモラトリアム人間であるぼくは、まだもう少し夢の中にいたいのだ。
現実的に見て、ぼくの未来は真っ暗だし、君にぼくの言いたいことを言える日はきっと来ないだろう、と。

だからこそ、もう少し輝いていて欲しい。
ちゃんと公転するから。
あともう少し。
君の胸を透かして輝く、優しい光に照らされて、もうしばらく夢を見させて。

そしたら、きっと、私の伝えたいことも、目を見て言えるだろう。



そんな夢みたいな夢を、宇宙に漂いながら見ている。





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