忘れられない忘れたくない

どっちだろうなぁとたまに思う。

忘れたくないなぁと思うし、忘れられないなぁと思う。
どっちの時も、忘れたいなぁとも思う。

運命でもなかったし、愛でもなかったし、私の人生を変えてしまうほど特別な人にできなかったし、彼の人生を変えてしまうほど特別な人になれなかった。

なりたかった。

私は恋人と別れたら基本的に写真も消すし、LINEのトーク履歴も消すし、ブロックして削除する。

だけどこの人だけはどうしても消せない。

甘い言葉をたくさんくれたとかじゃない。
なんならLINEでも最後の方は喧嘩ばっかり。
最後のトークも、私が送った怒りのこもった言葉。

元々そんなに怒ることなかったのにな、お互いに。

どうしてこんなにもこの人は私の気持ちを揺さぶるのか。
よくも悪くも。

女子高生みたいに、スタンププレゼントでブロックされているか確認を定期的にしてしまう。
してしまう自分も嫌だし、ブロックされていないことに安心している自分も嫌。
たまにトークを見返して、嬉しかった言葉を頼りに声や笑顔を思い出す。
トーク画面で、私の名前を検索する。
人にわがままをあまり言わず、大抵人に合わせて愛想良くする私が、わがままを言って愛想悪くて冷たい飾らない文章。なんだか喧嘩腰だったりもする。
飾らない、そのままの私。いつだってぶりっ子なのに、彼にだけ。

あぁ、好きだったなぁ。
めちゃくちゃ、好きだったなぁ。

バカだし、本当にバカだし、背も低いし、子供っぽいし、計画性もないし、落ち着きもないし、気も利かないし、デリカシーもないし、お金もないし、いつまでも夢を趣味にできない。

私も私でいつまでも思い出しては落ち込むし、思い出しては思わず笑うし、思い出しては少し泣く。
教えてくれた曲が聴かせてくれた曲がいつまでも、いつまでも、プレイリストから消せない。

そんなことあるわけないのに、トーク画面を見返している時にもしもメッセージがきたらどうしようなんて考える。
そんなこと、絶対にないのに。

起きてもいないことでネガティブになって責めてしまった私を、なんでそんな考え方しかできないんだよ、と
俺が好きなのは○ちゃんで、○ちゃんは1人しかいないでしょ、と強く言ってくれた声が消えない。

声が好き。
顔が好き。
全てが好き。

安い言葉だと自分でもわかっている。
誰にだって、思ってなくても言える人もたくさんいる。
彼が本当にそう思ってくれていたかなんて分からない。
それでも、いつも真っ直ぐに私を見つめ向き合ってくれたあの人を信じた。

本当にバカで、子供で、情けなくて、頼りなくて、どうしようもないけど
それでも優しくて、私の味方でいてくれて、好きだとたくさん言ってくれた。

今でも、予測変換に彼の名前が1番に出てくる。

今更何も話すことはないし、連絡を取ったってどうせまた喧嘩になる未来しか見えない。

きっと私たちは一緒にいない方がいいね
その言葉だけ、唯一否定されなかった。
私の言ったネガティブなことはぜんぶ否定してくれたのに。

好きだった。
すごく好きだった。

ピアノを弾く綺麗な手も、私が呼んだ時んー？と眠そうに返事をする声も、運転する横顔も、私の名前を呼ぶ優しい声も。

もう随分と経つのに、もう好きは消えたのに、私だけが思い出にできない。

忘れられないし、忘れたくないし、本当は私のことを忘れないでほしい。
どうかいつまでも、私が忘れても。