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夏の怪談「もう1人いる」。

弟がまた唐突に「そういえばダーキってお化け見えないんだっけ?」と聞いてきた。10年以上前だ。私はお化けを見たことがないから「だから見えないっつーの」と答える。

弟は「......そうだったよな」と思わせぶりな態度だったから「あー、お前は見えるんだもんね?」と尋ねると「見える」と言う。

「そんなにお化けが見えると怖くない?」と言うとあいつは「見えるもんはみえるから仕方ない」と言うので、

「うんうん、また怖い話があるんだよね? どうせそうだよね?」

こう聞くとあいつは待ってましたとばかりに嬉々として「えーと、あれは母さんがコップを出してきたときの話だから......」と意味のわからないことを言いながらも、「これはマジなんだけど」と前フリをしてエピソードを話してきた。


【関連】前回の怖い話はこちら



彼が高校生のとき、同じクラスのヤンキー仲間4人といっしょに、札幌市内のS墓地ぼちにいって肝試しをしようということになった。S墓地は彼らのナワバリからほど近く、自転車でいける距離にあったらしいが、弟が言うには「S墓地は危険度もSランク」であるらしい。


弟を含めた5人のヤンキー集団は、自転車に乗ってSランクのS墓地を目指した。5人のヤンキーは自転車3台でむかったらしい。となると、2組が2人乗りになり、1組はひとりで自転車に乗ることになる。ヤンキーな身なりをした人たちが自転車を2人乗り。姿を想像するだけでもう怖い。


夜20時過ぎ、あたりがすっかり暗くなったころに、5人のヤンキーはS墓地に到着した。弟は”自称”霊感があるタイプだから、S墓地に到着するなりこう思ったらしい。


「ここには入りたくねぇよぉ」


ビビる弟を尻目に、ほかのヤンキー4人はおかまいなし。闇夜を肩でぶった切るようにしてS墓地に入ろうとした。S墓地の入り口は1本の砂利道で、両脇には草むらが生い茂っているらしい。


5人で「さぁ入ろう」と一歩を踏み出したときにそれは起こった。


左の草むらから小石が「ポーン」と飛んできて、彼らの目の前にカツンと落ちたらしいのだ。


「……」

「だれか石蹴ったか?」

「いや蹴ってない」

「蹴ってないし、いまそこの草むらから飛んできたよな」

「……」


それを見てみんな怖くなったが、せっかくここまで来たのだからS墓地の中を散策しようと考えた。やめなよ。

飛んできた小石を無視して、またみんなで一歩を踏み出す。すると次は右の草むらから、さきほどよりも少し大きな石が「ポーン」と飛んできて、彼らの目の前にまたカツーンと落ちた。もう耐えられない。


うわあああああ!



霊的なものが「ここに来るな」と言ってそうな何かを感じたらしい。さっきまで威勢の良かったヤンキー5人組は叫びながら急いで自転車に乗り、S墓地をあとにした。



「あれはなんだったんだろう」とみんなで話しながら暗がりの中を自転車で走る。自転車は3台。2組が2人乗り、1組は1人乗り。

ふと、前方を走る1人乗りの自転車の友だちをみたとき、なにかに気づいた弟と、もう1人のヤンキーが叫んだ。


「おぉい!! 後ろになんか乗ってるぞ!」


弟が言うには「マジだよ。自転車の後ろにしがみつくようにしてる人影が見えたんだ。マジで」とのことだが、それを伝えると1人乗りのヤンキーは、


「どわあああああああああ!!!」


こう叫んで、乗っていた自転車から飛び降り、その自転車を巨人のごとく両手で持ち上げ、川にぶん投げたらしい。


それから弟はヤンキー仲間に対して「ちょっと怖すぎるからおれんちに行こう」と提案した。弟の家ということは、これを書いている私にとっては実家だ。

とても怖い思いをしたわけで、離れるのも不安だったからヤンキーたちは実家にやってきた。

ちなみのこのころの私は大学生でバイトづくめの日々だったから、恐ろしいヤンキー4人が我が家にきていたことなど、つゆほども知らない。


弟の部屋は実家の2階にあり、ヤンキー友だち4人がそれぞれ「お邪魔します」「お邪魔します」「お邪魔します」「お邪魔します」と言って、ズカズカと家にやってきた。それを見た私の母は気を利かせて、弟の部屋に飲み物を持ってきたらしい。

「こんな遅くにどこに行ってたの?」

「あぁ、ちょっとね」

「まぁ、いいけど。じゃあジュースでもどうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


こう言って私の母はペットボトルのジュース、それとコップを6個持ってきたらしい。家にきたのは弟とヤンキー4人の計5人である。ということはコップがひとつ多い。


弟は「母さん、コップの数が間違ってるよ。6個じゃなくて5個でいいんだ」と伝えると、母はきょとんとした顔で、

「なに言ってるの? 6人いるじゃないの

母はこう言って、だれもいないスペースを指差したらしい。


ニコニコする母と対照的に、弟を含めたヤンキー全員は「おわああああああああ!」と叫んで家を飛び出した。


……

..
.


「ダーキ、どう、この話」

「どうってまあ、ベタだよね」

「あ、そう?」

「それよりさ、あのさ、きみね」

「ん?」

「それ、いつの話?」

「1年前かな」

「俺にそれ報告した?」

「してないね」

「それは言わなきゃダメだよね、さすがにね」

「あ〜、別にいいかなぁ思って言ってないな」

「あ〜、う〜ん……まぁ……いいよ☆」



<あとがき>
弟の部屋は私の部屋のとなりで、特に変わったこともありませんでした。しかし、その話を聞いたときは「お前ふざけんなよ」と思いつつ、まぁ特に問題はないかと思って許すことにしました。私の母にはそのときのエピソードについては聞いていません。6人目が誰だったのかは永久になぞのままです。怖い話はこれでおしまいです。今日も最後までありがとうございました。

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