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大富豪が北海道に遊びに来るとしたら、私はどんなツアーを組むか?

ひょんなことから不思議なマダムに会った。


50代の女性で、やけに品がいい。

口調はゆったりしていて、英語が喋れるかのような日本語をお話しになる。「英語が喋れるかのような日本語」という時点で、もう何かが違う。

身につけているものからも、
生き方のこだわりが垣間見える。

数十億円単位の資産があるような、そういうバッググラウンドがある方らしい。あとからそれを知って、妙な納得感があった。



田舎者のカスである私からすれば、
なかなかお目にかかれない層の方である。


会話の中で「アクティビティ」についての話をした。以前、林太郎さんと話していたようなお話だ。


AIの発達で可処分時間が増える人間は、今後五感で楽しめる遊びやアクティビティにお金を払うようになる。

こんなこと



そのマダムも納得してくれて、
話のついでに、こうおっしゃった。

「イトーさん、私の友人にマレーシアの大富豪がいてですね」


「マレーシアの大富豪ですか」

「ええ。その方が北海道に来たいとおっしゃるんです」

「北海道にですか」

「そうなんです。で、私、その方に言われました」

「なんと?」

「お金はいくらでも払うから、心の底から北海道を楽しめるツアーを考えて欲しい、って」

「言うことが違いますねぇ」

「そうでしょう。ネジが変なんです。ですから私、いろんなツテで探し回りました。愉快なツアーを組める会社はないか、って」

「ほう」

「でも、どこの会社の提案も、その大富豪をワクワクさせることができなくて」

「なるほど〜」

「結局、その大富豪は北海道にはお越しにならなかったんです」



なんと難しいオーダーだろう。


お金はいくらでも払うから、心の底から北海道を楽しめるツアーを考えて欲しい? 

これは考えたこともなかった。

だって、誰もが今あるお金の中で最大限楽しめる旅行を考えるものだから。

お金のリミッターを外したツアーか。


セオリー通りに北海道旅行を考えるなら、移動距離や時間を考慮せず、

まぁ、ニセコに行って、

函館の夜景を見て、

世界遺産、知床へ行って、

富良野と美瑛で美しい景色を見て、

札幌でラーメンを食べて、 

小樽で小樽運河を見て、

すすきのでお酒を飲んで、

わけわからんお土産を買って、

で、帰る。

途中でキャンプを挟んでもいいだろう。


セオリー通りだ。


ふーむ、セオリー通りだ。


我が北海道といえば、まぁ大自然でしょう。
それから美味しい食べ物。


それくらいしかない。


それくらいしかないというか、それが素晴らしいことなんだけど、まあそれしかない。



お金のリミッターを外すのか。
これは難しいぞ。


もしも大富豪が北海道に来て、お金を気にせず、心から満喫してもらうとしたら……かぁ。


(ほわんほわんほわ〜ん)

……


ダイ・フゴー男爵
「こんにちは、イトーさん」

イトーダーキ
「あ、男爵。こんちは」

うっす

ダイ・フゴー男爵
「なにやら、最高の北海道ツアーを組んでくれたと聞きましてね」

イトーダーキ
「はい、男爵。私にお任せください。必ず目にものを見せましょう」


まずは、男爵を空に飛ばす。

ヘリコプターと気球をチャーターする。
底が透明で、スリル満点にする。
北海道の雄大な自然を楽しめる。

札幌でも小樽でも旭川でも函館でも知床でも、訪れる場所をまずは上空から見せる。


イトーダーキ
「男爵、ご覧ください。あれが札幌ドームです」

ダイ・フゴー男爵
「う〜ん、あれかぁ」



続いて、男爵には潜水してもらう。


イトーダーキ
「男爵、ここは頑張りどころです。潜水してウニを獲ってきていただきます。私はここで見てますので」

ダイ・フゴー男爵
「そんなことをさせる奴は君が初めてだよ」

ウニはおいしい。

男爵を漁船に乗せてもいい。

ここでしかできない体験をさせる。


知り合いの漁師、全面協力だ。


そうしてウニを食べよう。


ダイ・フゴー男爵
「自分で獲ったウニはこんなにおいしいのか」

イトーダーキ
「そうでしょう、男爵。豊かさの影には、人々の苦労があるというものですよ」

モグモグ


最終日、男爵にはウイスキーを作ってもらう。

北海道余市町にはニッカウイスキーの工場があった。あのマッサンが日本中まわって探し当てた、スコットランドとほとんど同じ条件の場所。

男爵にはここでウイスキーを作ってもらおう。

こだわった葡萄やら何やらを全部一緒に取りに行って、一緒に汗水かいて作るのだ。

ダイ・フゴー男爵
「イトーくん、ウイスキーがきちんと熟成するまで、年単位で時間がかかるぞ。これでは私が飲めないではないか」

イトーダーキ
「えぇ、その通りです、男爵。ここは5年寝かしましょう。とことん熟成させるのです」

ダイ・フゴー男爵
「だから、私がすぐに飲めないではないか」

イトーダーキ
「……男爵。今日のことを覚えておいてください。5年後にまたここに来るのです。私と一緒にきましょう」

ダイ・フゴー男爵
「……」

イトーダーキ
「男爵、どうかしましたか?」

ダイ・フゴー男爵
「……なるほど、まったくイトーくん。噂には聞いていたが君はおもしろいな。またここに来いというわけか」

イトーダーキ
「その通りです男爵。また、必ず、お越しください」


……


これでは男爵に満足してもらえない。


う〜ん、ムリだった。


お金に糸目をつけずに楽しませるなら、ここでしかできない体験をさせるのがもっともらしいが、これでは男爵に提案しても、マレーシアから出てきてくれなさそうだ。



何事も制限があるから楽しめるのだな、

と気づきました。


<あとがき>
大富豪って冒険しますよね。それだけの資産があると、一体どうなちゃうんだろう、なんて思ったりします。私自身、北海道はほとんどの場所に行ったことがあるのですが、今思うとありきたりなことしかしてません。体験と時間って、とてつもなく価値のあることなんだな、とこれを書いて思えました。最後までありがとうございました。

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