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天下を取った召使い。

週末は義理の両親が家にきていた。

義父と義母は愉快で、魔女とその召使いのような不思議な関係性である。

不思議と書いたのは、普通の魔女と召使いならば明確な上下の主従関係があるが、この2人の場合は、主従関係ではなく並列関係。にも関わらず、魔女と召使いのような関係なのである。


【参照】義母がどんな人かというと



たとえば、義父が何かとぼけたことを言うと、義母はゆったりとした口調で、

「なぁに言っちゃってんのぉ?」

とツッコミを入れる。普通の人ならば義母の蛇のような視線と口調に思わず石化してしまうくらいのものなのだが、義父は笑顔で「やっかましいなぁ〜」とニヤけている。


この2人はいつもそうで、私には魔女と召使いのように映っている。なんなら企業の会長とその運転手のような。かといって関係性は良好。召使いは喜んで召使い役を演じているかのような。

誤解なきように言うなら、魔女こと義母の愛情は強い。どんな文句を言っても召使いのことを第一に考えているのが伝わってくる。食べ物や飲み物、服装、健康状態など、召使いがずっとベストコンディションでいられるようにしている。


私の妻はそんな2人の娘である。

だから同じように私も召使いの役回りになる。


...



私の家に来た義父が、私の手を見て、

「やや! ダーキ、運命線がすごいな!」

と喜んだ顔で言う。手相である。運命線がどうすごいのかはわからないけど「え? そう?」と答える。すると義父は「おれもね、すごいんだよ、運命線」と言って、手のひらをパッと開いて見せてくれる。


お義父さんの手は、たしかに運命線がすごかったんだけど、それよりもすごかったのは、お義父さんの手相が「ますかけ線」だったことである。

ますかけ線がなぜますかけ線というのかは知らないが、一時期流行したような気がする。ますかけ線は別名「天下取りのそう」と呼ばれ、大事を成すタイプの人に多いらしい。

徳川家康にもあったという逸話があるような、そういう手相である。



「お義父さん、そんなことより、ますかけ線じゃん」

と私が言うとお義父さんは「ん? そうなの?」と言う。とぼけていたので、ここがこうでこうだとますかけ線なんだよ、天下取りの人だよと伝えると、なんだか嬉しそうだ。


「ほぉ〜、天下取りかぁ〜」


その会話を私の後ろで聞いていた魔女こと義母が低くゆったりとした声で言うのである。


「あんた、天下取ってそれかい」


平和な天下である。


〈あとがき〉
世の中は女性が動かしている、と言っていたのはヤスさんで、妙に納得したものです。家庭では妻の協力なくして夫は外で活躍できません。亭主関白であるよりもカカア天下のほうがうまくいくみたいな言説もよくありますが、その通りかなと思います。今日も最後までありがとうございました。

【関連】魔女の話はこちらも

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