なぜ選挙権は18歳以上ではなく「“満”18歳以上」と書かないといけないのか?

記事を公開する週末(2021年7月4日)には東京都議会議員選挙があります。選挙権の歴史を考えている際、「なぜ“満”18歳以上の“満”を書かないといけないのか?」という疑問が生じました。私なりの結論が出ましたのでまとめておきます。

簡単にまとめると…

「満年齢を表すから」

になります。

満年齢とは

満年齢とは、生まれた瞬間を0歳、誕生日が来るごとに+1歳する数え方です。「生まれてから最低〇年間は生きた」「生きている年数は〇年を満たしている」ということもできます。普段使っていて、「何歳ですか?」と聞かれたときに答える年齢のことを言います。

法律的な観点から満年齢を考えると、誕生日の前日の最後の瞬間(23時59分59秒から24時の間)と決められているそうです。つまり、4月1日生まれの人の年齢が+1されるのは前日3月31日23時59分59秒のときですから、3月31日に年齢が増えたと考えるということです。

注)民法143条但し書きによると、「最後の月に応答する日がない時は、その月の末日に満了する」とあります。2月29日生まれの人が+1歳となるのは末日、つまり2月28日になるということです。

このことがわかると、4月1日生まれの人が1~3月生まれ(早生まれ)の人と同じ学年になる理由がわかります。学校教育法では、「満6歳になった次の日以降の4月1日に小学校に入学する」と決められています。ということは、先ほど説明した法律的な観点から見れば、3月31日に満年齢が増え6歳とみなすので、翌日4月1日に小学校に入学することになります。つまり、境目が4月1日と4月2日の間で学年が変わってしまうことを意味します。

満年齢以外に「数え年」がある!

年齢の数え方には、満年齢以外に「数え年」という考え方があります。

数え年とは、生まれた瞬間を1歳、1月1日になると年齢を+1する年齢の考え方です。つまり年齢の加算はみんな同じということになります。普段使うことはあまりないと思いますが、祝い事(七五三など)では風習として数え年を使っています(厄年などの表を神社で見かけるという人もいると思います)。

諸説あるようですが、「あけましておめでとうございます」という言葉は、「1年無事に過ごすことができ、年齢を+1することができました。そのことをお祝いします」という意味を表すそうです。 「私、年齢を重ねるのは嫌だ!」という人が「あけましておめでとうございます」という言葉を使っていたら、どう反応すればいいのでしょうか…?

満年齢と数え年の年齢差

年齢差を考えるため、①元日(1月1日)生まれ②大晦日(12月31日)生まれの2パターンを考えます。

①元日(1月1日)が誕生日の人を考えます。例えば、2000年1月1日に生まれたとなると、その瞬間は、満年齢で0歳、数え年で1歳となります。ということは、2001年1月1日に満年齢1歳、数え年2歳。2010年1月1日には満年齢10歳、数え年11歳となります。ということは、元日生まれの人は、

数え年=満年齢+1

という関係になります。

②大晦日(12月31日)が誕生日の人を考えます。例えば、2000年12月31日に生まれたとなると、その瞬間は、満年齢で0歳、数え年で1歳となります。ということは、翌日、2001年1月1日に満年齢0歳、数え年2歳。2001年12月31日に満年齢1歳(数え年2歳)ですが、翌日には満年齢1歳、数え年3歳となります。ということは、大晦日生まれの人は、

誕生日(12月31日):数え年=満年齢+1

誕生日(12月31日)以外:数え年=満年齢+2

という関係になります。

以上から、一般に

誕生日から12月31日まで:数え年=満年齢+1

1月1日から誕生日前日:数え年=満年齢+2

という関係が導かれます。

疑問点:歴史を伝える場合の年齢は?

私が疑問に思ったのは、歴史を伝える場合、どちらの年齢を使っているかということです。例えば、「織田信長が〇歳で桶狭間の戦いに勝ちました」とある場合、どちらで考えればいいのでしょうか?

満年齢を使うのは戦後になってからと言われていますので、それ以前は数え年だったと考えることができます。ということは、歴史上人物は実際数え年を使っているけど、私たちは満年齢のほうが理解しやすいという伝える側のジレンマがあるはずです。

いちいち「満〇歳」というのは煩わしいですが、受け取る側は満年齢か数え年か言わないとわからないし、いちいち考えるのが面倒です。なので、満年齢か数え年かどうかを伝える工夫がないと「わかる」説明にはならないと思います。逆に「わかる」ように伝えるためには、伝える側が満年齢と数え年の2つの考え方があることを知っておかないといけません。知らないと使えませんから。

結論:テストなどで選挙権の年齢を書くときは「満~歳」と書こう

テストなどで選挙権の年齢を書くときは、指定がなくても念のため「満~歳」と書きましょう。「満」をつけるのが無難、というより「満」をつけるのが正しいのですから。


ちなみに、選挙権の変遷(年齢と財産に関する条件)は、

1889年2月~:満25歳以上、直接国税(地租と直接税)15円以上納めた男性(1890年6月第1回衆議院議員選挙)

1990年~:満25歳以上、直接国税10円以上納めた男性(1902年衆議院議員選挙以降)

1919年~:満25歳以上、直接国税3円以上納めた男性(1920年衆議院議員選挙以降)

1925年~:満25歳以上の男性(1928年衆議院議員選挙以降)

1945年12月~ 衆議院議員選挙法改正(新選挙法):満20歳以上(国政選挙は1946年4月が初。当時は貴族院と衆議院の二院制)

満18歳以上:2016年6月 改正公職選挙法施行(国政選挙は2016年7月の参議院選挙から)

参考文献

・新詳日本史(浜島書店、2013年)―選挙権の変更について


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