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「『神っぽいな』って曲、神じゃね?」/"神曲″は誉め言葉か否か

ピノキオピーから2021年9月に発表されたボカロ曲「神っぽいな」が"神”だと話題だ。
神っぽいな」は、なんでも「神っぽい」と形容してしまう現代の感性を揶揄した曲。
しかしこの曲も例にもれず"神”だと評価され、なんとも皮肉の利いた現象が起きている。

「神」とは

「神対応」「神ゲー」「神曲」など、「すごい」「立派」の派生形として使われる「神」は、対象に対する最大限の評価を示す言葉として、ここ数年でかなり頻繁に耳にするようになった単語だ。

「ナウい」「チョベリグ」「アゲ」などに続く流動的な若者言葉の最新版として位置する「神」。
言語変遷の一過程とみればそれほど特筆することもないが、どの時代も「そんな一言で片づけるな」という気持ちが付きまとっているのだから面白い。

「神っぽいな」という曲はまさにそんな気持ちを歌詞に投影させた曲。
「言葉の乱れ」に対する嫌悪感の表明を音楽ジャンルに持ち込んだのは稀有な例だ。

現代の「感情表現」は乏しくなったのか

「神っぽいを多用する現代の若者はIQがさがったのか」と言われれば、案外そうとも言い切れない。
個人的には①現代の情報過多社会②SNSでのやり取りが主流になりつつあるコミュニケーションのあり方にその要因を見出したい。

①情報過多による影響
ネットの台頭により、情報源の主流は新聞やTVからTwitterやスマートニュース、LINEニュースをはじめとするネットメディアに置き換わりつつある。
新しいコンテンツが1秒単位で更新される時代、1つの記事やメディアを視聴し終わった途端にあらゆる類似コンテンツをレコメンドされる時代に、ゆっくりと考察などしようものならきっと時代に取り残されてしまうだろう。

「この曲どうだった」
「神っぽい!」

大量の情報を捌くために、それに関する感想が端的になっていくのはある種の必然だといえる。

②SNSによる短文のコミュニケーションが主流になった為
これは私が学生時代、今から約10年ほど前から言われていたのだが、Twitterの発達により長文が徐々に読めなくなっているという話。

現在全角140文字を上限とするTwitter投稿では、おのずと物事や状況を端的に説明する必要があるだろう。
また、親しい友人間でのやり取りがメールからlineに移り変わり、やり取りが端的になっている。
いまの時代、日常のコミュニケーションは短文でわかりやすく伝える方が、長文でくどくどと説明するよりも重要なのだ。

「神曲」との出会い方

莫大な量の情報にさらされている現代。
数ある情報の中から新しいものを探すのは一苦労だ。
ネット記事のタイトルしかり、YouTube動画のサムネイルしかり、膨大なコンテンツの中から自分のページにアクセスしてもらう為には、過激な表現に頼らざるを得ない。
出会いがしらのインパクトをいかに強められるかがカギとなる。

これと似たような現象は音楽にもみられる。
今やサブスクでの音楽視聴が一般的になった時代。
新規視聴者を獲得する為に、曲のはじめに一番盛り上がるサビを持ってくるという手法がとられている。
すでに一定のファンを獲得している有名アーティストならその必要はないのだろう。
しかし若手アーティストにとって、ライブシーンを奪われた今、新規ファン獲得の為の必須手法となっている。
もちろん、サビを最初に持ってくるだけでヒットするわけではないが、出会いがしらの数秒でリスナーの鼓膜にしがみつけた曲だけが、「神曲」としてのスタートラインに立てるのだ。

神曲とは結局誉め言葉なのか

話を戻して、「神」という表現を揶揄した「神っぽいな」という曲ですら、神曲のなかに取り込まれてしまうこの皮肉。

"神曲”は結局、誉め言葉なのか否か。

そもそも"神曲”と形容される曲は比較的ボカロやアニソンに多い気がするのは気のせいか。
少なくとも私は「60年代の神曲といえばビートルズのイエスタデイだよね」という会話は聞いたことがない。

神曲の冠が付けられるボカロソングは、若者言葉との親和性が高く、いわゆる名曲ではなく"神曲”と括った方が引きが強いのだ。

今現在、「ナウい曲」や「チョベリグな曲」というくくりで曲紹介がされてないことを考えれば、一過性の誉め言葉である"神曲”の言葉が10年後に残っているとは考えにくい。
一過性のムーブメントでのし上がり、なお次の時代にも語り継がれる曲が真の「名曲」と成りうるのだ。
つまり「神曲」は流行という第1ステージを突破したときに与えられる称号、「名曲」は時代という第2ステージを突破したときに与えられる称号だということで、今回はまとめさせていただきたい。

以上、本日もきーくんのエモくてチルい神な記事をお届けしました。

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