vol.8 「何事も、取り組む姿勢を大切にする。」長島印刷 東征彦さん
「きほくる | 紀北町魅力ナビ」にお越しいただき、ありがとうございます。
今回の「しごとカード」インタビューは、平成元年創業の紀北町東長島(きほくちょう・ひがしながしま)の印刷会社「長島印刷」を高校卒業後に継ぎ、約25年間、印刷業に携わっている東 征彦(ひがし ゆきひこ)さん。
「一度は、家や町を出たい」と、熊野市にある木本高校に進学。そこで出合ったラグビーで培ったもの、卒業後のオーストラリアへの1人旅。
「家業を継ぐ」と決めて帰国し18歳から始まった印刷業でのエピソード、仕事への思い等、笑いを交えながら力強く語っていただきました。
この記事は「しごとカード」に登場していただく“紀北町で働くひと達”に、地域おこし協力隊・豊川がインタビューしていくシリーズです。
あなたは、どんな風に働きたいですか?どんなところで、どんな人たちと働きたいですか?あなたが、自分に問いかけ、自分の中にある答えと出会っていく。そのきっかけに、この note がなれたら嬉しいです。
※しごとカードは、紀北町でいきいきと働いている人たちが「仕事との出合いかた」「仕事の魅力や喜び」「紀北町のスキなところ」等を、これまでの人生のエピソードを交えながら、若い世代の人たちに向けて語ってくれたことをカードにしたものです。
1. 家業に入るまえに好きなことをやっておきたい。
ーー今の仕事に就くまでの経歴を教えて下さい。
東さん(以下、敬称略) 1978年(昭和53年)、紀北町東長島(きほくちょう・ひがしながしま)生まれです。東小学校、紀北中学校、その後は熊野市にある木本(きのもと)高校に進学しました。
高2の時に父が他界し、高校卒業後は地元に帰って家業を継ぐことになりました。卒業後すぐにオーストラリアに一人旅をし、帰国後は家業に就いて現在に至ります。30歳の時に、印刷業に加えて、新聞販売店も始めました。
ーー紀北中から木本高校に進学したのですね。
東 はい。当時の僕は「家や町から一度出たい。」という思いがありました。それに加えて、木本高校は推薦で行けたし、僕は釣りが大好きで熊野の方はブラックバスが結構釣れるというのもあって(笑)。
木本高校に入学してからラグビーと出合って、ラガーマンになりました。ラグビーとの出合いは、その後の僕に大きな影響を与えてくれました。
ーー高校を卒業されてから、海外へ一人旅?
東 はい。僕が高2の時に父が他界し、高校を中退して家業を継がなきゃいけないかなと思ったのですが、母や周りの大人たちが「高校は卒業したら?」と言ってくれたので卒業しました。
そして、家業に入る前に好きなことをやっておきたいと思ったので、お金を貯めてオーストラリアに一人旅に行きました。
ーー旅が好きだったのですか?
東 僕のいとこが世界中を旅する人で、帰国する度に世界のいろいろな話を聞かせてもらっていました。いとこの話を聞きながら「自分も旅をしたいな」と思っていたんです。
そして、僕は小さい頃から釣りが大好きで、僕のバイブルは「釣りキチ三平」、「松方弘樹、世界を釣る」という釣り番組が大好きでした。
それらを見ながら「俺もカジキマグロを釣ったるんじゃあ!」と意気込んで、オーストラリアに行ったんです。現地では、船をチャーターしてカジキマグロに挑みました。釣れなかったけど、楽しかったです。
ーーすごい行動力!
東 その旅で「やりたいなぁ」と思っていたことをやって自分の気持ちに折り合いをつけて、「さぁ、仕事するぞ!」という気持ちで帰国して家業に入りました。
2. アナログとデジタルの両方が必要。
ーーどんな風にして、家業に入っていかれたのですか?
東 「まずは修行」ということで、尾鷲印刷さんで修行させてもらいました。当時のスケジュールは、午前中は尾鷲印刷さんで修行、午後は自分の工場で仕事しました。
修行先では、当時主流だった「活版印刷」のやり方や印刷機の扱い方などを1年ほど学びました。
活版印刷で使われる『活字』
ーー印刷業も技術や社会の変化に伴って変わってきていると思うのですが、現在は、どんなお仕事が入ってきますか?
東 今は、チラシ、名刺、封筒、伝票など事業者さんからの依頼、官公庁さんからの各種書類やポスター、チラシなど。あとは、のぼりやTシャツの印刷などもやっています。
うちは、できる限り「断らない印刷所」で在りたいと思って、やっています。
ーー東さんの1日のスケジュールは?
東 まず、朝3時に起きて新聞配達。帰宅後に少し家のことをやって、9時に工場に入ります。そこから夜7時か7時半まで印刷の仕事をします。
今年はコロナの影響でイベントや会議もないのですが、いつもなら週2~3回、夜は会議に参加しています。寝るのは、11時か12時かな。睡眠時間は3~4時間です。
ーー工場ではどんな作業をしていますか?
東 前日の午後から印刷したものを、あくる日の午前中に製本します。製本の作業工程としては、伝票の複写、断裁、ミシン綴じ、穴あけ等です。製本が終わると、納品作業です。
午後に印刷することには理由があります。印刷機のローラーは、樹脂とゴムが交互になっています。寒いとゴムは縮み、温かいと膨張します。
その性質に合わせて機械をセッティングしてあるので、部屋が温まる午後から印刷に入るというスケジュールになっています。インクのノリも温かい方がいいいんですよ。
ーーそういった調整のコツみたいなものは、自分で掴んでいくのですか?
東 そうですね、作業しながら掴んでいきます。機械にもクセがあるので。修行先の機械と弊社の機械ではクセが全然違います。そのクセを掴んで、機械に合わせていくんです。油もさしたりして。
印刷業は、アナログとデジタルの両方が必要なんですよね。デザインはパソコンを使うデジタル、機械の微調整などは手作業でアナログです。機械の修理も出来るだけ自分でやっています。
3. あぁ、気持ちのいい仕事が出来た。
ーー技術的に、自分なりの「これだ!」という手ごたえを感じられるようになったのは、いつ頃ですか?
東 うーん、いつ頃やろ…僕はきっちり仕事する職人さんの元で修行させてもらったので、基礎が出来ていたのは良かったです。
その上で「これだ!」という感覚をつかめたのは、仕事を始めて10年ぐらい経ってからかな。その頃から「あぁ、気持ちのいい仕事が出来た。」と感じるようになりました。
ーー10年ですか!
東 そうですね。自分の中で納得できるようになったのは、それぐらい経ってからかな。その仕上がりの差って、皆さんが見てもおそらく分からないと思います。でも、僕には分かるんですよ、「全然ちがう」って。
ーーこの仕事を始めてから、嬉しかったことは?
東 結婚式の招待状や席札などを作る仕事で、お客様と一緒にデザインを詰めていってオリジナルのものを作って喜んでもらえた時とかですね。お礼のお手紙を貰ったりすると「いい仕事をさせてもらったな」と思いますね。
ーー印刷業は、そういう場面でもお手伝いできるんですね。
東 印刷業は、世の中の紙媒体、プリントされているもの、シール等、いろんなものに関わっています。
お祝いごとだけでなく、葬儀関係の仕事もいただいています。通知状とか礼状とかですね。身近な方が亡くなった時など、自分の仕事を通じてとても大切なお役目をさせてもらっているなと思います。
ーー仕事で「楽しい」と感じるときは?
東 難しい仕事をしている時が楽しいです。特殊な紙に特殊なインクを使うとか、いつもと違う仕事をしている時に「面白いなぁ。」と感じます。
「こういうやり方もあるのか!」と発見があることも楽しいです。難しい仕事の方が楽しいし、綺麗に仕上がったら更に楽しいですね。
4. あれに比べたらマシじゃぁー!
ーー仕事で大変だったことは?
東 年賀状の印刷ですね。今でこそ年賀状を出さない人も増えましたが、以前は「年賀状は出すものだ」という考えの人が多かったし、印刷に関しても印刷所に頼む人が多かったのです。
そんな状況だったので、団塊の世代がバリバリ働いていた頃(20年前ぐらい)は、年賀状が発売される11月から毎日残業でした。
印刷の注文が毎日入ってくるし、印刷できる時間は限られているし、納期は決まっている。刷っても刷っても減らない年賀状に囲まれて「どないすんねんっ?!」って感じで…寝ずにやるしかなかったです。あの時は本当に大変でした。
ーー年賀状に囲まれて、寝る時間がない…大変でしたね。
東 でも、ラグビーをやっていた経験があるので「あれに比べたらマシじゃぁーーー!」と思って乗り切れるというのはあります。
ーーラグビーでの経験が仕事にも活きているんですね。
東 そうですね。高校時代は本当に大変な練習をずっとやっていました。鬼ケ城(おにがじょう・三重県熊野市)から新宮市(しんぐうし・和歌山県)まで走るんですよ(約22km)。あとは、ダッシュランニングをしたりして。本当に精神力が鍛えられたし、体力もつきました。
5. 自分であることを証明するもの。
ーー悩んだときは、どうしてますか?
東 思い通りに仕事が進まなかったり、製品が出来上がったのに校正ミスがあったり…そんな時は、検証して要因を洗い出し、そこに対しての対策をたてます。
要因が機械的なことなら、機械を触って調整する。校正は、僕だけでなく他の人にも校正作業をやってもらう等、改善策を取ってます。
他には、気分転換に「釣り」に行きます。30分でも釣りにいくと気分が変わるんですよ。リフレッシュすることは大切ですね。
ーー東さんにとって、仕事とは?
東 「自分であることを証明するもの」が仕事だなって思います。僕にとって仕事はアイデンティティです。そして、家族を守るための大事なツールでもあります。
ーー仕事に於いて、こだわりや何か決めたことはありますか?
東 僕は高校卒業してすぐにこの仕事に入ったので学もないし、頭が良いわけでもない。唯一誇れるとしたら、体力です。
そんな僕が仕事をやり始めて、地域で活躍している諸先輩方と話していると「負けたくないな」という気持ちが湧いてきたんです。
「体力はあるけれど、他に秀でるものがない僕はどうしたらいいんだろう?」と考えました。そして、ひとより寝ないで仕事しようと決めました。
6. 魚好き・釣り好きには、たまらない町。
ーー好きな言葉は?
東 「実るほど頭を垂れる稲穂かな(みのるほどこうべをたれるいなほかな)」(注:人格者ほど謙虚であることのたとえ)です。僕の尊敬するひとは、地元の諸先輩方です。
その方々は、僕が若い頃から(僕に対して)礼節をもって接してくれています。そんな姿勢に感銘を受けて「僕もそう在りたい。」と思って、この言葉が好きなんです。
ーー紀北町の好きなところや、好きな場所は?
東 好きなところは、魚が美味しい!僕の奥さんは、以前は魚が苦手だったらしいんです。それが、こちらに住んでから釣りたての新鮮な魚を食べる機会が増えて、魚が大好きになったんです。そういうのって嬉しいですよね。
あとは、船に乗って遊覧しながら釣りが出来るのも好きなところです。魚好き、釣り好きにはたまらない町だと思います。
好きな場所は、片上池(かたかみいけ・紀北町東長島)かな。良く釣りに行っています。
7. 取り組む姿勢を大事にする。
ーー二十歳の頃の自分に、声をかけてあげられるとしたら?
東 当時は麻雀をしたり1日寝て過ごしたりしていて、今となっては「もったいなかったな…」と思っています。だから、今の僕からは「何事も取り組む姿勢を大事にしなさい。」と言ってあげるかな。
仕事するなら思いっきり仕事する、遊ぶなら思いっきり遊ぶ。ダラけずに、そのことにしっかり取り組むことが大事。
そして、それを見てくれている人がいるんですよ。取り組む姿勢を大事にしていれば、それを見ていて繋がってくれる人が出てくる。そういった意味も込めて、「何事も取り組む姿勢が大事だよ。」と言ってあげたいです。
ーー若い世代のひとたちへのメッセージをどうぞ。
東 本音を言うと「もう少しお酒飲めよー」と言いたいです(笑)。最近は飲む子が少ないらしいので。
苦手とか嫌いなら仕方ないと思うけど、お酒を飲むとリラックスして普段話せないようなことを話せたり、意外な一面が見られたりすると思うんですよ。
イベントや会議の後で、皆でご飯を食べてお酒をちょっと飲んで「あぁやったな、こうやったな」と話している中で、自分の仕事について話したり、皆でワイワイ話す中で「じゃぁ、今度、あれ頼むわ。」と仕事に繋がったり。
無理にとは言いませんが、いいご縁が繋がっていく機会があると思います。
ーー東さんのお話を伺って、印刷業という仕事について触れることができ、『仕事をする』ということの芯(中心軸)のようなものを感じることが出来ました。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
【長島印刷 東 征彦さんからのメッセージ】
・仕事を通じて、とても大切なお役目をさせてもらっている。
・難しい仕事をしている時が楽しい。
・気分転換することは大事。
・仕事は『自分であること』を証明するもの。
・何事も『取り組む姿勢』を大事にしよう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の 長島印刷 東 征彦さんのお話はいかがでしたか?あなたの中にある仕事に対する思いや大切にしていることを感じるきっかけになったら嬉しいです。
【取材先情報】長島印刷
〒519-3204 三重県北牟婁郡紀北町東長島2459-20 TEL 0597-47-3777
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