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肩書き

いつも私の隣にいるのはあなたであなたの隣にいるのは私
一番近くにいるはずなのに一番遠い
私が好きになったのは親友のあなただった


「あのさ俺、彼女出来たんだよね」
突然言われた
その言葉を聞いた瞬間、セミの鳴き声。扇風機の風の音。
私の耳に届くすべての音が際立って聞こえた
まるで地獄に突き落とされたようなそんな感覚だった。
何も言えない私を見て
「おーい、どうした?俺に彼女出来たのが悲しいのか?」
って笑いながら聞いてくるあなた。うん。悲しいよ。なんて言えるわけもなく
「バカじゃないの!あんたなんかに彼女ができるわけないってびっくりしてただけ!
あーあ、こんなんが彼氏で彼女さん可哀想〜」
って笑いながら言い返した
ほんとはあなたの彼女が羨ましくて憎くてしょうがなかったのに
「おい!それはないだろ〜」って笑い返してくるあなたの姿にまた惹かれていく
私のことは幼稚園の頃からの親友。そう思っているあなたに


彼女の名前は美優らしい。
覚えたくもなかったけど何回も祐の口から名前が聞こえてくるから覚えた
「祐くん、帰ろ!」
教室の後ろの方から聞こえた声
私は今にも泣きそうだった
周りはその二人を見て冷やかしている
「やめろよお前ら」と笑いながら言う祐。その隣で頬を染めている彼女。
私はいつもの下校時間よりも少し遅く出た
もう二人が並んでいる姿を見たくなかったから


そして三ヶ月後に二人は別れた
理由はよく分からない。
泣いている祐を見ながら、私にはかけてあげる言葉が思いつかなかった。
アイツのせいで悲しんでいる祐を見るととてつもなく悔しかった
「大好きだったな、」
そうつぶやく彼。また心が締め付けられた
なぜか私は泣いていた
きっとこの涙は彼への同情じゃない
泣いていることが彼に気付かれないように涙を拭った

「私に…」
「ん?」
「あ、ううん」
「何?」
私にすればいいのに。という言葉をぐっと飲み込んだ。
きっとこの言葉が彼の耳に届いたら私は彼の隣には居られなくなる。
どんな形でもあなたの隣に居たい
どんだけ傷ついても、振り向いてくれなくても

「映画連れて行ってあげる」
「え?」
「ほら、見たい映画あるって言ってたじゃん」
「慰めてくれてんの?」
「そりゃ〜親友ですから!」
「ありがとな」

親友なんて自分からは言いたくなかった
でもこの肩書きがないと貴方の傍には居られない
『親友』この言葉に助けてもらってるはずなのに私はこの言葉が大嫌い


家に帰って、祐にメッセージを送った

『映画いつにする?🤔』

祐とトーク履歴を見返してみると他の人に比べて絵文字がたくさんあった
少しでも可愛いって思われたくて絵文字をたくさん使ってしまう

ピコン
『いつでもいいよ』
私と遊ぶことなんてどうでもいいんだろうな、、そんな事をこの一文から感じる
『じゃあ、今週の土曜日で!👍』
『分かった』
こうして会話は終了

土曜日の朝
いつもはくくっている髪をおろした
新しく買ったかわいいワンピースを着て、いつもは履かない少しヒールのある靴を履いた。
そして、集合場所に向かった
「ごめん、待たせた?」
「全然、」
「良かった」
そして二人で映画館に向かった
いつもは履かない靴だから歩きづらくて祐のペースに追いつかない。
それに気付いたのかペースを遅めてくれる祐
そんな何気ない貴方の行動が私を期待させ苦しめてるなんて知らないで…


映画館に着いて祐が見たいと言っていた映画のチケットを買って中に入る


映画が始まった
隣にいるあなたの方にそっと顔を向ける
真剣にスクリーンを見つめるその横顔は昔と変わっていなかった
この思いは届かない。
そう思うと自然に涙が溢れてきた
私は君に何回泣かされるのだろうか、
そんなことを思いながら彼の横顔に見惚れているといつの間にかエンドロールになっていた
「面白かったね、めっちゃ夢中になっちゃった」
「私もめっちゃ夢中だった」
私は映画にじゃない。祐に夢中だった。貴方のその横顔に。
そんな意味を込めて言った。


帰り道。
「あのさ、蘭の名前の由来ってなんなの?」
「何?急に」
「なんか気になって。」
「胡喋蘭っていう花があるでしょ?その花言葉が幸福が飛んでくるっていう意味があるからそこから取って蘭」
「へ〜そうだったんだ。花言葉か‥」
といってスマホで胡蝶蘭の花言葉を調べる祐
「他にもあるよ、胡喋蘭の花言葉」
「何?」
「純粋な愛」
初めて聞いた。そんな意味もあったんだ
「へ〜」
「蘭は好きな人が居たら自分が犠牲になってでもその人を守れる?」
なんて好きな人に聞かれた。
「守れる」
見返りを求めずに祐のためならなんにでも立ち向かえる。
そう思い、胸を張って言った。


「そっか」

「祐の名前の由来はなんなの?」
「あー、俺は、祐って漢字が周りに幸せを与えるって意味だから」

「そうだったんだ」
今の祐から幸せなんて貰ってない
好きな人の傍にこんなに近くにいられることはとても幸せなことなのに、
私は苦しんでばかり
こうなることは分かっていたはずなのに‥

『もうやめよう。』
そう強く思った
祐とさよならしたら祐を好きな気持ちともさよならする
今日が終わるまでは祐の事を心の底から精一杯好きでいようと

私を家まで送ってくれた祐
「じゃあね、蘭」
「じゃあね、祐」
去ろうとする祐の背中を見て
「祐!」
「ん?」
「ありがとう」
「あ、うん。こちらこそ」
「じゃ、」
そして振り向かずに自分の家に帰る
「ありがとう」この一言にたくさんの思いを込めた
たくさんのありがとうと私の気持ちを乗せて
自分の部屋に入って私はずっと泣いた
ずっとずっと泣くのが疲れてしまうまで
祐との思い出を思い出しながら…
「大好きだったよ。祐」
と叶わなかった初恋を思い出として胸の奥にしまって私は眠った


祐への好きを越えるような好きな人を見つけるね
そして幸せになるね
きっと、見つけるまでたくさん時間はかかっちゃうけど
そこから3ヶ月が経って12月になった
世間ではクリスマスを前に街が少しずつ賑やかになっていっている時
祐は美優ちゃんと復縁したらしい。
だから話すけど二人で遊びに行ったりはしていない。

たまにメッセージを送りあうくらい
でも、祐に送るメッセージにもう絵文字はない

私は友達と一緒にイルミネーションを見に行った

横から懐かしい声がする
その声の方に顔を向けてみる
イルミネーションをみる横顔は私の心にしまっていたあの人の横顔だった

私をたくさん苦しめた貴方。だから

「貴方よりも幸せになってやる」

そう心の中で叫んだ。

でも、それよりも沢山私に幸せをくれた貴方

だから、

「幸せにね」

(作者:福山市立福山中学校の生徒さん)

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