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ネットショップ初心者の苦労と挽回

「ネットショップを開設して10カ月。サイトへのアクセスは数件で、商品は全く売れなかった。」

そう語るのは、地方都市で手作り革細工のネットショップを運営しているBさん。

彼は学生時代から趣味で革細工をつくっていた。単身赴任をきっかけに副業でネットショップを始めたが、自分の「甘すぎる予想」に反して、作品は全く売れなかった。

彼はどのようにしてお客さんを獲得し、自分の力でお金を稼ぎはじめたのか。逆転の物語を紹介する。

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私は地方都市に在住する30代後半のサラリーマンです。

新卒から中堅メーカーで営業職を担当していますが、平日夜や週末はオリジナルの革細工(財布など)を作り、ネットショップで販売しています。

私のケースは純然たる起業ではありません。たまたま決まった、単身赴任がきっかけで仕事終わりに時間ができ、会社が副業OKだったので「やってみるか」くらいの気持ちで副業として始めました。だから「会社を辞めて背水の陣で起業」というシリアスな話ではないのですが、最近は副業からはじめる方も増えていると思いますし、そんな方の参考になれば嬉しいです。

副業を意識した上司へのプレゼント

もともと趣味で革細工をつくっていました。学生時代からなのでもう20年近くになります。

革細工の魅力は、その奥の深さにあります。同じように切って、縫って、磨いても、1つ1つに個性があり、何とも言えない喜びを感じます。処女作はカードケースで、売れるようなシロモノではありませんが、出来上がったときの嬉しさはよく覚えています。

副業を意識したきっかけは偶然でした。職場の飲み会の会計で、自作の財布を出したとき、上司から「それ、いいね」と言われたのです。手作りだと言うと、驚かれました。後日、過去に作った試作品の財布をプレゼントすると、実際に愛用してくれて、「ひょっとして売れるかも」と思いました。

それまでにも「ネットショップで売れるんじゃない?」と言われたりしましたが、お世辞としか思えませんでしたし、そもそも自分にそのような発想がありませんでした。

ゼロからのネットショップ開店

当時、革細工の完成品ストックは40ほどありました。でも、何をどこから始めたらよいのかもまったくわからず、とりあえずネットで情報収集から始めました。今は便利な世の中です。すぐに「革細工でネットショップを開業する方法」「売れるネットショップをつくるポイント」みたいなサイトがたくさん出てきました。

こうしたサイトにはネットショップの始め方だけでなく、集客方法やサイトデザイン、作品のアピールやSNSでの情報発信の仕方、事業主としての登録や税務申告の方法、副業から本業にした方の体験談など、さまざまな情報が掲載されていました。

たぶん1か月位、そうしたサイトを集中して読みふけりました。実際に革細工ネットショップとして成功しているサイトを研究して、自分なりに良いと感じたところをメモしたりしながら、自分自身のサイトイメージを具体化していきました。

そうこうしながら、2年前の1月初旬、個人事業主の開業届を税務署に提出しました。インターネットで開業届のフォームをダウンロードし、事業や屋号を書き込みました。「個人事業主の開業手続き」というと、面倒な印象もありますが、実際にやってみると驚くほど簡単です。

個人事業主を選んだのは、青色申告特別控除を得るためと、屋号入りの銀行口座を開設するためです。詳細は省きますが、ネットショップでの起業や副業を考えている方は、まずは個人事業主として開業届を出すのが良いと(私個人は)考えています。開業届の提出には費用もかかりませんし、事業者として最低限の体裁を整えることができるからです。

見積もり不足の自己資金

開業届を出す前の月に、ネットショップはすでに開店していました。ショップの出店先は「ネットショップ 開業 おすすめ」といったキーワードで検索をかけて、複数のネットショップ・サービスを比較して決めました。

ネットショップには、楽天やアマゾンなどのショッピングモール型と、BASEなどの独自ECサイト型があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。まずは、各社の売上規模や会員数、取扱商品、料金、販売手数料、ユーザーの口コミなどを収集し、自分が売りたいと思う商材との相性や、予算と比較して判断するのが良いと思います。

ちなみに、ネットショップ開店時、私の予算はおよそ50万円。独身時代から貯めていたなけなしの資金と、お昼代や飲み代を節約して貯めた資金です。正直、これで大丈夫だろうかと不安でしたが、お金が無いなら手足を使って勝負しようと思っていました。まあ、これが甘い考えだったわけですが…。

 起業に必要な資金は業種・業態でそれぞれだと思いますが、ネットショップ開店時のお金は多いほど良い。お金は持っていたもの勝ちです。特に広告宣伝用の資金をある程度は確保しておかないと、オープン時から相当の苦戦を強いられます。私自身は開店から何カ月も閑古鳥が鳴いている状態で、本当に苦しかった。

ネットショップ・サービスは最終的に初心者向けの独自ECサイト型を選択しました。豊富なテンプレートから自分の製品コンセプトに合ったものを選ぶことができ、準備していた写真や文章をレイアウトするだけで簡単に作成できました。

写真はこだわり、製品の解説にも凝りました。当たり前ですが、写真と価格だけを並べても売れません。革細工にかける自分の想いや考え、こだわりなどをしっかりと盛り込み、製品とともに作り手の想いが伝わるよう自分なりに工夫しました。

マンションの部屋にこもること2日間。初めてのネットショップが出来上がりました。・・いやあ、当時は本当に嬉しかった。開店後しばらくは、浮足立っていたというか、世界に自分のお店が生まれた感動で始終フワフワしているというか、そんな感じでしたね。

まったく売れなかった10カ月

ネットショップを開店して1週間位、ランナーズハイというかネットショップ開店ハイというか、四六時中ありえない妄想ばかりしていました。「これからばんばん売れるにちがいない」「たくさん売れたら副収入で高級革材料を仕入れたり家族で海外旅行したりしよう」「売れすぎて制作が追いつかない状態になったらどうしよう」など、本気でそう思っていました。

しかし、現実は厳しかった。その後10カ月もの間、1円も売上がありませんでした。

そもそも、アクセスがありませんでした。あっても一日に5とか10とか。よくある話といえばそうかも知れませんが、浮足だっていた分、現実を知るにつれ、心が急速冷凍されました。せっかくオープンした自分のネットショップが、世の中からまったく注目されず、ほとんど完全に無視されている状態は、精神衛生上もよくありません。

毎日アクセス数を見ては凹み、だんだんと製品作りにも身が入らなくなっていきました。InstagramやFacebookも頻繁に更新していましたが、ほんの僅かしか反応がありません。友人・知人に告知をしても、その瞬間だけアクセス数は上がりましたが、長続きはしませんでした。

ネットショップを開店から3カ月、相変わらずまったくアクセスの無い状況で、身体にも影響が出てきました。自分や自分の作品が完全に否定されたような思いがして、夜眠れないのです。暗い部屋でアクセスのない管理画面を確認して、深夜2時頃に部屋を出て近くにある川の土手を歩いたりしていました。完全にまずい状態です。

ただ、アクセスがないというのはサイトの存在が知られていないだけであって、自分の作品が否定されている訳ではないとポジティブに考えられるようになってからは、ほんの少しだけ気持ちが楽になりました。

その後は、すべての取り組みを「アクセス増」に集中しました。InstagramやFacebookでの情報発信も工夫し、動画でも自分のこだわりや制作風景を配信、制作技術について紹介したりもしました。その間も売上はありませんでしたが、革細工制作コミュニティなどでも地道に情報発信を継続し、アクセスは徐々に増えていきました。

よく言われるように、ネットショップの集客には時間が掛かります。もうできる事をすべてやるだけです。それしかありません。10カ月間、私は毎日のように自信を失っては何とか取り戻し、低迷する創作意欲をつなぎました。もうやめようと思った事はたくさんありますし、それはアクセス数が当時の数百倍になった今でもありますが、これほどまでに孤独感や寂しさを感じるとは思いませんでした。

はじめての受注

ネットショップを開店して10カ月ほど経ったある日、1通のメールが届きました。開封してみると受注の連絡です。さらに、お客さんからメールが来ていて「素晴らしい作品だと思う」と書いてありました。

もう天にも昇る思いでした。ひょっとしたら新手の詐欺ではないかと思ったくらいです。時間をかけて感謝を込めたメールを返信しました。

届いたメールの文末には「〇〇デザイン事務所 代表●●」とあり、都内のデザイン事務所の代表者の方でした。名前を検索してみると、なんと、業界では知名度のあるデザイナー。そんな方に認めてもらい、実際にお金を出して購入してもらったことが嬉しくて涙がでました。これが、私の記念すべきお客さん第1号です。

実際の関係者がいる話なので、話せる範囲になってしまいますが、その後、2週間ほどしてまた同じデザイナーの方から注文がありました。今度はカードケース。「財布の使用感はとても良い、デザインも気に入っている、ありがとう」とありました。この時も感謝の気持ちを込めて返事をし、作品に手書きのお礼状も同封しました。

その後、東京へ帰省したときにデザイナーの方と会う機会に恵まれました。なんと「知人のセレクトショップを紹介する」と言ってもらい、都心のお店に商品を置いてもらえることになりました。
夢みたいな話ですが、もちろん販売マージンはがっつり折半です。ただし、現状では私自身の知名度はゼロに等しく、販売窓口やお客様との接点が必要です。今後もしばらくはネットショップとセレクトショップでの販売に注力していくつもりです。

泥臭くやれることをやる

「ネットショップを始めたがなかなか売れない」
「まったくアクセスがない、もう止めたい」

そんな方も多いと思います。ありふれた話になりますが、諦めずに打てる手をうち、継続することが大切です。1件の受注メールで人生が変わることもあるからです。

ただ、もしあの時、私の作品がデザイナーの方の目に留まらなかったら、いつまで続けられていただろうかとも思います。現実的に、家庭の事情やお金の事情で止めざるを得ない事もあるはずです。正直、その点は何とも言えません。

私自身まだ発展途上ですが、実際に副業で稼げるようになって思う事は「自分は会社に頼らなくても稼げている」という安心感です。本業も好きですし、今後も副業を本業にする予定はありません。でも、こんな時代ですので、万が一本業の会社が倒産してしまっても、自分には副業があるから稼いでいける、と思えます。これは思わぬ収穫でした。

とはいえ、副業のできる時間は限られています。たとえ1,000のことをやりたいと思っていても、1日単位でできること、独りでできることはせいぜい1,2です。私自身、今後は裁断や縫製等を外注し、制作点数を増やすことができればと考えています。

先日、私の副業の取り組みが社内報でも紹介されました。照れくさいですが、とても充実しています。皆さんの起業・副業が上手くいくよう、心から祈っています。

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いい商品さえあれば、お客さんが買ってくれるとは限らない。

「買う」が「知る」より前にあるのは、辞書の中だけだ。

起業や副業を考えるとき、「何を売るか」と同じくらい「お客さんにどう知ってもらうか」も考え抜いて欲しい。

■おわり