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起業の失敗談を聞いてみた

何事も失敗はつきものだ。起業も例外ではない。

情けない失敗、恥ずかしい失敗もある。金銭的な痛みもあるし、大切な人に迷惑をかけてしまうこともある。

今回は、実際に事業を立ち上げて奮闘している先輩たちに、自らが体験した起業当初の失敗談を語ってもらった。

実在する関係者に影響のないよう少しデフォルメしているが、体験から学べる失敗のエッセンスは、できる限り致命傷を避けて、小さく、上手に失敗するのに役立つはずだ。

【Case1】保証金もしらんのか?

Aさんは地方都市で飲食店を経営する先輩起業家だ。

今では多店舗展開をするAさんだが、起業当初は「飲食店経営など何も知らない若造でした」という。

「高校中退後、紆余曲折を経てラーメン屋を開きました。記憶に残っている最初の失敗は『保証金』を知らなかった事です。保証金は、店舗を借りるとき借り手が貸し手に預けるお金のことです。家賃を滞納したときに、家賃の支払いに充てたりします。物件によりますが、保証金は家賃の6カ月分程度、100万超になります。

これは店舗物件を借りるために最低限必要なお金の一部ですが、当時の私は知らなかった。見積書を指さして、これ、なんですか?と聞いたときの不動産屋さんの表情が忘れられません(笑)。

『君は、保証金も知らんのか?』と。呆れられ、説教され、そのままご飯に連れて行ってもらい、飲食店経営に必要なお金のことを教えてもらいました。その時の不動産屋さんには、いまでも頭が上がりません。

飲食店をやりたいという後輩の相談を受けることがありますが、当時の私と同じように、保証金の事を知らないケースがあります。飲食をやるなら最低でも500万貯めろ、できないならやるな、というのが私のアドバイスです。」

Aさんの言うとおり、物件を必要とするビジネスにはお金が掛かる。融資を受けるにも、ある程度の自己資金が必要だ。店舗と言ったら、保証金。この合言葉は、頭の片隅に入れておこう。

【Case2】利益を食い潰していたギフトラッピング

Bさんは生活雑貨のネットショップを経営する先輩起業家だ。

大手小売企業で十年以上も生活雑貨の販売に携わっていたBさん。業界事情に明るく、取引先にも友人・知人がいて、価格相場にも詳しかった。いわば業界玄人の起業だが、意外な盲点で販売計画が狂ってしまい、軌道修正に苦労したという。

「私はどちらかというと慎重なタイプです。起業セミナーに通い事業計画書を練り上げ、お金も貯めて、準備をして起業しました。職場も円満退社です。想定より時間は掛かりましたが、売上も順調に伸びて、広告宣伝に本腰を入れはじめたころ、異変に気がつきました。

手もとにお金が残らない。そう、利益率が低いのです。

いったん広告宣伝を止めて、経費のリストを精査すると、利益を食い潰す犯人が分かりました。ギフトラッピングです。購入してもらった商品は基本的に無料でギフトラッピングをしていましたが、オリジナルのラッピング資材(紙袋や包装紙、リボンやシールなど)にかなりの経費が掛かっていたのです。

恥ずかしいお話ですが、これは意外な盲点でした。起業セミナーで担当の先生に褒めてもらった事業計画書にも、ギフトラッピング用の経費は予測計上していませんでした。先生を責める訳ではまったくありません。これは抜けがちな項目で、例えば、飲食店におけるテイクアウト用の資材も同じだと思います。オリジナリティにこだわって経費がかさむと、思いがけず利益を食い潰します。

いかに綿密な事業計画書を作成しても、想定外の経費は必ずかかります。大切なのは、それを見越して計画に余裕を持たせることと、経費リストを定期的に見直すことだと思います。」

Bさんの言うとおり、いかに事業計画書を作り込んだとしても、実際に事業をはじめると想定外の経費は次々と発生するものだ。

起業家として生き残るためにも、特に起業当初の余裕がない時期には、きっちり経費を把握してコントロールすることが重要だ。

【Case3】発注する側の身にもなれよ

Cさんは都心で経営コンサルティング事業を営む先輩起業家だ。

大手家電メーカーで法人営業を担当していたCさんが起業したのは、30代最後の年のことだ。今でこそ複数の顧問先企業を抱えるCさんだが、独立当初は単発の仕事でなんとか食いつないでいたという。

「今まで失敗はいろいろとしてきましたが、これは心構えの失敗です。独立当初はまったくと言っていいほど仕事がありませんでした。同じ業界の先輩から単発の仕事を紹介してもらい、なんとか食いつないでいました。

独立して四年後、初めてある企業からコンサルティング契約のオファーを受けました。きっかけはもちろん先輩の紹介です。とんとん拍子に話が進み、業務要件の取り決めなどについて先輩からアドバイスを頂いていたとき、何気なく『はじめての顧問契約で、うれしい反面、怖さもあります』と言いました。

まぁ私としては素朴な感想というか、正直な気持ちでしたが、それを聞いた先輩から、こう切り返されました。

『いや、発注する側の身にもなれよ。自分も怖いかも知れないが、どこの馬の骨とも知れない人間に顧問契約を打診する企業担当者の方がもっとずっと怖いよ』

ぐうの音もでませんでした。先輩の言うとおりです。私たちコンサルタントだけでなく、サービス業を営む事業者にとって、このお客さんの『怖さ』をきちんと理解することが、ビジネスの大前提なのだと思っています。

考えてみれば当たり前の話ですが、無名のコンサルタントに仕事を依頼する酔狂なお客さんはいません。この点を骨身にしみて理解する事が、独立コンサルタントの第一歩だと思っています。」

それからというもの、Cさんはお客さんが抱えている怖さを常に肝に銘じているという。サービスには形がない分、品質がお客さんに伝わりにくい。お客さんの怖さをきちんと理解する事こそ、サービス業の核心なのかも知れない。

失敗が続くと、どんなにタフな起業家でも「もうやめよう」「自分には才能がない」「起業に向いてない」と考えてしまうだろう。

だが、「失敗」の定義を辞書で調べてみると「やり方がまずくて目的が果たせないこと」と書いてある。

つまり、失敗の原因は「才能がないから」とか「向いてないから」ではない。「やり方がまずい」だけなのだ。

先輩たちの失敗に学ぶことで、「やり方」は変えられる。先輩と同じような状況に出会ったら、紹介した教訓をぜひ生かして欲しい。

■おわり