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「BUTTER」雑感

こんにちは、ぱんだごろごろです。
今年は、二月にしては、暖かい日が続いていますね。
お雛様も出したし、夫と息子への、バレンタインデーのプレゼントも終わったし、ぬくぬくとした冬の一日を過ごすには、やはり読書でしょうか。

娘から、感想を聞きたいから、この本を読むように、と言って渡されたのが、表記にある、柚木麻子著「BUTTER」です。
読了したものの、作者が何を言いたかったのか判らないと言うので、その本を貸して貰って、読むことにしました。

読み始めて、すぐにわかったのは、この小説の主題となっているのが、かつて実際に起こった事件だ、ということ。
作中では、カジマナと呼ばれる、その事件の被告人は、現実世界では、「カナエ容疑者」と呼ばれていました。

2007年から2009年にかけて起こったその事件において、私達が何より驚いたのは、太っていても、美しくなくても、結婚詐欺が出来る、というその一点でした。

何故って、世間一般の、悪女と呼ばれる女性達は、男をだまして手玉に取ったり、財産を巻き上げたり、遺言書を書き直させたりするために、人目を引くほど美しい姿形をしているではありませんか。
それを、あの容姿でやろうというのは、そして、現にできた、というのは、驚き以外の何物でもなかったのです。

「BUTTER」という、この小説の中では、カジマナは食べることが好きで、料理も上手く、美食に一家言あり、贅沢好きで、友人はなく、崇拝者だけを欲する女性として、描かれています。
マーガリンを嫌悪し、バターをこよなく愛する女性。
本物にしか価値はない、と言いながら、自身が決して本物には見えなかった女性。
殺された男達は、彼女に夢中になりながらも、どこかで、彼女を見下していた・・・。

作者は、カジマナの特異な性格と、その影響を受けて、人生を狂わされて行った人々の姿を描きます。
被害者の男性達も、もちろんそうですが、この小説の中で、カジマナの言動に、一番引きずり回されたのは、主人公の里佳でしょう。

週刊誌記者の里佳は、「首都圏連続不審死事件」について、カジマナに取材し、記事を書きたい、と考えていました。
料理がきっかけとなって、里佳は、カジマナから面会の許可を得、彼女と会うために、東京拘置所に通うようになります。

相手が被告人とわかっていながらも、カジマナに好意的で、引き込まれていきそうになる里佳。
それを心配する、親友の怜子。
中盤、怜子は、カジマナから里佳を取り戻そうとして、とんでもない暴走をします。
この部分は、正直読んでいるのが、精神的にきつい箇所でした。
そこを乗り越えたあとは、終盤、カジマナの悪意を頭から浴びせられた里佳が、傷つき、倒れながらも、それでも何とか立ち直り、未来へ向かって歩き出す姿を描くフィナーレが待っています。

読み終わって、ああ、良かった、と思ったのですが、さて、それでは、娘はどこに引っかかりを感じたのか。
娘によれば、カジマナは獄中結婚して、手記も出し、ある意味幸せなのに、里佳は破滅させられて、この終わり方でいいのか・・・? ということらしいので、これはハッピーエンドなのだよ、と伝えました。

カジマナの作為により、里佳は記者生命を絶たれるに等しい状況に追い込まれます。
ですが、里佳が破滅した、と言っているのは作者だけで、事実を一つ一つ拾い上げて行くと、里佳は実は、何も失くしてはいないのです(納得して別れた恋人以外)。

記者生命を断たれて、事務職をしていると言いますが、女性誌に記事を連載することになって、書く仕事はしているし、正社員として働いていることに変わりはありません。
新しい住まいも手に入れました。
何より、大切な人達は、変わらず里佳の周りにいて、里佳を支えてくれています。
親友の怜子。母。社内の後輩たち。篠井さん。

作者は、里佳に優しいのです。
この騒動の中で、里佳は、長い間トラウマになっていた、無惨な過去に決着を付け、清算しました。

「BUTTER」というこの小説は、カジマナに破滅させられた、週刊誌記者の物語ではなく、様々な経験を積んで、人生の新しいステージに上った、里佳の再生の物語なのです。

まとめます。
今回は、娘からリクエストされた小説を読んでみました。
普段、自分では選ばないタイプの内容で、読後に親子で感想を共有するのもいいな、と思いました。
この本の前に、娘がお薦めしてくれたのは、村田沙耶香の「きれいなシワの作り方」というエッセイ集ですが、抱腹絶倒の面白本で、これも皆様におすすめです。



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