徳川家の姫君のお人形~「徳川慶喜家の子ども部屋」

「あのこは貴族」の雛人形

こんにちは、ぱんだごろごろです。
お正月が過ぎると、二月には節分の豆まきがあり、鬼のお面を片付けた翌日は立春です。
月が替わって三月になれば、三月三日は雛祭り、女の子のお節句ですね。

新しく女の子が生まれた家では、さっそく雛人形の支度をしていることでしょう。
女の子にとって、生まれた時に用意してもらったひな人形は、一生を共にするもの、お嫁入りするときにも、一緒に連れて行くものですから、どんなひな人形にするのかは、決してゆるがせには出来ない一大問題(?)です。

とは言え、現代では、住宅事情もあり、コンパクトなお雛様が好まれているようです。
なぜ、こんな雛人形の問題を持ち出して来たか、と言うと、先日記事にした小説、「あのこは貴族」の中に、雛人形に関する会話があり、そこで語られていたことに、強い既視感(あれ、この話、どこかで聞いた?見た?)があったからです。

それは、「あのこは貴族」の主人公、榛原華子の実家に、桃の節句になると飾られる、雛人形に関してのものでした。
何と、華子の実家では、三人の娘の雛人形の段飾りを、三人分、一部屋使って、ずらりと並べていた、と言うのです。

離婚した次女はともかく、なぜ長女が自分の雛人形を実家に置いたままにしているのか、それはおそらく住宅事情ゆえだろうと思われます。
七段飾りだそうですから、普通の家なら、おそらく和室一室まるまるお雛様部屋になってしまうでしょう。

「徳川慶喜家の子ども部屋」の雛人形

この、「七段飾り」「三人分」というところに、私の記憶が反応したのですね。
早速、本棚を調べてみたら、ありました。
榊原喜佐子著「徳川慶喜家の子ども部屋」(角川書店)です。
これは、江戸幕府「最後の将軍」と言われた、徳川慶喜の孫にあたる筆者が、子ども時代からつけていた日記をもとに、当時の暮らしを綴ったものです。

筆者の姉は皇族、高松宮の妃殿下喜久子様。高松宮は、昭和天皇の弟で、今上天皇(今の天皇)からは、大叔父に当たります。
母上は、有栖川宮威仁親王の次女、実枝子女王でした。

この本の第一章に、お雛様についての記述があったのです。
筆者の実家である、徳川公爵家では、お雛様の時期になると、母上の実枝子様が、有栖川宮家から持ってこられたお雛様と、筆者のお雛様、その妹である久美子様のものとが、いっせいに飾られていた、というのです。

喜久子様のご結婚前までは、そのお雛様も同時に飾られていた、というのですから、さぞかし壮観な眺めだったことでしょう。
お客座敷と呼ばれる日本間三部屋にまたがって飾られたお雛様の素晴らしさは想像するに難くありません。

実枝子様のお雛様は七段飾り、親王雛の上座に、いざなぎ、いざなみの命(みこと)の人形が飾られ、駕籠、牛車から夜具、箪笥などの調度類、さらに硯箱、針箱、碁、将棋などのお道具類が、すべて有栖川宮家のご紋入りで、本物そっくりに作られていた、というのです。

いったいどうやって、そんな大がかりなものを個人宅で飾れるのだろう、とお思いになりますか?
筆者の説明によれば、ご実家は、今で言う文京区春日二丁目にあり、土地が三千坪、建物は千坪余りの質素(!)な平屋の日本家屋だった、ということです。
昭和初期の頃の事とは言え、今とはスケールが違い過ぎて、きっと日々の時間の流れ方も、今とは違っていたのだろうなぁ、などと考えてしまうのです。

そのミニ版とも言うべきものが、「あのこは貴族」に出て来る、榛原家のお雛様なのでしょうね。

「リリー」と「チェリー」

さて、「徳川慶喜家の子ども部屋」には、もうひとつ、印象に残るお人形のエピソードが語られています。
昭和六年六月高松宮様とその妃殿下、まだ十八歳の喜久子様は、陛下のご名代としての、二十四ヶ国、一年二ヶ月に渡る欧米ご訪問から、帰国されました(当時のことですから、むろん船旅です)。
その長旅のお土産として、筆者は様々な美しくめずらしい品々を、姉妃殿下から贈られるのですが、その中でも、一番もらってうれしかったのが、西洋人形だった、と言います。

そのお人形は、筆者とその妹の久美子様とに、おそろいで贈られたもので、とても可愛らしく、二人は、お人形に、「リリー」と「チェリー」と名付けたのだそうです。
お人形用のお道具としては、ロココ風の箪笥、レースのついたドレス、下着、石鹸、タオルに至るまで、何から何まで揃っていました。

こんな所を読むと、まるで「小公女」のエミリーのようではありませんか。
その上、ある秋の日、母の実枝子様が、せっせと編み物をしていらっしゃるので、何かと思ったら、翌朝、二人に、毛糸で編まれた、人形のためのマントを「出来たよ」とくださった、というのです。
高貴な出自の方々も、母が我が子を思う気持ちは、世界中、同じなのですね。

まとめます。

あなたの雛人形は、どんなお雛様ですか?
お母様やお祖母様が、あなたのために選んで下さった雛人形、今年はじっくり眺めてみましょう。
雛人形を持っていないわ、とか、姉妹で共有よ、という方は、ご自分用のお雛様を手に入れてみるのはいかがでしょう。
鳩居堂の小さなお雛様や、リヤドロのお雛様も素敵ですよ。


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