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囀り / イソヒヨドリ

ホーーーホケキョッ…
ヒンカラカラカラカラ…
ホイチュリチュリージジッ…

これは日本三鳴鳥の歌声である。
三鳴鳥とはつまり「美しく鳴く鳥 Best 3」のことをいう。
一つにはウグイス、二つにはコマドリ、
三つにはオオルリである。(順不同)
いづれもその鳴き声はもちろん、立ち居振る舞いまでもが美しく、三鳴鳥の名に恥じることのない優美な鳥なのだ。
しかし仮に私が三鳴鳥を選出したまえと命じられることがあるとすれば、この通りにするわけにはいかないのである。

第一にウグイス。
これは動かしようのない天下の鳴鳥だから、当然そのままにしておく。

次にオオルリ。
オオルリはその名の通り瑠璃色に輝くなんとも綺麗な野鳥で、青い羽色に負けず劣らぬ美声の持ち主である。よってこれもそのままにしておいてもよさそうなものだが、歌のメロディーがあまりに複雑なので、何度聞いても声を覚えられない。
もうひとつオオルリに似た声色をもつキビタキという小鳥がいるのだが、こちらの歌は調べにリズムがあってずっと覚えやすい。見た目も黒地にオレンジのコントラストを効かせた大変美しいものであり、町の林にも住んでいるから歌声を耳にする機会も多い。ここはキビタキの方を選出しておいたほうが良さそうだ。

次にコマドリであるが、これは深山で朗々と鳴くだいだい色の小鳥で、そのヒンカラカラカラという大きな声は谷間に鳴り響いて聴くものを幽玄の世界へと誘い込む。
昔はかごに入れて囀りを楽しんだりしたようだが、今となってはコマドリの歌声を耳にする機会など普通はめったになく、親しみのある野鳥とは決して言えないのである。
従ってコマドリも三鳴鳥に入れるわけにはいかず、今一つ空のポストができてしまった。
さて、ここに何の野鳥を入れるべきか。

その答えは私の中では初めから決まっている。私なら三鳴鳥の一つにイソヒヨドリを入れようと思う。
イソヒヨドリはその名の通りもとは磯辺に生息する野鳥であったが、近年にわかに町中に進出してきた新参者である。彼らは人の建てた建築を海の断崖にみたてるという新しい暮らし方を思いついたのだ。
もはやもっとも身近な野鳥の一つとなったイソヒヨドリであるが、その歌声の美しさは群を抜いている。彼らのさえずりは大きすぎず小さすぎず、声音こわねは繊細であり、長くゆったりとしたメロディーをのびのびと軽やかに歌い上げる。それはこれまで疲れた都市に居ては聞かれることのなかった美しい浜辺の調べである。穏やかな春の海である。
イソヒヨドリはマンションの屋上にとまっておおらかな海辺の想い出を歌っている。我々はしばし立ち止まって、その名曲に耳を傾けなければいけない。

さあ、これで私の三鳴鳥は決定した。
一つにはウグイス、二つにはキビタキ、
三つにはイソヒヨドリである。

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