茶道の先生になりたかったけれど
9歳から茶道を習い始めたわたしは12歳の卒業文集で、「茶道の先生になりたい」と書いている。
そしてその夢は中学3年生くらいまでずっと変わらなかった。
高校生になるとみんなが「看護師になりたい」とか「栄養士になりたい」とかすごく具体的かつ現実的な目標を持つようになった。
理系クラスに居たからか、みんなみんな、目標が立派だった。
わたしは「茶道の先生になりたい」なんて言ってる場合じゃないなと焦った。
もう誰も「プロ野球選手になりたい」とか「歌手になりたい」とか「ピアニストになりたい」とかそんな夢物語を言っていないのだ。
わたしも大学を出て、何かしら学問を学んで、それを活かした正社員の仕事に就かなければ。
そこで茶道と同じくらい好きだった科目で「数学の先生になりたい」という夢を見つけて進路を考えるようになった。
「茶道の先生になりたい」という気持ちはいつのまにか「学校の先生になって茶道部の顧問になれたらいいか」くらいの気持ちになっていった。
今思えば当時どうして担任の先生や茶道の先生に相談しなかったんだろうと不思議だ。
高校生のわたしはほんとに視野が狭かったなあ。後悔はしていないけれどね。
ちなみに高校生活の途中で体調を崩して進学できなくなったので、数学の先生になる夢はいつの間にか諦めることになる。
そして23歳を過ぎた頃から、「やっぱり茶道で人の役に立ちたいな」という想いが再燃する。
ただし「茶道の先生になりたい」ではない。
なぜなのか。それは「そう簡単にはなれないから」。
当たり前だけれど茶道の先生は茶道を教えるだけの知識や経験がなくてはならない。
もちろん茶道の世界はあまりに深いので、「教えながら自分自身も学んでるのよ」と謙遜して言ってくれる先生もいる。
だがわたしは「教えながら学んでいく」ところにすら達していない。
十数年も茶道を習ってきたというのに、ただ「お抹茶おいしいな」とか「綺麗に抹茶点てられたな」とか「お点前が覚えられて嬉しい」とか「今日の先生のお道具綺麗だな」とかそんなことしか考えてなかったのだ。
そんなわたしが、茶道の先生になどなれるわけがない。
じゃあ努力すればいいじゃないのか?と思う人も居ると思うし、本当に本当に、その通りだと思う。
今から必死で勉強すれば、「茶道の先生の卵」にはいつかなれるのかもしれない。
でもわたしは、「今、人の役に立ちたい」のだ。
これは、わたしの単なるわがままだ。
高2で体調を崩して学校を辞め、
新卒で就職したホテルも数ヶ月で辞め、
転職先でも1年ほどしか続けられず、
わたしはもう何度も絶望した。
もう「いつか」を待つほどの元気は無くなってしまった。
何度も何度も考えた。
「茶道とは全く別の本業があって、空いた時間で茶道の修行に励めたらなあ。」と。
実際そうしてる人たちは周りにもSNS上にもたくさんいて、めちゃくちゃ羨ましいと思ってしまう。
でも、悲しいけれど、わたしには無理なのだ。
茶道の先生にはなれないわたしが今、茶道の経験を活かして人の役に立つ方法を必死で探した。
それが「抹茶を点てて飲む楽しさを伝える」だ。
「抹茶を点てて飲む」は、茶道のたくさんある要素のほんの一部にしか過ぎない。
他の要素を考えてもよかったんだけど(例えば和菓子について発信するとか)、わたしが茶道のなかで1番好きなのは「抹茶を点てることと飲むこと」だったから、そこにフォーカスを当てている。
「抹茶を点てて飲むだけなら難しくないよ」
「厳密には茶道とは違うんだけど、茶道の要素のひとつだけ、いっしょに気軽に楽しもうよ」
そんな気持ちで発信している。
そしてそんな想いをきちんとカタチにするため、「抹茶リビング」というブランドを立ち上げた。
簡単に言えば「おうちで楽しむ抹茶屋さん」だ。
抹茶リビングのコンテンツは、オンライン講座やイベントを開催したりお道具や抹茶を販売したりと、少しずつ広がっている。
でもそれらは「茶道を習いたい人」に届けたいのではなく、「おうちで普段から抹茶を楽しみたい人」に手に取ってもらえたらと思っている。
(ちなみにユーザーさんのなかには、茶道を習っていても抹茶リビングのビジョンに共感して手に取ってくれる人もいるので、ほんとうにありがたい)
茶道の先生にはなれなかったけれど、「好きなことで今、役に立ちたい」という気持ちを諦めきれなかったわたしがつくった大切な大切なブランド。
抹茶リビングのファンでいてくれる人、これからファンになってくれる人とともに、抹茶を点てるじかんを楽しんでいきたいな。これからも、ずっと。
抹茶を気軽に楽しむ文化が広がりますように。
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運営している「抹茶リビング」では、オリジナルの宇治抹茶やお道具、オンライン講座を販売中。
よかったらチェックしてみてください。
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