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やってみたいを大切に!~0歳から包丁を使う~ 開発者の想い:ひより保育園(前編)

鹿児島県にあるひより保育園では、0歳から6歳の園児たちが包丁を使って、調理をします。動画でその様子を見ていただければ、きっと子どもたちの見事な手つきに驚かされるでしょう

包丁はオリジナル製品で、落ちても危なくないように切っ先を丸めてありますが、刃の切れ味は大人用のものと変わらないそうです。

そのような保育園を設立・運営する代表の古川理沙さんは、もともと保育士ではありません。古川さんに、食育を中心とした保育園を設立した経緯、食育活動や商品開発のこと、子どもたちや先生方とのエピソードについて伺いました。

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ひより保育園はどんな保育園ですか?

子どもたちの「やってみたい」を大切に、生きる力を養っていく保育を目指しています。例えば、園庭は一般的な園のイメージと違って、大きい岩がゴロゴロしていたり、山から採ってきたそのままのかたちの木があちこちにあったりします。子どもたちにとって、それはもう楽しくてしょうがないんです。2歳ぐらいで自分の身長ほどある岩や木に登って上に立とうとすると、登っていくうちに筋力もつくし、自分で何とかなる範囲がどのぐらいなのか理解していきます。

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そのように生きる力を養っていく取り組みのひとつに、食育があります。体に良いものを食べるだけでなく、子どもたち自身が調理したり、地域の農家さんとつながって学んだりしています。

食は身体や心を作る根源的なところですし、調理は子どもでも“実験”しやすいんです。事前にイメージして、やってみてイメージと違っていたら次は違うやり方を試しやすいし、丁寧にやらないとおいしくないし、試してみたことが当たって美味しくできると嬉しい。つまり、子どもたちもPDCAを回しやすくて、「理科の実験してみよう」とか、大人になって「会社作ってみよう」といったときに生かせる力にもなると思っています。

古川さんはもともと保育士をしていたわけではなかったと伺っていますが、保育園を立ち上げることになった経緯を教えてください。

これは結構長いストーリーなのですが(笑)。私はもともと言語学が専門で、韓国と中国で8年間日本語教師をしていました。その頃はサッカーの日韓ワールドカップ、北京オリンピックがあり、盛り上がっていて経済的にも成長していくふたつの国で、「日本に学びたい」という思いを持った人たちに囲まれて生活をしていました。

特に、最後にいた中国では、経済成長していくなかでもまだまだ市場で買い物をして自分たちで調理するのが当たり前でした。日本に帰国したときにいろんなものがすごく便利な一方で、半調理品で温めるだけの食事も多く、旬のものを食べる機会も減っていることを残念に思いました。私は帰国したときに妊娠7カ月だったのですが、「海外のみんなが学びたいと思ってくれていた日本だけど、わが子はこのまま日本の教育を受けていって、生きる力や生きがいを持って暮らす術を見つけられるかな」ともやもやを感じていたんですね。

日本に帰ってきてから、私は保育園とは別の事業で会社経営をしていました。他の企業の経営者と話していると、「新入社員として入ってきたあとでどれだけ教育してもなかなか難しい」という声を聞きました。また、大学の教員の方々と話をすると、「高校までに頑張ってもらいたい」と。小学校1年生の担任をしている方と話したときには、「最近はもう入学した時点で無気力な子が多い」と言うんですよ。だから、生きる力や生きがいを育んでいくには、もう0歳から関わるしかいないし、それはおもしろいだろうなと思って立ち上げたのがひより保育園です。

なぜ“食”に注目したのでしょうか?

海外と日本とを見比べてモヤモヤしていた経験のほかに、私の幼少期の原体験があるかもしれません。両親と叔母夫婦の4人で飲食店を切り盛りしていたんです。厨房には高熱のオーブンや刃渡りの長い包丁があって危ないのですが、子どもは入りたくなりますよね(笑)。

そんな幼稚園の頃の私に、叔父がペティナイフを渡して、「りんごの皮むきがきれいにできるようになること、鉛筆がちゃんと削れるようになること。ふたつの試験をパスすれば厨房に入って何でも使っていいけど、それが出来ないうちは一切入るな」と言いました。

私はそれで、合格が出るまで一生懸命りんごの皮剥きと鉛筆削りの練習をしました。特に、りんごをきれいにぐるぐると皮剥きするのは子どもには難しかったですが、なんとかできるようになって、私は入りたかった厨房に入ることを許可されたんです。

例えばテレビの料理番組でちらっと見たものや何か思いついたものを試すには、飲食店の厨房は最高の環境なんですよね。子どもが思いつきそうな食材は全てあるし、調理器具も揃っていて、もうないものなんてないんです。「今やってみたい」と思っても「何かを買いに行かないとできないからね」「あさってね」と言われると、情熱が消えてしまうので、「今やりたい」と思ったときにすぐできる環境はすごく楽しかったです。

振り返ると、叔父が私に自信と最低限の技術を身につけさせたうえで自由に調理させてくれた体験が、ひより保育園のベースにもなっていると感じます。

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文章:遠藤光太