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鶏卵アレルギー:鶏卵に関するお役立ち知識&誤解されていそうなこと

鶏卵は、子どもの食物アレルギーの原因の中で、最も多い食材です。鶏卵はいろんな食品に使用されているため馴染みがあり、また、「加熱により大きくアレルゲン性が低下する」という特徴はよく知られております。今回は、鶏卵自体の特徴、ご存じない方が多いかも知れない情報、誤解されていそうなこと、などなど、書いてみます。


卵の特徴

食物アレルギーは食べた「タンパク質」にて起こります。食べた量がそのお子さんの許容範囲を超えると症状が出るため、食べた量が多ければ多いほど強い症状になる可能性がある、「少ない量で症状が出れば出るほど重症っぽい」ということになります。

「鶏卵は加熱によってアレルゲン性が低下する(弱くなる)」ことは、非常によく知られています。加熱によってアレルゲン性が劇的に変わるのは、鶏卵くらいです。つまり、鶏卵アレルギーでは、「タンパク質の量」と「加熱具合」の両方を考えないといけません。

ちなみに、魚卵と鶏卵、鶏肉と鶏卵、のタンパク質は異なるため、一緒に除去する必要はありません(鶏卵アレルギーの子が別件としてイクラアレルギーも持っているということはあります)

卵の成分

鶏卵のアレルゲンは卵白に存在するタンパク質によります。卵白のタンパク質には、54%を占める「オボアルブミン」、11%を占める「オボムコイド」、その他、リゾチーム(3.4%)、オボトランスフェリン(12%)などがあります。

鶏卵アレルギーで主に問題となるのは、オボアルブミンとオボムコイドです。生卵では、オボアルブミンはオボムコイドの5倍含まれております

12%含まれているオボトランスフェリンですが、最も加熱変性を受けやすく、分子量も大きめですので、あまりアレルゲンにはならないようです。

卵黄と卵白の成分は異なります。卵黄を食べて体にじんましんが出た場合は、卵黄に混入した微量の卵白成分によるアレルギーの可能性があり、かなり要注意(重症だと考えられます)です。

卵黄成分自体に反応して嘔吐や下痢を起こす「消化管アレルギー」(=新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症)という特殊なタイプのアレルギーもあります。通常のアレルギー=即時型=食べて1-2時間以内にじんましんや咳などが出るタイプとは異なり、嘔吐や下痢がが3-4時間(もう少し遅いケースもあり)で起こります

「消化管アレルギー(新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症)」については、こちらの僕のnoteの記事も参考にしてください↓


また、うずら卵は、鶏卵と80-90%似通っているため、要注意です。うずら卵の方がアレルゲン性が低いと言っている方も居ますが、「同等」と考えておくと良いでしょう。稀に、鶏卵は食べられるのにうずら卵で嘔吐下痢などの消化器症状を起こすお子さんが居ます。原因は卵白成分ではなくて、うずら卵の卵黄成分、アポリポタンパクが原因ではないかという報告があります。

鶏卵アレルギーのお子さんの中には、「オボアルブミンに反応しやすい子」「オボムコイドに反応しやすい子」「その両方に同じくらい反応する子」、など、いろいろなタイプのお子さんが居ます。

血液検査(特異的IgE検査)の項目には、「卵白」「卵黄」「オボムコイド」があり、オボアルブミンの項目はありません。卵白の成分量や臨床的な印象からは、「卵白」がおおよそオボアルブミンについてを反映していると考えられます。

ちなみに、卵アレルギーのお子さんにおいて、1/3の割合で、オボムコイド特異的IgE抗体が陰性となっているという報告があります。そうなると、おそらく卵アレルギーの1/3のお子さんが「よりオボアルブミンに反応」しており、2/3のお子さんが「オボアルブミンとオボムコイドの両方、または、よりオボムコイド」に反応していると考えられます。

(乳児では、卵アレルギーのお子さんであっても特異的IgEが陰性のことも少なくありません。また、一般的に、逆に、特異的IgEが陽性であっても食べられるお子さんも少なくありません)

加熱によりアレルゲン性が低下

鶏卵は加熱によりアレルゲン性が低下します。ただ、「加熱」といっても、いろんな方法があり、それに伴い、卵のアレルゲン性は変わります

オボアルブミンは60℃程度で凝固します。卵白成分の多くを占めるオボアルブミンが加熱によりアレルゲン性が大きく低下するため、鶏卵全体として、加熱によるアレルゲン性の低下が大きくなります。

オボムコイドは熱に安定的で、100℃で1分間加熱しても凝固しません。オボムコイドは消化酵素にも強く、また調理の影響も受けにくくなっています。オボムコイドは熱に強いのですが、加熱により全くアレルゲン性が低下しない訳ではなく、「アレルゲン性が低下しにくい」ということです。

例えば、ゆで卵だと、12分間加熱では、オボアルブミンは生卵の1/1万に低下、オボムコイドは1/8しか低下しません。「20分間加熱では、オボアルブミンは1/2万に低下、オボムコイドは1/16に低下」します。温泉卵は生卵の半分の強さではなくて、生卵と比べて91%もオボアルブミンが残っておりますので要注意です(オボムコイドは生卵の1/7程度です)

卵をしっかり加熱すれば食べられるのに、加熱が少し甘くなると症状が出るというお子さんは、よりオボアルブミンに反応していると考えられます。

ちなみに、ゆで卵を作った後、卵黄と卵白を一緒にしておくと、卵白のオボムコイドが卵黄側に浸透していきます。

過去の2つの含有量の報告を合わせて計算すると、直後に分離すれば極微量(卵黄1個で卵白0.01gレベル)ですが、1時間後だと直後の35倍(卵白0.5gレベル)、24時間後だと250倍(卵白3-4gレベル)になるようです。あくまで、計算上の量ですので、実際に食べる時にはご注意ください。また、「生分け卵黄への卵白の混入は卵白1g程度」であり、生分け卵黄をしっかり加熱して食べるという方法であれば、卵白1gレベルの摂取となります。

調理法による違い

もちろん、「加熱温度を上げるほど、加熱時間を長くするほど、よりアレルゲン性が低下」します

容積が大きい料理の場合、加熱時間が短いと、食材の中心温度が充分に上がらず、アレルゲン性が残りやすくなります。中心部までしっかり加熱出来るように加熱時間を長くすることをお勧めします。

また、同じ卵の使用量でも、調理法によっても、卵白のアレルゲン性は変わります。

水や油の熱伝達の効率により、「焼く」<「蒸す」<「揚げる」の順で、アレルゲン性が低下します(弱くなります)

焼き=オーブンで180℃で20分間、蒸す=蒸し器で13分間、揚げ=180℃で3.5分、と、加熱時間は「揚げ」が一番短いのにもかかわらず、アレルゲン性は一番低下します。

同様に、焼きハンバーグより、煮込みハンバーグの方がアレルゲン性は低下します。

さらに、料理の種類によっても変わります。例えば、しっかりと加熱調理した3種類の卵料理のアレルゲン性の比較のデータを見てみます。

生卵と比べて、通常の作成方法だと、「炒り卵では1/10」、「錦糸卵で1/100」、「ゆで卵では1/10000」、となります。

食事療法、経口免疫療法として、頻繁に卵を食べているお子さんも多いと思います。ただ、毎日ゆで卵を作るのは大変ですので、しっかり加熱した炒り卵・薄焼き卵が便利です。調理方法を工夫すれば、上記のようなアレルゲン性よりさらに低下させることが出来ます。特に薄焼き卵はしっかり薄くして焼くことが出来れば加熱が甘くなりにくいですし、「冷凍保存」も可能です(実は冷凍保存できるというのが一番のメリットでもあります)

*炒り卵は、まずはしっかり泡立て器で攪拌、「だま」にならないように、泡立て器でよくかき混ぜながら炒める、強火で2分間以上、細かいぱらぱらにすると炒めると、アレルゲン性はかなり低下します。

*同様に、薄焼き卵も、泡立て器でしっかり攪拌、均等に出来るだけ薄く広げ(クレープ級より薄いくらい、卵一個で20cm以上拡がります)、両面ともにしっかり火を通すと、かなりアレルゲン性は低下します。

また、炒り卵・薄焼き卵は全卵ですが、しっかり加熱すると水分がとんで軽くなりますので、全卵ながら炒り卵の方がゆで卵より軽くなります。おおよそ2/3程度の重さになり、炒り卵・薄焼き卵の0.8gが、ゆで卵の卵白1gレベルになります(全卵ながら炒り卵の方が重量あたり多くの卵白が含まれている)

ちなみに、「固茹で卵黄1個」を食べられないと、「卵白」「全卵」を食べてはいけないのか?とご質問頂くことが多いのですが、上記のようにしっかり加熱した全卵や加工品であれば、最初から食べてもトラブル無く食べ進められる可能性はあります。こちらもご参考にしてください↓


副材料にてアレルゲン性が変わる

オボムコイドは、小麦粉と一緒に調理すると、オボムコイドが小麦の成分と固く結合し溶けにくくなるため、アレルゲン性が大きく低下します。

つまり、計算上の加熱卵白の量の強さより弱くなることが多くなります。

小麦以外の副材料を使用している製品では、特に、「卵ボーロ」が要注意です。卵ボーロは卵白含有量はかなり少ないのですが、副材料として馬鈴薯でんぷんが使用されることが多く、その馬鈴薯でんぷんは小麦とは異なり、オボアルブミンの凝固を妨げます。つまり、「オボアルブミンのアレルゲン性を低下しにくくさせます」。ちなみに、卵ボーロの作成では加熱時間もそう長くありませんので、アレルゲン性が残りやすくなります。

*厳密な意味では異なりますが、イメージは、卵ボーロは、いわば「半熟状態」のようになっていてアレルゲン性が強いと思って頂くと良いです。

卵ボーロ1g(1-2個)とゆで卵1個を比べると、オボムコイドは、当然、含有卵白の量の多いゆで卵の方が250倍も多いのに対し、オボアルブミンは、卵ボーロの方が5倍多かったという報告があります。

そのため、「オボアルブミンに強く反応するお子さん」では、「ゆで卵1個が食べられていても、卵ボーロ1-2個で蕁麻疹などの症状が出る」ことがあります。オボムコイドに強く反応するお子さんであれば、卵ボーロは確かにタンパク質含有量が少なく、食べ始め、少しずつ食べ進める、というのには良い食品ではありますが、オボアルブミンの反応性が解らないのでお勧めしません。「卵ボーロで症状が出るなんて重症だね」なんてことになりがちです。

要注意な料理

✔️かき卵スープ、かき卵うどん、雑炊卵白は水で希釈すると凝固しにくくなる上に、水分が多い料理は100℃以上にはならず、凝固しにくくなります。また、このような料理では、ゆで卵のように10分間以上加熱することもありませんので、いわゆる「半熟になりがち」のため、要注意です。

✔️茶碗蒸し:かき卵と同様、水を加えると凝固しにくくなること、加熱温度は低いこと、から、アレルゲン性が残りやすくなります。市販の茶碗蒸しはアレルゲン性が低いことがあります。

✔️マヨネーズ:マヨネーズは低加熱のため生卵に準じて除去される指導が多いと思いますが、市販の大手のマヨネーズであれば、加熱卵1個レベル食べられれば、マヨネーズ10gを96%の卵アレルギーの子が食べられたという報告があります(症状が出た4%の子も軽い症状)。実際、多くの卵アレルギーのお子さんが、加熱卵1/2個以上食べられていれば、通常量(小さじ1杯程度)の市販の有名なマヨネーズであれば大丈夫となっております(自作のマヨネーズ、料理店のマヨネーズは生の状態で残りますので要注意です)

✔️電子レンジ:電子レンジ500Wで4分間では、オボアルブミンは生卵の数十分の1しか低下しておりません(12分加熱のゆで卵で1/1万)見た目には凝固しているように見えても、アレルゲン性は強いので、要注意です。温め直しには良いですが、調理にはお勧めしません。

*卵アレルギーの重症度により食べられる量は変わります。加熱の方法、加熱時間、副材料などでも大きく変わります。市販のものに関しては、製品間の差もあります。卵アレルギーと診断されているお子さんの卵の食べ進め方に関しては、主治医の先生とよくご相談してください

具体的な離乳食の進め方のコツにつきましては、こちらの記事も参考にしてください↓

鶏卵アレルギーとインフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンは、製造の過程で鶏卵を使用していますが、1回のワクチン接種あたりの卵白タンパクの混入は、わずか1〜数ng(ナノグラム)以下(=1gの10億分の1以下)と、非常に少ない量です。

通常、アレルギー症状を起こしてしまう食品中のタンパク質の量は、g〜mgの単位、重症なお子さんでもμg(マイクログラム)の単位で、インフルエンザワクチンに含まれている卵白の量は、食品の数千〜数千万分の1以下となります。

また、米国では、2017年に、「卵アレルギーのある方でもインフルエンザワクチンは通常通り接種出来る」と方針が変更され、通常の方と同様に接種されております。

*日本製のワクチンより、海外製のインフルエンザワクチンの方が混入卵白量は数倍〜数百倍も多くなっております。

ただし、超重症の卵アレルギーのお子さんでは、アレルギー体質として、インフルエンザワクチン中の卵タンパクではない他の成分に対して、アレルギー反応を起こす危険性はありますので、要注意ではあります。

*実際のインフルエンザワクチンの接種については、受診された病院の先生とよくご相談ください。


参考:
「乳幼児の食物アレルギー」伊藤節子 先生
「食物アレルギー 患者指導の実際」伊藤節子先生
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/58/11/58_KJ00005878719/_pdf

「食物アレルギーのすべて」伊藤浩明 先生

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