回想 第五章 182
第182回
「さっさとしな!」帽子はいらだちながら男たちを注意した。
男たちは、ク、ク、クと顔を真っ赤にして笑いをこらえながら、つま先を棺桶にしまいこむ事をあきらめ、釘でふたを閉じだした。そして棺はこまのついた台座に乗せられた。出棺の準備がととのうと、ふたりは帽子に報告を始めた。
「出棺の報告を…します。」男のひとりが、笑いをこらえて別の男をひじでつつきながら始めた。
「氏名…、詩人。」別の男もひじでつつき返しながら続けて言った。
「年齢八十四歳。」
「身長…184センチ、ヒ、ヒ。」
「死因、自殺。」
「首吊りによる窒息。」
「場所、自室。」
「推定死亡時刻、…午前六時ごろ。」
「窒息するまでの所要時間、およそ四時間。」
「自殺の原因、不明。」
「親族は…。」
「なし。フ、フ。」
「ええ」突然男は咳払いをして、あらたまった調子で話し出した。「代表する親族の方がいないので、ヒ、ヒ…、かわいそうな詩人さんのために追悼の辞を述べさせてもらいます。」
「詩人さんは、生前とても信仰心のあつい人でした。」
「でも唯一の問題は、背が高すぎたので、死後棺桶に納まりませんでした…。」
ここでふたりはまたこらえきれなくなって、吹き出してしまった。
「以上!」
「以上!」
報告を終えるとふたりは、棺桶を乗せた台座についている紐を引いて集会所から出て行った。引かれていく棺桶から十本の長くて白い足の指の裏がはみ出しているのが、離れたところからでも目立って見えた。駅長と坊主とうそつきは、施設の建物から遠く引かれていく詩人の棺桶を、体調がすぐれず昼食をとらなかった駅長の部屋からながめていた。男たちふたりはまだクスクスとしのび笑いながら棺桶を引いている。他に付き添う者はだれもいない。
「最後まで気の毒なひとだな。」坊主がはみ出ている詩人のつま先を見ながら、同情するようにため息をついた。