【読書感想文】「なぜふつうに食べられないのか」磯野真穂 著
夕食を終えて子供がyoutubeに夢中になってる間、キッチンに隠れて1人チョコモナカジャンボを食べる。
口いっぱいに広がる冷たくて甘い味。あーこの瞬間のために今日頑張った!ご褒美だ!!という日が週に2・3日ある。
でも食べ終わった後、アイスの袋を見ると303kcalの文字。
303kcalはけっこうだな。明日の朝走ったら相殺されるかな。でも昨日も食べた。体重、コレステロール、BMI…色んな言葉が頭にぷかぷかと浮かんではかき消す。この瞬間、チョコモナカジャンボも私の体も実態のない数値に置き換わる。食べなきゃよかった…かも。
自分が食べたくて食べたのに、この罪悪感っていったい何?
この本は、あることがきっかけで、普通に食べられなくなった6人の女性への丹念な取材をもとに構成されている。その取材から、普通に食べられないとはどういう状態なのか、拒食や過食が起こる時、彼女たちの中でどのようなことが起こっているのかを論じていく。
6人の女性が食べられなくなっていく体験談は、正直読んでいてとてもつらい。
きっかけは、心無い一言だったり親や友人との関係だったり様々だが、皆に受け入れてもらいたい、認めてもらいたいと思って始めたダイエットのはずが、拒食や過食がやめられなくなり、だれかと一緒に食事を取ることもできず、どんどん孤独になっていく。
治療しても入院しても時間が経つとまた始めてしまう。なんでやめられないんだろう?と歯がゆくて胸が苦しくなる。
でも彼女たちが持っている感覚は、私にもあるあると思うことばかりだ。
高カロリーのアイスを食べた時の高揚感と罪悪感。帳消しにしてしまいたい感覚。
痩せすぎはよくないと言われても、メディアには確実に自分より痩せた人が出ているという現実。
健康的な体は〇㎏、BMIは〇%、体脂肪は〇%など体はすべて数値化され、それに当てはまらない人は自己管理ができていないような気にさせられる。
痩せてるねと言われた褒め言葉だと受け取るだろうし、なんで太らないの?とか聞かれてみたい。
文化人類学者の著者が、丁寧な取材から出した「食の本質」「普通に食べられるとは?」の答えが面白くて痺れる。
食べて生きていくことに無関係な人はいない。そして食べることも生きることも思ったよりずっと複雑だ。
「ふつうに食べられない人」は「病気のあの人」ではなく、私たちとどこまでも地続きであるということに気づくことができた一冊だった。
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