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【飲食店向け】大家から立退きを求められたときのために知っておくべきこと【2020/6/5更新】

 新型コロナウイルスの感染拡大は収束に向かい始めたようにも感じられますが、飲食店をはじめとする多くのお店様が未曾有の経営打撃を受け、その影響は今後も長期間継続することが予想されます。
 経営者の皆様は様々な困難に立ち向かっていくことになりますが、そのひとつとして、貸主(大家)からの立退き要求に備える必要があります。
 借主の立場で立退きにどう向き合うべきか、まとめました。
【2020/6/5更新】
 賃貸借契約について法務省の公式見解が発表されました。概ね、ここに書いた内容のとおりです。

1 立退きとは

 立退きとは、貸主が主体となって、賃貸借契約を終了し、借主に物件から出て行ってもらうことを意味します。
 よくあるケースでは、老朽化したビルを建て替えたり、地域で大規模な再開発をするために、長年続いたお店を閉めてもらうようなことがあります。
 
 貸主が立退きを実現するには、通常、相応の(場合によっては莫大な)費用が掛かります。
 借主は物件を借り続けることで生計を立てていますから、法律(借地借家法という法律など)によって強く保護されており、貸主の都合で簡単には契約を終了できないことになっているからです。

 ところが、新型コロナウイルスの影響で経営難に陥った借主に対しては、比較的簡単に立退きを実現しやすくなるので、この機を逃すまいと立退きに向けて動き出している貸主もいるようです。


2 立退きの方法

 まずは、貸主がどのような方法で立退きを実現しようとするかについて、知っておきましょう。
 貸主が賃貸借契約を終了するためには、大きく3つの方法があります。
 ①合意による終了②債務不履行解除③更新拒絶です。

(1)合意による終了
 貸主と借主が合意すれば、契約はいつでも、どのような条件でも終了することができます。
 一般的な立退き交渉は、一定の立退料の支払いで借主を納得させて、契約を終了することを目指します。
 借主が納得するような金額を支払わなければならないことが多いので、場合によっては莫大な費用が掛かります。
 逆に言えば、借主がどうしても納得してくれないとか、立退料を用意するのが難しいということならば、貸主は別の方法を考えるほかありません。

(2)債務不履行解除
 債務不履行とは契約違反、解除とは契約を一方的に終了させることを意味します。
 つまり、債務不履行解除とは、契約違反を理由として、契約を一方的に終了させることです。

 新型コロナウイルスの影響でお店の売上が落ち、賃料(家賃)の支払が滞ってしまった場合も債務不履行にあたりますから、貸主としては、債務不履行解除しやすい状況になっているといえます。

 しかし、貸主が契約を解除するためには、「信頼関係破壊の法理」という、高いハードルがあります。 
 賃料を1か月分滞納したくらいでは、契約は解除できないことになっています。平時であっても3か月分以上などと言われていますが、事情によって異なります。
 新型コロナウイルスの影響でお店の売上が落ちている状況は重く考慮されるはずですので、相当長期間にわたって賃料の支払いが滞ってしまったとしても、そう簡単に契約は解除されないと考えて大丈夫です
※前例が少ないので一律の基準をお示しするのは難しいです。賃料滞納が長期にわたってしまう前に、弁護士に相談してください。

(3)更新拒絶
 契約期間(2年とか3年のことが多いです。)が満了したら、通常は契約を更新します。
 しかし、立退きを要求したい貸主は、契約の更新を拒絶する(断る)ことになります。
 契約書だけみると、契約更新を拒絶されれば契約は終了してしまい、借主は出ていかなければならないように書いてあるはずです。

 しかし、実は、契約書の記載がどうであれ、借地借家法という法律により、貸主が更新を拒絶しても、契約は原則として勝手に更新されることになっています。これを「法定更新」といいます(※定期建物賃貸借契約の場合は異なりますが、ここでは普通建物賃貸借契約を前提としています。)。
 
 貸主が法定更新を拒絶するには、「正当事由」という高いハードルを越えなければなりません。
 正当事由とは、例えば貸主自身がその建物を使わなければならない事情があるとか、建物の老朽化が著しいといった事情を総合的に考慮して判断されますが、現実にお店を営業しているような建物で貸主が正当事由を満たすことはかなり難しいです
※定期建物賃貸借契約の場合は異なりますが、ここでは普通建物賃貸借契約を前提としています。

(4)新型コロナウイルスの影響
 結局、どの方法を選んだとしても、貸主が立退きを実現するのは本来かなり大変です。
 立退料を払うにせよ、弁護士を雇って裁判するにせよ、かなりの費用が掛かります(しかも、弁護士を雇ったからといって立退きを実現できるかどうかは分かりません。)。
 しかし、新型コロナウイルスの影響でお店様が弱っているこのタイミングなら、安価な立退料を提供したり、あえて裁判を起こして疲弊させたりすることで、貸主にとって平時よりも簡単に立退きを実現できます。
 そのため、今後、立退きが持ち掛けられる可能性が高くなってきます。


3 立退きを求められたら

(1)まずは経営判断
 実際に立退きを求められたら、まずは
 ・条件によって立退きに応じる
 ・絶対に立退きに応じない

どちらの経営判断をするか、よく考えてください。
 莫大な立退料を得られるのであれば結論は違ってくるかもしれませんが、とりあえず移転と内装費程度(目先の損失は出ない程度)しか得られないことを想定して検討してみてください。

 貸主も同じことを検討しているはずです。つまり
 ・何が何でも立退きを実現する
 ・難しそうであれば諦める

どちらかの思惑があるはずです。
 貸主がそれほど本気ではなく、あわよくばという気持ちで打診してきているくらいであれば、きっぱり断ったり、あるいは条件を聞いてみたりしても良いと思います。

(2)弁護士に相談
 貸主が正式に立退きを求めてきた場合、すぐに弁護士に相談してください。裁判を視野にいれた難しい交渉になりますし、建物やお店の状況によって見通しが異なり、対応が変わってきます。
 専門性の高い弁護士に、かなり先の見通しまで具体的な説明を受けてみてください
 
 もし、条件によって立退きに応じるという判断をされるのであれば、弁護士に交渉を依頼したほうが良いと思います。弁護士費用は掛かりますが、それを上回るメリットがあることが多いです。
 なお、弁護士費用は、単発の相談に要する法律相談料のほかに、受任時に生じる着手金と、解決時に生じる報酬金に大別されます。
 弁護士ごとに報酬基準が設定されていますが、この状況ですから、着手金を大きく圧縮して引き受けてくれる弁護士も多いはずです(例えば着手金ゼロの完全成功報酬制。)。
 体調が悪いときは早めに病院に行くのと同じように、法律問題が起きたら弁護士に気軽に相談してみるほうが良い結果につながります。


4 借主からの解約は難しくない

(1)借主は貸主とは違う
 ここまでは貸主が主体となって行う立退きについて説明しましたが、逆に、借主のほうから契約を終了する場合はどうでしょうか。
 実は、借主が賃貸借契約を終了するのは、貸主と比べてかなり簡単です
 お店を閉めたら生計の道を閉ざされる借主と違って、貸主は別の借主を探せば良いからです。
 
 
(2)中途解約の条文を確認する
 まずは、賃貸借契約書に「中途解約」について定めた条文があるかどうか、確認してください。
 「借主が本契約を解約するときは、3か月前までに通知しなければならない。」などと規定されていることが多いです。
 短期解約の違約金などが定められている可能性もありますが、一般的には、借主からの解約が制限されていないことが多いです
 もし契約書に「中途解約」について定めた条文がないときは、契約期間の途中で解約するためは、貸主と合意しなければなりません。
 ただし、貸主が中途解約に応じてくれない場合でも、契約期間が満了するタイミングに合わせて「更新しない」という選択が可能です。貸主と違って正当事由も必要ありません
 
(3)解約する条件を正確に把握する
 今より条件の良い物件に移転するとか、展開店舗を縮小することを検討する場合には、まず借主からの解約が「いつ」「どのような条件で」できるのかを、正確に把握しておく必要があります。
 タイミングを逃してしまうと、また2年とか3年の間、同じ契約に縛られてしまう可能性がありますので、注意してください。
 
 また、退去に際しては、貸主との間で物件の原状回復で揉めることが多いです。想定外の費用が掛かることもありますから、きちんと話し合って進めるようにしてください。


5 閉店は「負け」でも「終わり」でもない

(1)再起不能を回避する
 最後にどうしてもお伝えしたいことがあります。
 この記事は、無理をしてまで営業を継続することをお勧めするものではありません。
 残念ながら事業存続の見込みがないと判断されるのであれば、断腸の思いで、やり直せるうちに早期撤退するのも選択肢の一つだと思います
 
 この状況で回避すべきは「再起不能」です。
 そして、最もあってはならないことは「閉店」でも「自己破産」でもありません。究極の「再起不能」は、命を失うことです。
 大袈裟なようですが、今後、残念ながら実際に起こってくることだと思います。
 真面目な経営者ほど、従業員やお客様の期待に応えようとして、誰にも相談せず、無理をするようです。「閉店」を何とか回避しようと限界まで働き、あらゆる手を尽くされるかもしれません。
 その努力が実らなかったとき、追い込まれてしまうのが何より心配です。

(2)閉店の選択肢を持つ 
 限界まで絞り尽くしてからの閉店と、先を見越して体力を温存しての閉店とでは、再開のチャンスに動き出すスピードは全然違ってきます。
 自主的な閉店の選択肢を持ってください
 自分のお店の状態を冷静に、客観的に見てくれる誰かに、早めに相談してください

(3)おわりに
 新型コロナウイルス対策下で、主として飲食店の皆様に向けて、弁護マン(弁護士)として取り組んだ記事は第4弾になりました。

 今回の記事は、貸主から立退きを要求された際、法律や契約のことがよく分からない状態で、不利な条件で立退きに応じてしまわないよう、経営者として最低限の知識を頭にいれておいていただくために執筆したものです。

 記事の性質上、どうしても貸主が悪者のように見えてしまうかもしれませんが、そうとは限りません。実際は借主の窮状を思いやり、共存共栄のために十分な配慮をしてくれる貸主も多くいます。
 特に、賃料の減免に応じてくれた貸主には、落ち着いたら改めてお礼をすると良いかもしれません。

(4)メール相談
 この記事の内容に関して、メールでの簡単なご相談に応じます。
 (1)店舗の名称
 (2)店舗の所在地
 (3)相談者氏名
 (4)相談者住所
 (5)相談者電話番号
 (6)賃貸人名称(氏名)※利益相反の確認のため必要です。
を明記して、専用メールアドレス(tsukijibengoshi@gmail.com)までご連絡ください。
 相談件数が多すぎる場合、必要事項が不足している場合、質問内容が不明確な場合、質問内容が記事の内容と関連しない場合などには、こちらから特に連絡をすることなくご質問に対応できない場合がありますことをあらかじめご承知おきください。
 なお、相談対応は予告なく終了する可能性があります。


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