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『80年代、六本木暗闇坂下』

下町と山の手という区分がある。
東京の西側を下町、
山手線の外の西側に山の手という考えもあることはある。
でも、下町は東京のどこにでもある。

そのひとつが麻布十番だった。
サンダル履きか自転車でよくふらふらしていた。
テレビ朝日の古い社屋の裏の、
クーラーの蒸気が顔に当たりそうなところに、
私は住んでいた。

十番の私と同世代の小売店の店主たちも、
地上げ屋の攻撃から逃れられず、
たとえば、
たまプラーザあたりに隠居でもしようかという時代だった。
つぎつぎに自前の歯は抜けて、ビルになっていった。
私もたまプラよりさらに郊外に移転した。

数年経ったある日、
ひさしぶりに六本木がわから暗闇坂に向かってみた。
すでに無かった。
工事中を示す白い大きな天幕があたり一面を覆いかくしていた。
ダムの底に沈んだ集落を思った。
いま六本木ヒルズが建っている。

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