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ヒロイン女優になる為には美人でないとダメなのか?

新人女優、または女優志望者をこれからマネージメントやプロモーションする立場になって考えてみたい。

まず、女優といっても舞台女優ではない。月9ドラマやメジャー映画で「ヒロイン」としてキャスティングされる女優のこと、すなわち「アイドル女優」である。なお、事務所の営業力とかタレント本人のコネクションとかそういう話は今回は置いておく。極論、金を積めば誰だって自分が主役の映画を作れるのだ。今回はタレント本人の資質の話である。

女優と言えばまず演技であるが、メジャー作品のヒロインすなわちアイドル女優ともなれば、当然、演技力だけでなく、というよりも演技力以上に求められる要素がいくつかある。

●ビジュアル。アイドルとしても大人気になれるほどの美人であること。

●イメージ。大企業がスポンサーにつくのであるから、好感度やイメージは何より大切。

●知名度、人気。上に同じくであるが、視聴率や観客動員、すなわちスポンサーの利益を稼げる人気者でないと企業は高い広告料を払ってはくれない。

さて、こう並べてみると、芸能界でよくあるいつもの話にぶつかる。すなわち「売れる(女優になる)ためにはグラビアアイドルをしないといけないのか?」である。

これは正解であるともないとも言いにくい問題である。必須かと言われれば必須ではない、グラビア経験のない女優だっているからである。しかし、間違いであるとも言えない。適当に何人か有名な主役級の女優さんを思い浮かべていただきたい。ほぼ確実にその女優さんは新人、下積み時代にグラビア、アイドル経験がある「アイドル女優」のはずである。

アイドルから女優に転身した場合、グラビアと言ってもさほどでもない場合もある。しかし、いわゆる「アイドル女優」でグラビア経験が皆無、という人はほぼいないだろう。演技派のイメージが定着している女優さんだって、若かりし頃は水着になって雑誌に載ったり、撮影会をしてたりするのだ。

女優として成功した後は、経歴からそういうのを消してしまうこと、いわゆる黒歴史化もよくある。グラビアを本人が望ましいと思ってなかったり「イメージ」を考えた上でのことである。

グラビア活動そのもの是非や好き嫌いなどは別の話として、女優になるためにグラビア活動をやらないといけないというのは、先に挙げた要素のうち、知名度の部分に関わってくるのである。ようは、グラビア活動やアイドル活動で売れて知名度を上げ、人気者にならないとイメージ以前にどうしようもないのである。どんなに美人で清楚で知的で清純派であっても「売れない女優」に大役は来ない。よって、少なくともアイドル女優になるためにグラビアが必須かどうかという話は、限りなく必須と考えるのが正解と言える。

これと別ルートで女優になる人もいる。舞台からのし上がる系の演技派女優である。これはもう演技力一本で勝負するのだから、卓越した演技力がないとどうしようもない。また、舞台での演技と映像での演技は違うということも要注意である。

ただ、この枠で女優になる人は圧倒的に脇役が多い。ヒロインのライバル役やサブヒロインなど、美味しい役どころを取れる人ももちろんいる(名脇役にはビジュアルよりも演技力が大切なのはご存知の通り)が、そういう人はむしろそちらの役の方が望んでいたり、当たり役になったりするので、メインヒロイン役をしたいアイドル女優とは枠そのものが違うのである。

では、舞台女優で演技力だけでなく抜群のビジュアル(人気)があれはどうだろう。例えば宝塚出身の女優さんは、アイドル女優枠とは別の舞台女優として主役になれる可能性が高い。ただ、アイドル女優がグラビアアイドル時代にやっていた下積みを、宝塚歌劇団でしていた、ということである。つまり、舞台女優でもアイドルでもどちらでも売れていたであろう人なら、好きな方をやればいいという気がする。(宝塚歌劇団の活動がグラビアアイドルと同じである、という話ではない。どんな大女優も成功するまでにスキルアップの努力をし、知名度や人気やイメージを作り上げてきた、ということである)

話を戻すと、結局、アイドルから女優を目指そうが舞台から目指そうが、メインヒロイン女優になるためにはビジュアル(人気)が抜群でないと難しいというのが結論になる。

アイドル女優は、演技をする役者であると同時に人気者のアイドルとしての役割も求められるのだから、両方できないといけないのである。

美人でも売れないアイドルはたくさんいる。ただ、売れてるアイドルは大抵、美人である。つまり、美人でないとヒロイン女優になれないのか? という問いはそのまま、美人でないとメジャーアイドルになれないのか? という問いと同じなのである。

では、想定している新人女優ないし女優志望者のビジュアルはどうであろうか。

文句なしに美人なのだったら、アイドルを経て、人気や知名度を高めて、それを武器に女優に挑戦するというのが一番オーソドックスである。これが正解だ。

「演技は好きです!でもアイドル活動はしたくありません!」

そう言うのなら、舞台や映像作品の世界で勝負するのもいいだろう。狭き門にはなるが、やれるだけの素質があって、自分の意思で挑むのであればそれでいいと思う。

でも、残念ながらそこまで万人受けする美人ではない場合はどうしたらよいのだろうか。事務所やプロデューサーは、どうアドバイスしてプロモーションすればいいのだろうか。

「お前はそんなに美人じゃないから、主役は無理だ。何度もそう言われてきたけど、女優の夢を諦めたくないんです」

こんな相談を受けたことがある。

「無理なもんは無理」これも正解だと思う。需要がないものになりたいといくら言ったところで、それはワガママでしかない。

では、諦めるしかないのだろうか? 美人でなければ何もできることはないのだろうか?

そんなことはない。需要がなければ自分で作ればいいのである。

フランスを代表する大女優であるジャンヌ・モローという人の逸話が有名である。

売春婦やヌードなど官能的な役柄を積極的にこなし、プライベートでもスキャンダルをものともしない自由恋愛で名を馳せたフランスの国民的大女優である。と、聞くと、ナイスバディなブロンド美女を想像しがちであるが、彼女のビジュアルは「モデルのように背が高くもスレンダーでもない、歯並びも悪い、顔のパーツも整っていない」と散々な評価をされていたし、本人もそれを認めていた。

映画のオーデションで「映像的に美しくないから君は映画には向いていない」と言われた彼女は「だったら、自分のやり方でやるしかないわね」と呟いたという逸話がある。そして実際に「映像的に美しくない女優が映画で成功するやり方」を実現したのである。

「ビジュアルが美しくないと無理」というのは、ビジュアルが美しくないと無理なやり方でやるから無理なのであって、違うやり方でやれば無理だとは限らない、というよく考えたら当たり前の示唆を与えてくれる。しかし「ビジュアルが美しくないと無理」なやり方かしら知らず、そのやり方しかないという先入観に囚われてしまっている僕達は、無理だと思い込んでしまうのである。

需要がなければ作ればいいし、芸能界で成功するやり方には「王道はあっても正解はない」のである、というのは最初にマネージャーになった事務所の先輩に教えてもらったことである。

他の人が成功したやり方を自分もやって同じように成功するとは限らない、それが正解とは限らないし、他の誰もやっていない(成功していない)事でも、自分がやって成功すればそれが正解になる。

他人のやり方(事務所とかプロデューサーとか監督とか)では認めてもらえない、そのやり方では自分はできない、と思うなら、違うやり方で自分でやればよい。少なくとも違うやり方でやってはいけない、なんてことはない。そんなやり方では絶対にうまくいくはずない、と言われたことが、実はそのうまくいくはずないという考えの方が先入観で間違っていたということもある。それが芸能界の面白いところだと思う。他人にそのやり方は邪道だ、正しいやり方じゃない、と言われても、それはその人にとって「正しくない」のであって、僕にとっては正しいやり方なのかもしれない。正しくないと思う人はそのやり方をしなければよいだけの話である。

美人でなくてもヒロイン女優になれるのかと問われたら、美人じゃなくてもなれるやり方でやればいいのである。ただし、どんなやり方が正解はその人それぞれだし、その人にとっての正解は自分で見つけて、自分でやるしかない。

気を付けないといけないのは、他人に正解を求めたり、まして「美人でなくても君ならなれるよ」と自分を認めてくれる人を探していては絶対に無理だと思う。色んな事務所を渡り歩いたり、色んな人に「私をプロモーションしてくれませんか?」と言ってくる人にはこのタイプが多い。できるだけ自分を高く買ってくれる人を探しているだけで、自分自身の商品価値は全く変わらないからである。

もう一つ、ジャンヌ・モローは18歳でフランス演劇界で最高峰の国立演劇学校コンセルヴァトワールに合格し、その後すぐ最年少女優としてアヴィニヨン・フェスティバルの舞台に立った才能をもっていた、ということも覚えておかなくてはいけないだろう。





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