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ラグジュアリーストリート系はなぜ(5年程前)あれだけ流行ったのか

ラグストの旗手だった三代目

J「こないだねえ、

三代目 J SOUL BROTHERS のぉ、NAOTOくん、おるやん?

番組で一緒なってぇ、ライブ呼んでくれてん。

ほで当日ね、18時開演やからまあ〜、俺家近いやん。あの〜代々木体育館。
なんぼ混む言うても1時間以上はかかれへんやろ思てぇ、念の為やで? めっちゃくちゃ念の為と思てやで?

15時に家出てん。」

K「はっや!!!

なんぼ慎重やねん! どうしたんすか兄さん?!

15年前は、ルミネで出番の1分前にエレベーターから出てきて、その足で舞台あがって、新宿中をドッカンドッカン言わせてたんちゃいますのあんた?!

いやどんどんダサなっていきますわ〜。ホンマやめてくださいよぉ」

J「まあね〜、時代は流れるといいますか。いやそれはええねん(笑)

ほんでなあ、

〜中略〜

で代々木体育館見えてくるやん。ほんならぁ、俺の目の前からぁ、ブゥワ〜〜〜〜ッ言うてぇ、ファンが並んでんねん!

これマジで2時間ぐらいかかるんちゃうん? 思てぇ、俺一応関係者席とってもろてますからぁ、ホンマこんなん言うの申し訳ないですけどぉ、列の横抜けて関係者入り口向かうんすよ。

ほんなら三代目J SOUL BROTHERS のファンてどんな感じか知ってるぅ?

みっっっっんなやで? みっっっんな臣くん。登坂広臣くんのカッコしてんねん!」

K「ホンマですか? そうなんすね〜、いや今すごいですからねえ、三代目」

J「おん。三代目の後継者がめっちゃいんねん。

…あぁの〜、“二代目”三代目J SOUL BROTHERS がいっぱいおったわ」

K「やかましいわ! なんやそれ! しょーもない」

と言う、俺の大好きな二人がそんな話をそんな風にしていたかは知らないんだけど、一時期ファッショナブル界隈を席巻していた三代目J SOUL BROTHERS 憧れ勢が隆盛を誇っていたのがまあ短く見積もって3、4年前。

東京の盛り場では、流石にあまり見なくなってきた。

なぜラグジュアリーストリートが流行したか

OFF-WHITEのフーディ、Fear of Godのクラッシュスキニーやadidasのトラックパンツ、YEEZY BOOST。などをテンプレートに、多少のカスタマイズあり。

三代目やそのファンの“二代目”三代目くんたちがこぞって取り入れたのは。ラグジュアリーストリート(略してラグスト)などと呼ばれるストリート系の亜流だ。

ファッション界において、ラグジュアリーストリート系は間違いなく一時代を席巻した。

個人的には、ラグストがここまで隆盛を誇った理由は、以下の3つの特徴があったからだと拝察申し上げている。

すなわち、「親しみやすさ」、「ブランド明確性」、「所属(カテゴライズ)欲求」である。

では、そういった3つの特徴が、なぜラグジュアリーストリートを人気たらしめたのか独断と偏見に基づいて考察してみたい。

一つ目。まずは、“意外な”「親しみやすさ」。

ファッションの系統を表す言葉に明確な定義はいつも存在せず、かなりの割合で着る人と見る人の価値観やリテラシーに依存する。

しかし、ラグジュアリーストリート系の上位レイヤーであるストリート系は、割にリテラシーの低い人であってもある程度認知しやすい系統だ。

なぜなら、ストリート系ファッションと親和性の高いアディダスやナイキを始めとしたスポーツブランドが、ファッションインテリ(というとインテリを気取ったアホのようだが、ファッション感度が高い人と勝手に定義する)でない人にも広く知られているからだ。

加えて、ストリート系と定義されやすいアイテム自体にもスポーツウェアが多く、フーディ(パーカー)やトラックパンツ(ジャージパンツ)、スニーカーなどは象徴的であり、それらは多くの人が頻回に身につけた経験のあるものだ。

そもそもストリート系ファッションにはスポーツユニフォームを取り入れたコーデなどもあり、スポーツ自体がストリート系と圧倒的に親和性の高いジャンルと言える。

他の系統、例えばモードやトラッドなどと比べてコーディネート面でも簡単なので、ファッション初心者にとって着用の抵抗感が少ない。

つまりストリート系ブランドやウェアは、誰もが一度は手に取ったり身につけた経験があるため、他のジャンルと比較して着用者にとっての「親しみやすさ」の面で圧倒的に優位だった。


二つ目。「ブランド明確性」。

ストリートブランドといえば、ストリートの王者、Supremeを筆頭に、新規参入組のOFF-WHITEやVETEMENTSなども共通して持っている特徴が、“強烈なわかりやすさ”。

ベーシックなストリートウェアに、ロゴをドーン! 特徴的なディティールをバーン! お馴染みのプリントをバチコーン!なブランドが多く、あるブランドを身につけていることを周囲の人々に直球でアピールできる。

とまあ、この点は、インスタ映えとの相性と絡めて散々指摘されている。

自分が付け加えたいのは、上で話した「親しみやすさ」という入り口から入ったユーザーを、個性の欲望に駆り立てるブランド側の巧みさだ。

ファッションを個性や差別化の発露の道具と定義するなら、親しみやすさは没個性と同義語だ。

では、親しみやすいアイテムであるパーカーやジャージからファッションに目覚めたユーザーが、個性や差別化を求めるようになったらどこに活路を見出すか。

「ブランドの明確さ」である。

服装に気を使い始めることの動機は、大概が「1、他人に遅れを取りたくない」あるいは、「2、他人に秀でて良く見られたい」のどちらかだろう。

このうち2の気持ちが出てくると、ブランドが「お待ちしておりました」といってほくそ笑みながらささやきかけてくる。

この情報過多、インプット偏重の時代、ファッションにばかり脳みそを使っていられないのが現代人だ。

まして、長くファッションに興味を持って沢山の失敗を繰り返してきた世代の嫉妬を尻目に、若者はテクノロジーを駆使して一足飛びに正解コーデやブランドに辿り着いてしまう。

生地の産地や、歴史が育んだディティールについての小難しい話を聞いてブランドのストーリーを自分に取り込み、それを自分なりに組み替えて表現する余裕などない。

となるとやはり、「わかりやすい」正解を実践することでオシャレな人と印象付けだけしちゃって、tinderで知り合った女と一緒にホテルでネトフリ見たりなんかした方が有意義なのである。

ブランド明確性の高いストリート系の細分化レイヤーであるラグジュアリーストリートは、「ラグジュアリー」というぐらいだから、着る人と金のイメージを直接的に結びつけて、ブランド明確性をより強固なものにする。


三つ目。所属欲求。或いは、自分が何者かを定義してくれる服

最後は所属欲求という切り口。

これはまあ正直なところどんなファッションにも言えることだし、特に若い世代の服の選び方は、これが動機の7割ぐらい(俺調べ)を占めていたりする。

ファッションに限らず、思春期を終えて大人になっていく過程の人間は、自分が何者なのか、自分は人や社会にどんな影響を及ぼす人間なのか、ということがとにかく気になる時期だと思う。

「そりゃあんたら世代の価値観だろ。おっさん」と言われると「おどれナメとったらえらいど」と北海道出身なのに関西弁でキレてしまうが、
こんだけSNSでブランディングだとかYouTuberだとかinstagramerだとか半年でtwitterフォロワー1万人獲得した方法だとか言ってるネットメディアの中核を担う世代なんだからそう思われても無理もない。

まあそれはいいけど、20歳前後とかそのあたりの年齢になると自分を演出する奴が目立ってくるので、ある程度誰にでもそんなことを頑張ってみる時期がくる。

そこでファッションに興味のある奴らが実践するのが、服の「系統」による自己のカテゴライズだ。

例えば、全身Yohji Yamamotoを着てみてアーティストぶったり。(落合陽一は本当のアーティストだが演出でヨウジを着ている面は多分にあるだろう)

反社傘下のサパークラブを経営していそうな人が、大抵ツーブロックでピチピチの紺ジャケットに白パンツ、裸足でビットローファーにサブマリーナなのは堅気を威嚇するためだと思う。怖い。あとなぜか数珠みたいなブレスレットをしている人が一定数いる。

ではラグジュアリーストリートで演出できる所属や自己の定義とはなんだろうか。

それはもう確実に自分がイケてる側の人間だとアピールできることだ。

だって合理的に考えれば自分をイケてない側だと思っている人は絶対ああいいう格好をしないのであって。ジャスティン・ビーバーとか三代目がしてる格好を真似しないのであって。

しかし、世界の陽気な人々から見て、日本人というのは根暗と言わざるを得ない。

たまにツイッターなどで流れてくる、電車内で音楽に合わせてみんなが踊り出すみたいなことは日本人だけではまず起こらないし、俺が昔バイトしていたアイリッシュパブでは、閉店間際になると Oasis の Don't look back in anger が流れるのだが、客の外人比率が高い時にはなぜか大合唱のうちに閉店する。(あれは謎の時間だったが結構楽しかった)

やんちゃなボーイズ&ガールズでも、全く知らない人間に囲まれ、なおかつ騒ぐ場所と定義されていない場所や場面では、割に大人しくなるのが日本人の基本的性質だと言える。

そういう点から言って、日本ではいわゆる“パリピ”なる人種は希少種で、人からパリピと認定されている人はそれだけである種のプレゼンスを獲得できていることになる。

これらを鑑みるに、自分がもう絶体にイケてる人種が着れる服を着れる人間だということを他人にアピールできれば、恋愛市場なり友人同士でのマウンティング合戦なりで、優位に立てる可能性が結構高いのである。


パリピぶることができ、ブランドで金持ちアピールでき、なおかつ初心者にも意外に親しみやすい

これが、ラグジュアリーストリートがブームを形成した理由の正体である。

俺が昔アパレルのセカンドハンド店で働いてきたとき、おっそろしく声が小さく根暗な奴(顔は綺麗だった)が、まさに直球なラグストコーデで毎日出勤していた。ちなみに昔はギャル男だったらしい。

マジで根暗で、主体性というものが一切なく、あちらから話しかけてくることがないレベルだった。

しかし、ある日俺はそいつと帰りの電車でたまたま二人きりになって少々会話すると、「tinder で女食いまくってんすよ俺www」的な話を急にしてきた。

俺は、純粋に羨ましいな。死ねばいいのにな。と思い、やがて電車を降りて、腰を屈め、卑屈な表情でトボトボ帰った。

“二代目”三代目J SOUL BROTHERS の未来に暗雲あれ!!


このロクでもなくやはりロクでもない世界の目を瞑ってはいけない部分を目を見開いて見た結果を記してゆきます。