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今、フィリピンでキチママと暮らしてます。(第二期)(11)

スコーターエリア

フィリピンにはSquatter(スコーター)とよぼれるスラムがある。

コリアンタウンにはこのスコーターエリアが数か所点在していて、キチママの叔母が住んでいたため何度か行く機会があったが、私はこのエリアが大嫌いだった。

その理由として、この場所が不衛生極まりないからだ。

せまい路地を所狭しと人が密集して暮らしていて、至る所にゴミがガラスの破片が散乱しているし、糞尿を垂れ流しているのか、下水の鼻にツンとくるような臭い匂いがあたり一面に立ち込めてそれが家の中にも入ってくる。

ゴキブリ、ネズミが至る所にいて、そんなところで生活している野良犬、野良猫は肌がただれて気持ち悪い。

2~3歳くらいの子供が裸足で歩いているすぐ後ろをハンガーを持った母親が見張っている。何か悪いことをしようとするとパシッと手に持ったハンガーで子供の太ももの当たりを叩いているのをよく見かける。


ここに住んでいるほとんどの大人は仕事をしていないが、男たちは朝から酒を飲んで闘鶏をやって、女は路地に集まっておしゃべりをしていたり、路肩に座ってシラミ取りをしている。

若い女性は体を売って仕事をしている人が多く、夜な夜な化粧をして、旦那さんのバイクで見送られコリアンタウンやフィールズのお店や路上で売春をしている。

ここにいる子供たちは毎日同じ服をきて体も洗っていないような匂いがするし、裸足で走り回って道端に座り込んだり、「プニエータ」、「プータンイナモ」といったフィリピンで人前でぜったいに言ってはいけない悪い言葉を頻繁に使っているのを耳にする。


キチママは17歳でボホール島から出てきてからずっと叔母が住んでいるこのスコーターエリアに住んでいて、今までいっしょに暮らしてきて何度か来たことがあるが、正直言ってこの場所に長居したくないと思って避けてきたが、この場所に現在生後5カ月になる息子と4歳の娘が暮らしている。


キチママが引っ越してきた翌日、私は子供たちの様子を見にきたのだが、やはり何時きても不快な場所だと思った。

キチママが住んでいる家はもともと叔母がサリサリストアをやっていた場所で、道端に面した場所に壁やドアはなく、刑務所の鉄格子のように外から丸見えになっていて、その奥に壁一枚挟んでせまいリビングと小さな寝室が一つあったが、家の中にいても下水の匂いが立ち込めていて、ほこりっぽくてアレルギー体質の私や娘はくしゃみが止まらない。

この狭いうちに今までキチママが買った家具の置き場所はないので全てキチママの兄一郎や従妹たちが住んでいる叔母の家の庭にゴミのよう積まれていたし、私がこれまで買ってあげた娘のおもちゃや三輪車などもそこに置かれてしまっていて、もう遊ぶことができない。

キチママは果たしてこんな生活を望んでいたんだろうか。

私と暮らしていた5年間は、少なからずフィリピンでも中流階級以上の暮らしはさせていたつもりであったが、その生活を捨ててこんな肥溜めのような場所での生活をキチママは選んだ。子供たちの健康や教育にだっていいはずがないのに。

これまでに私は何度か子供のどちらかを引き取らせてくれないかという交渉をしたが、もちろん、キチママからすれば養育費が取れなくなるからかずっと反対している。

フィリピンの法律上では、外国人の男性がフィリピン人の女性から親権を取ることは事実上不可能だと今までいろんな人に言われてきたので仕方がないと諦めているが、子供たちがあまりに不便で可哀そうだった。

移り住んだ最初のころは娘は外に出たがらなかったが、周りにいる子供たちがいつも誘ってきていたので、数週間後にはいっしょに遊ぶようになっていて、毎日夜10時くらいになるまで外で遊んでいるとキチママは言っていた。

以前からキチママは日中娘の面倒を一切見ないので、娘からすれば家にいるより友達と遊んでいたほうが楽しいということになるのは当然だったが、これは将来娘が非行に走ることが容易に想像できた。

4歳児が夜10時まで、しかもスラム街で遊んでいるのを全く気にかけない母親というのも、私からすればどうかしているとしか思えないのだが、それを言ったところでキチママは全く耳をかさなかった。

私が土日キチママの家にいるときはいつも娘と遊んで夜は遊ばせないようにしていたが、平日はキチママに携帯を渡されてゲームをしているか、外で夜遅くまで子供たちと遊んでいるようだった。

息子のほうも夜泣きをするようになってきて、娘の時もそうだったがキチママが泣き止まない息子を怒鳴り散らして最後は足を叩いたり、つねったりする場面があったので、私がいるときは「いいよ、俺見るから」と息子を抱っこしてキチママから遠ざけようとしたりしていたが、それすらも無駄な努力でしかないと思うようになっていた。

これまでキチママのワガママ、横暴に何も対処できずに、ただキチママの言うがままになって、子供たちをこんな危険で不衛生な場所に住ませてしまったのは、紛れもなく「自分の弱さ」だと、そのころから考えるようになり、無力な自分が嫌でしょうがなかった。


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