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【☎】『ベンチのためのPLAYlist2023』ベンチとテーブルが出会うとき(福留愛)

 吉祥寺シアターには、通りに面した25mほどの長いベンチがあり、いつも人が座っています。座るといっても長居するのではなく、多くの人は5分程度座ってすぐどこかへ行ってしまう、目的地というより通過点のような風通しの良いベンチです。

電話機とテーブルは、昨年4台、今回は3台設置しています。

 1年前、電話演劇のための美術の依頼をうけたとき、ベンチ周りに電話機を4台設置するということだけ決まっていました。電話機の配置検討をするうちに「日常的に使っている人が、電話をかけたくもなるし、電話をかけずにいつも通りベンチを使えるもの」にしたいと思いました。受話器のある電話機は、その形を見ると、片耳に当てて声を聞き、話すものだと分かります。一方、私たちの使うスマホは必ずしも電話をすること=受話器を持つことではありません。人々はお皿を洗いながら、洗濯物を干しながら、手放しに人と電話ができる。そうすると、わざわざ受話器を持って電話をするという行為は、電話をする人とそうでない人を切り分けます。だから、仰々しく電話ボックスのような設えをつくると、気軽に座ることのできるいつものベンチの性質が損なわれてしまうと思いました。
 そこで、いつも通りベンチを使えるのはもちろん、いままでの自由な使われ方を助長する「テーブル」をデザインしました。ベンチには普段、コンビニで買ったものを食べる人や、ただ座っている人、帰り道に数人で話し込むひとたちなどがいます。そこに「テーブル」が加わることで、絵を描いたり、宿題をしたり、PCを少し触ったりできます。「テーブル」には、電話機のための屋根がかけられ、屋根を支える丸太の樹種は1台ずつ変わっています。
 ベンチとテーブルが出会うとき、日常を送る人と、受話器から物語を聞いている人が隣り合って座ることができる。そんな風景をつくれたらと思います。

美術・空間デザイン 福留愛

2022年に作成された模型

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