転職の話その4
「あんたも、体に気をつけなさいね」
おばあさんが言った。旦那さんを癌で亡くし、息子は若くして過労によって亡くなった。19時くらいに書類に署名と印鑑を貰いに家へお邪魔した俺は、両足が痺れていた。ずっと玄関先でしゃがんだまま、世間話も同じ姿勢のままでいたからだ。外は暗く寒い。今日は10度位まで落ちるらしい。
「親より早く死ぬなんて、そんな辛いことないわよ」
確かにそうだ。自分を産んで大切に育ててくれた両親よりも早く死ぬなんてあり得ない。いや、息子さんは死にたくなかったとしても頑張りすぎて亡くなったのだ。そんな死に方は嫌だ。旦那さんと息子の話をしてくれている時のおばあさんの目は、少し赤くなっていた。息子さんは休む暇なくあちこち行って仕事をしていたらしい。ある時糸が切れてしまったのか。
「体が1番大事なんだから、あんまり無理しないでね」
転職の為の面接を2社受けたが、見事に落ちた。両社とも長期的な雇用が見通せない為、将来のやりたいことの明瞭さが無い為との事だ。やりたいことなんてない。あったら今この瞬間にやってるはずだ。やりたいことって何だよ。自分はどう生きるべきか。俺はまだ死ねない。
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