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[読書感想]旅屋おかえり/原田マハ



"旅屋"なんて素敵なお仕事なんでしょう。


旅屋とは、この本の主人公であるおかえり(本名・丘えりか)が始めた新しい商売の事である。
売れないタレントおかえりは、唯一のレギュラーであった旅番組「ちょびっ旅」での些細な、でも致命的なミスによって番組打ち切りの憂き目に合ってしまう。
その後すったもんだあり出会ったある人からの依頼ををきっかけに、その人の代わりに旅をする旅代行サービス事業を思い付く。

コロナ禍の今、海外旅行に行きたくても行けない人に向けてリモートで現地の人が代わりに買い物をしてくれて、後日その品を郵送してくれるサービスがあると聞いた事がある。
おかえり、先見の明があったね。
と言ってもおかえりの旅はリモートでリアルタイムに旅の様子を見せてくれる物では無いし、旅の成果発表の方法は依頼人によって様々だ。
ちょびっ旅風におかえりが旅をする様子をビデオに収めてきて欲しい。ある物をお墓に供えてきて欲しいなど。
どれも切実な想いがこもった大切な依頼である。


「いってらっしゃい」と送り出してくれて、
「おかえり」と迎えてくれる誰かがいてくれるから旅は完結するのだ。と、おかえりは言う。
おかえりの計算の無い純粋に旅を楽しむ姿が可愛らしく、そんなおかえりだからこそ旅屋を通して関わりを持った人々の心を解いていけるのだろうな。

この本を読み終わっても、おかえりの旅はまだまだ続く。
今日も何処かでおかえりは楽しく旅をして、誰かを笑顔にしている。なんだかそう思える。


コロナ禍で"旅"が身近な当たり前の存在では無くなってしまった今だからこそ、薦めたい。

未知の世界に飛び出す勇気や、
新しい物に触れる高揚感。
何かを始めるのに「遅すぎる」なんて事はない。忙しく騒がしい日々の中で忘れかけていた好奇心を、旅屋おかえりが思い出させてくれた。



2021年8月4日読了


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