匂いに釣られて

あまり悲しい雰囲気ばかり出していても辛くなってくるので、たまには趣向を変えてみようと考えていた。
以前にも書いたと思うが、ももの呼び名は40を超える。せっかくだからその由来について話してみるのも面白いかもしれない。
などと思案していると、ツイッターのタイムラインにたまたま「ペットの名前って変遷していくよね」というツイートが流れてきたので少し驚いている。

猫の嗅覚は人間の数万倍と言われているが、多分に漏れず、もももやはり鼻が利く猫だった。
ある時、姉がビーフジャーキーをアテに晩酌しているとどこからともなくももがやってきて、物欲しそうな顔を向けてきたそうだ。
確か4〜5歳くらいの頃で、おやつとして猫用ジャーキーを与えていた時期のことだが、何か似た匂いを感じ取ったのかもしれない。
「これはももにはあげられないよ、人間の食べ物だよ」
と姉が声をかけると、納得の行かない様子で姉の足に寄りかかって、しばらく晩酌に付き合っていたらしい。
普段は姉に向けてシャーシャーウーウー言うのに、一縷の望みに賭けて精一杯の愛想を振りまいたのだろうか。そういう行動をするというあたり、やはり猫は自分の可愛さをわかっているんだろう。

とにかく毎日のパトロールでもよく匂いを嗅いで回ったし、自分の好きな匂いを嗅ぎ取るといつの間にかその発生源にやってきては、触れそうなほどに鼻を近付けて(そして、時々実際に触れてしまうこともある)一心不乱に納得行くまで匂いを嗅いでいたりするなど、ももにとって匂いを嗅ぐという行為は大事な日課だった。
そして付いたあだ名が「クンスカ」だ。
読んで字の如く、くんすかくんすかと匂いを嗅ぐ様子がそのままあだ名になってしまったケースである。

ももは特に好きであると思われる匂いを嗅ぐと、口の周りをぺろりぺろりと舐める。そういった仕草を見せるのは食べ物の時ばかりだが、特に好きそうな反応を示したのは「かりんとう」だった。
砂糖がカラリと揚げられたあの香ばしい感じが好きだったのかもしれない。鼻先に持っていくと首を長くしてクンクンと一生懸命匂いを嗅いでいたし、熱が入ってくると白いクリームパンのような手で僕の手をガッチリ掴んで、あわよくば食べようとするほど、ももはかりんとうの匂いに執心していた。
そういえば「かりんとうドーナツ」という、とあるパン屋さんの名物にも同じようにしていた。
実際に与えたことはないが、少しくらい食べさせてあげてもよかったかもしれない、と時々考えたりする。そう思うとなんとなく可哀想なことをしていた気もするが、ヒゲをパーッと広げて、鼻を一生懸命くんすかくんすかと動かしている様子があまりにも可愛いものだから、それを見たさについやってしまうのだ。悪い飼い主だ。
今となっては健康に気を遣う必要などないから時々仏前に供えてやるのだが、そうすると視界の端にもものような影が映るので、もしかしたら匂いに釣られて帰ってくるのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?